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刹那、らんだまいず!  作者: めらめら
第4章 魔王たちの宴 
15/36

悪夢の二斎合体

「『獄炎大車輪(ごくえんだいしゃりん)禍雲蜘蛛(まがくも)』!!」

 冥条獄閻斎が『花殺め』を振って叫ぶ。

 体育館裏での死闘は続いていた。


「もっふー!」

 闇夜に吠えるエリンギが、獄閻斎めがけてモフモフした拳を振り下ろすが、


 (タン)


 着流しの老人は紙一重でそれをかわすなり、日本刀『花殺め』の刃先に回転する紅蓮の火ノ輪を揺らした。


 ぽぽぽぽぽ……


 見ろ。『花殺め』に撹拌されて空中に舞い散った紅の火車が、そのまま空中に制止すると、何段もの炎の階段(ステップ)を形作っていくではないか。その階段(ステップ)を、


 すたん。

 すたん。

 すたん。


 なんという妖しい光景だろう。

 着流しの老人が銀色の総髪を靡かせて、一足跳びに火ノ輪を踏みながら、炎の階段を上昇し、エリンギの頭部めがけて駆け上がって行く!


「なにぃ!」

 予期せぬ炎の術に、巨大キノコを頭部から操縦するアミガサ粘菌斎が驚愕の声を上げた。


「冥条流焔術、『獄炎登竜剣ごくえんとうりゅうけん』!」

 空中から獄閻斎が『花殺め』を振り上げてそう叫ぶと、


 ぼおおおおおお……!


 見ろ。日本刀の刀身から一際激しく吹き上がった紅蓮の火柱。

 刀身が、火柱もろともエリンギ向かって振り下ろされた。


「ぬううぅ! 舐めるな!」

 エリンギは図太い腕を振りかざし、刀を振り払おうとするが、


 ざしゅ!


 獄閻斎が振った刀身がその腕を一刀両断。

 『花殺め』はエリンギの肩口に深々と切り込まれた。


爆熱滅殺(ヒートエンド)!!」

 すかさず叫んだ獄閻斎。すると、


 ぼこぼこぼこぼこ! エリンギの巨体が、内側から炎で熱され、泡立ち、膨れ上がっていく!


「まずい! 脱出!」

 炎で膨れていくエリンギの頭部で、慌てふためいた粘菌斎が己が半身を巨大キノコから引っこ抜く。

 ぴょん! 地上向かって跳躍し、己がキノコから脱出した粘菌斎。次の瞬間、


 ぼぼーーーーん!

 

 エリンギの巨体が、真っ赤な炎に内側から引き裂かれ爆裂。粉々に四散したのだ。


「おのれ、わしの茸の子を~!」

 空中で炎に包まれたエリンギの破片を振り払いながら、粘菌斎は怒りに燃える目で獄閻斎の姿を追った。

 獄閻斎はどこだ? 右か。左か。辺りを見回す粘菌斎が、ふと地上に目をやると、


「うおおおお!」

 粘菌斎の菌状腫が驚きに震えた。

 獄閻斎が居たのは既に地上。怪忍者の落ち行く先。

 空中で制動の効かぬ粘菌斎めがけて、狙い定めた『花殺め』は既に打突(だとつ)の構え。


「いかん!」

 咄嗟に樫の杖を構えて迎撃の構えを取ろうとした粘菌斎だったが、遅かった。


 ずぶり!


 獄閻斎の『花殺め』が、落下してきた怪忍者の左胸を、心の臓の在る個所を、正確無比に貫いたのだ。


「『きのこ忍法』……! なかなかの術じゃったが、きのこは美味しく頂くもの! そう心得て地獄に去ね!」

 空中で刺しとめられてヒクヒクと痙攣する粘菌斎向かって、着流しの老人は厳しくそう言い放った。

 だが……その時!


「ふしゅしゅ! 無駄じゃ老いぼれ!」

 なぜだ! 左胸を刺されたはずの粘菌斎が不敵に笑いながら顔を上げた。


「ばかな! 心臓を貫いたはず!」

 愕然とする獄閻斎を更なる怪事が見舞った。


「心臓なんて! もとから無いのじゃーー!」

 粘菌斎がそう叫ぶと、突如、


 ドロリ。


 『花殺め』に刺し貫かれた怪忍者の体が、まるで焚火に焙られたまマシュマロの如く泡立ち、液状に崩れ流れだした。

 

 そして、


 スポーン!


