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刹那、らんだまいず!  作者: めらめら
第3章 ヨグ=ソトースの影
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クウガVSカブト

「琉詩葉! お前の術で、こいつをやっつけるんじゃ!」

 着流しの老人が日本刀『花殺め』で弦之助を指して、校舎の窓から顔を覗かせた孫の琉詩葉に向かって叫んだ。


「わかってるって、お祖父ちゃん! まったく孫使いが荒いんだからー!」

 琉詩葉がそうボヤキながら、校舎の三階から身を乗り出すと、


 とん。


 なんと、窓から一跳び。校庭向かってその身を投げた。

 空中の琉詩葉が、腰から下げた錫杖を構えて、


「冥条流蠱術、『ダーク・ビートルⅡ』!」

 紅髪を逆巻かせて、そう叫ぶと、


 ずずずずずず……


 校庭を渡る地鳴り。そして、


 どかーーーん!


 爆音とともに校庭にあいた大穴から空中に飛び出した巨大な影。

 影は校庭に落ち行く琉詩葉の体をすくいあげると、ぶずぶずと不気味な唸りを上げながら、そのまま空中に静止した。


「おまたせお祖父ちゃん!」

 影の上から琉詩葉の声。

 おお見ろ。琉詩葉が乗っていたのは、変身した弦之助に勝るとも劣らぬ巨大な体躯の、カブトムシだった。

 だがよく見ればその体には、ただの昆虫には無い異彩があった。

 黒々とした甲殻の各所を覆っているのは青銀色に鮮やかに輝いた金属装甲板。

 そして金属装甲に包まれたその腹部から地上に睨みを効かせているのは、長大な二門のカノン砲。

 尋常のカブトムシではない。メカブトムシなのだ。


「プルートウ・改! ただいま参上!」

 メカブトの鼻先で手綱を引いた琉詩葉が、得意気にそう叫んだ。


 これが、冥条琉詩葉の能力だった。

 その理由は定かではないが、代々、様々な異能、妖術の才に恵まれた武蔵の名門、冥条家。

 その末裔である琉詩葉が生まれ付きに備えていた能力は、一族の中でも特に異彩を放つものだった。


 『蟲使い』


 冥条家に代々伝わるアメジストの錫杖『召蠱大冥杖しょうこだいめいじょう』を振ることで、異界から様々な妖虫を召喚して意のままに使役させる。その能力柄、グログロな戦いになりがちなので琉詩葉の参戦を嫌う者も多いが、幼少時より色々な虫どもに馴れ親しんできた琉詩葉本人は、そんな事、一向に気にしていなかった。


「さあプルートウ! やっつけるよ!」

 琉詩葉が手綱を握りながら、不敵に笑う。

 『ダーク・ビートルⅡ』。

 聖痕十文字学園の地下深く広がる大神殿『十文字蠱毒房じゅうもんじこどくぼう』の王者にして学園の守護神。

 巨大カブトムシ『プルートウ』を召喚し使役する。

 冥条琉詩葉の、現時点での最強蠱術だ。

 だが、世界の平和を乱すために次々と学園に襲いくる様々な敵と戦いを続ける中、最強の『プルートウ』も傷つき、疲弊していった。

 そして、つい先日学園に現れた暗黒邪龍『棲舞愚(すまうぐ)』との戦いで、そのダメージは決定的なものとなった。

 辛くも邪龍を討ち果たしたプルートウと琉詩葉だったが、棲舞愚の必殺技『邪殺哮紅蓮爆炎覇じゃさつこうぐれんばくえんは』の直撃を被ったプルートウは、全身の甲殻が引き剥がれ、爆発四散してしまったのだ。

 戦友の死に肩を落とす琉詩葉を見て、祖父の獄閻斎は一計を案じた。

 バラバラになったプルートウの破片を探し集め、自宅『冥条屋敷』のガレージで、組み立て、改修を施工。そのボディに新たな命を与えたのだ。

 若い頃は『車両整備の鬼』『神腕の凛ちゃん』なる異名を馳せた、凄腕メカニックの獄閻斎である。

 戦いで失われた甲殻や欠損した脚は、獄閻斎自らが設計、製造に携わったメカトロニクスの粋『ムーバブル・チョバムアーマーシステム』を用いた機械骨格と金属装甲(メタルアーマー)で代替している。

 無防備だった腹部には防御と長射程砲撃を兼ねた二門のカノン砲『インファナル・サンダー』を装備。

 かくして機械の体を得て復活、パワーアップを果たしたメカブトムシ『プルートウ・改』は、いま再び琉詩葉とともに、学園に襲来した怪忍者、空我弦之助を迎え撃ったのである。


「ぴきゅぴきゅ!」

 突然、琉詩葉の胸元のブレザーとワイシャツの隙間から、何かが顔を覗かせた。

 蛇だ。だがよく見ると体型が変だ。その全身を金色の鱗で覆われた、蛇と言うにはなんだかコロコロとした胴体の、奇妙な生き物なのだ。


「よしよしノコタン。 そこで見物してな!」

 琉詩葉が胸元の生き物にそう言って笑いかけた。

 『ノコタン』。琉詩葉のペット。小さな、金色のつちのこ。

 

 蟲しか召喚できないはずの琉詩葉が、何の弾みか? 誤って異界から呼び出してしまった、ゴールデンつちのこだ。

 今では、すっかり琉詩葉に懐いてしまったのだ。


「カブトムシだと! 生意気な!」

 地上の弦之助が、突如現れたライバルの姿に敵意をむき出しにして空を仰いだ。


「最初からクライマックス! プルートウ! インファナル・鉄槌(ハンマー)!!!」

 琉詩葉がプルートウの手綱を引いてそう叫んだ。


 ぱくん。


 そそり立ったプルートウの角先が二つに割れて、中から姿を現したのは、金色の光を滾らせたビーム砲門!