 粘菌斎の頭部が、まるでバネ仕掛けの海賊玩具の如く、空中高く跳ね上がったのだ!


「ななななな……!」

 怪忍者のあまりにも意味不明なモーションに一瞬茫然自失。

 身動きできない獄閻斎に、


「ふしゅしゅ! きのこ忍法『跳ね(がしら)』! あーんど……」

 粘菌斎の頭部がそう言って笑いながら、菌状腫をフルフルと不気味に震わせて獄閻斎の頭にめがけて落下し、覆いかぶさってきたのだ。


「きのこ忍法『魔胆伍(またんご)』! 貴様の体、このわしがそっくり頂いた!』」

 ぷちぷちぷちぷち! 粘菌斎の頭部から伸びてきた無数の菌糸が、獄閻斎の銀色の総髪に絡まりついて、老人の頭部に接続されていく!


「ぐぎゃ~~~~! 気色悪いーー!」

 恐怖の叫びをあげて、必死で頭を揺らして、粘菌斎を振り落とそうとする獄閻斎であったが……


 ドロリ。


 地上から獄閻斎の足に絡みつき、彼の動きを阻むものがあった。

 先ほど『花殺め』に刺し貫かれ、溶けて崩れた粘菌斎の胴体。プルプル震えたピンク色の粘塊(ブロッブ)であった。


「う……うがーーー!」

 なんというおぞましさよ。その体はおぞましい粘塊(ブロッブ)に絡め取られ、頭部を粘菌斎の菌糸で繋がれた着流しの老人が、恐怖と絶望の呻きを上げた。


 なんたる凄惨な忍法か!

 アミガサ粘菌斎。この奇怪な老忍者は、そもそもヒトの体すら持ち合わせていなかったのだ。

 老忍者の肉体は、彼が名乗った斎号に偽りなく、巨大な粘菌の塊だったのである。

 そしてその粘塊ブロッブを、人間状に変形させて自在に操っていたが彼の本体。頭部を模したアミガサダケだった。

 粘菌斎はそういう忍者なのだ!


「ふしゅしゅしゅ! さっき何でも喰えると言ったな! ならば、このわしを喰らえ~~!」

 勝利の凱歌を上げて粘菌斎が嗤う。


 次の瞬間、


 ぽんっ!


 粘菌に絡めとられ頭部に菌糸を接続された獄閻斎が、白い煙に包まれた。

 煙の中から姿を現したのは、頭部の菌状腫を震わせた怪忍者アミガサ粘菌斎。

 だが見ろ。

 先ほどまで曲がっていた足腰は今ではシャッキリと伸びて、もう樫の杖をつく必要もない。

 その身の丈は裕に六尺を超える、筋骨隆々とした偉丈夫に変わっているのである。

 老いてなお強靭な身体能力を有した獄閻斎の肉体を、怪忍者が、乗っ取ったのだ!


「ふむう! 本当ならもっと若い身体がよかったが、老いぼれの割には、なかなかのスペックじゃ。しばらく、この身体でよいか!」

 全身をコキコキ動かしながら、パワーアップした怪忍者はそう呟いた。


「さてと、小娘を追うとするかの!」

 焔術を極めた着流しの老人の体を乗っ取り、いまや獄炎(ファイヤー)粘菌斎と化した粘菌斎は、彼らの本来の標的、炎浄院エナを追うべく校庭向かって走り去っていった。


  #


 夜の帳の降りた校庭で、


「せつな! 覚悟ーー!」

 月光に煌めく匕首を握って、忍者少女(ほむら)が、せつなに迫ってきた。


「まて! 焔! 今はそれどこじゃないって! エナーー!」

 焔の刃をかわしながら、スペースシャトル『震電』を見上げるせつな。

 機上にはエナを蛸足で捕えた宿敵、大月教授が卑猥に嗤っているのだ。


「はなせ! はなせーー!」

 教授に捕まったエナは、空中で手足をジタバタさせて、蛸足から逃れようとする。


「ふむ……あの女(・・・)に呼ばれて娑婆に出たはいいが、ここは、学校?」

 エナを宙吊りにした教授が、辺りを見渡し一人ごちる。


「とりあえず、あのしつこい刑事を始末するか!」

 そう言って、己が触手で握った先を検めた教授だったが、


「げげ! 間違えた! こいつメイアじゃない……あの時の……JK!」

 エナを間近にして教授の顔が、一瞬恐怖で歪んだ。だが……


「しかし妙だ……『力』は感じないし、いでたちはJC? これは……『力』を封じられている?」

 首を傾げた教授の顔に、みるみる卑猥な笑みが戻ってきた。


「くけけけ! だったら好都合。あの時(・・・)は世話になったな小娘! たっぷりとお返ししてやるぞ! 倍返しだ!」

 そう言って教授は己が蛸足をエナの四肢に巻きつける。

 にょろにょろにょろ~……

 エナの胸元に、太ももに、教授の粘ついた触手が這ってきた。


「あははあぁああ! たっぷりとイタズラしてから始末してやるぅ!」

 勝ち誇り、卑猥に嗤う教授。だが、


「イ……、イヤーーーーー!」

 宙吊りにされたエナが涙目でそう叫ぶと、


 ゆらん。


 次の瞬間、エナの体から、緑色の光の奔流がゆらぎ出て、教授の体をうったのだ。

 すると……


「ヒッ!」

 教授の悲鳴。光にうたれた教授の頭部が、一瞬で倍ほどに膨れ上がって、


 ボーーーーーーン!


 なんと、内側から爆ぜて、粉々に四散したのだ。


 べちゃり。

 弛緩した教授の身体が、『震電』のデッキからずり落ちて、校庭に転がる。

 エナもまた、触手から解き放たれて地面に投げ出された。


「うげぇ~~~!」

 校庭に蒔き散らされた教授の血と脳漿に、せつなが悲鳴を上げる。


「そんな! あたしのホシがー!」

 追跡していた獲物の突然の爆裂にメイアもまた愕然。


「うそ! あ……あたしに、こんな『力』があったなんて……」

 教授の体液でその貌を紅く濡らしながら、エナは茫然とした表情で自身の両手を見た。

 血染めの両手からは、なおも不気味な緑色の光が、ゆらゆらと揺れ立っているのだ。


「エナちゃん、ようやく『目覚めた』のね……」

 不意に鈴を振るような澄んだ音で、エナを呼ぶ声が聞こえた。

 と同時に、闇夜の校庭に腐った魚のような悪臭が充満した。


「この刻を待っていたの。忍者を使って、術であなたを責め苛めば、いつかは『本当の自分』にたどり着くはず……」

 そう言って『震電』の機体の影から姿を現したのは、月光に煌めく水晶の短刀を携えて灰色のローブに身を包んだ、声から測るに一人の女だった。


「まあ結局、あの男(・・・)を使った方が、早かったみたいだけどね……」

 灰色頭巾はローブを揺らしながら、校庭に転がる教授の死体を一瞥。楽しげにそう言った。


「けろけろ、う~~」

 闇にまぎれて女の背後にひしめいているのは、先程昇降口で甦った、何十体もの魚人の群れだ。

 

「『すきすま』様! あなたが、なぜここに!」

 せつなを追いかけまわしていた忍者少女、焔が驚きの声を上げる。

 現れたのは焔たち甲賀衆の『依頼者(クライアント)』。

 女が名乗るところの『すきすま』だったのだ。


「ごくろうだった、甲賀衆。お前たちは役目を果たした……」

 焔を向いて、灰色頭巾の『すきすま』が、冷然とそう言った。

 そして、ばさり。おもむろに、己が身体を覆った灰色のローブを脱ぎ捨てると……


「おまえは……!」

 せつなは息をのんだ。


「そんな! あなたは!」

 エナが驚愕の声を上げる。


 ローブの下から現れたのは漆黒のセーラー服。

 夜の闇に溶け込むような長い髪。月光を銀色に反射する白磁の肌。人形のような凄絶な美貌。

 立っていたのは、夕霞裂花(ゆうがすみれっか)だった。


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