 空中のプルートウがクワガタに角先の照準を合わせた。

 

 びゅーーーーーーーん


 間髪入れず、砲門から放たれた金色のビームが、地上の弦之助向かってまっすぐに飛んでいく。

 プルートウの必殺主砲『インファナル・鉄槌(ハンマー)』である。

 その砲門から放たれる超高出力光子ビーム『フォトン・ブラスター』の直撃を受ければ、地上のいかなる物質も、分解、消失を免れない。

 早くも勝負は決したか? 手に汗握る獄閻斎。だが……


 しゅしゅしゅしゅしゅ……


 なんだこれは? 獄閻斎が目を瞠る。

 弦之助が変身したクワガタの口もとから生えてきたのは、怪しげに赤く輝く幾本もの、微細な触手だった。


「干渉波!」

 弦之助が叫ぶ。フォトン・ブラスターは、冥府の鉄槌はすでにクワガタの目前。だがその時、


 しびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅ……


 金色の閃光は、クワガタの鼻先で四散。まるで見えない衝角に切り裂かれたように、辺りに飛び散っていく。

 弦之助がのばした赤熱鞭(ビュート)の合間から放たれた電磁波が、プルートウの『インファナル・鉄槌(ハンマー)』を分解、無効化してしまったのだ。


「しゃらくさい! 待ってろカブト!」

 弦之助、怒りに燃える目で空中の琉詩葉を睨むと、

 ばくん。背中の巨大な鞘羽を広げると、凄まじい勢いで翅を羽ばたかせて宙に浮くと、琉詩葉とプルートウめがけて飛んで行くのだ。


「また空中戦(ドッグファイト)か……。いいよ!!」

 迎え撃つ琉詩葉、プルートウの手綱を大きく引いた。

 びゅんっ! メカブトのボディの各所に配置された推進装置(スラスター)が唸りをあげて、プルートウは急加速。

 大空高く舞い上がった。


「逃がすかあ!」

 追いすがり、上昇する弦之助。


「よし! がんばれ琉詩葉!」

 地上の獄閻斎は、孫の琉詩葉を応援しながら、ただ大空の大昆虫空中決戦を見守るしかなかった。


 だが、その時……


「ひぎゃあああああああああああああああ!」

 学園の体育館裏の方から、絹を裂くような少年の悲痛な叫びが聞こえてきた。


「あの声は……雨少年!」

 翻る獄閻斎。

 そう、敵は弦之助だけではなかった。

 魚面の怪忍者、陀厳状介は獄閻斎自らが討ち果たしたものの、まだこの地上に残っているのは、雨少年と刃を交えているはずのアミガサ粘菌斎。

 そして、せつなとエナを追ってこの場から消えた、業火滾らす美貌の忍者少女、焔。


「琉詩葉、ヤツは任せたぞ! 逃げのびろ、探偵! 待っていろ、雨少年!」

 着流しの老人は改めて剣を携えると、ピンチの雨を救うべく体育館裏めがけて駆け出した。


  #


 空中での戦いは続く。

 猛スピードで上昇していくプルートウのその背後を、ぴたりと取った弦之助。


 びゅん! びゅん! びゅん!


 クワガタの鋏の間から放たれた青白光線『マイクロ波シェル』がカブトのすぐ傍を掠めていく。


「プルートウ! インファナル・雷撃(サンダー)!!!」

 必至でシェルをかわしながら、琉詩葉がプルートウにそう叫ぶと、


 どん! どん! どん!

 

 カブトの腹部のキャノン砲が転回。弦之助に照準を合わせると次々にクワガタの体に砲撃を浴びせていく。

 だが結果は、地上での砲撃と変わらなかった。

 クワガタの正面を漂う赤熱鞭(ビュート)から形成される電磁障壁に触れるや否や、ビーム砲、実体弾の別を問わず、プルートウの攻撃は無効化、消滅してしまうのだ。


「覚悟しろ! カブト!」

 ついに弦之助が、プルートウの背面に追いついた。


「レッド・ロッド!」

 弦之助が叫ぶと、クワガタの正面の赤熱鞭(ビュート)が一瞬縮まり、渾身の溜めを作るや否や、


 びす! びす! びす!


 プルートウ向かって次々に飛んでいくと、鋭く尖った触手の先端で、カブトの体を、その金属装甲ごと刺し貫いていく。


「グギャーーーン!」

 プルートウが苦悶の声を上げる。


「うああああああ!」

 琉詩葉もまた悲鳴を上げた。

 弦之助の放った赤熱鞭(ビュート)は、プルートウのみならず、その鼻先で甲虫を操縦する琉詩葉の右肩をもまた、貫いたのだ。


 がくん。プルートウが空中で失速した。


「捕まえたぞ! 死ね!」

 プルートウを捕えた弦之助。クワガタの力強い六本脚が、カブトの胴をガッキと掴んだ。


 びゅびゅびゅびゅ……


 琉詩葉の目の前で、クワガタの鋏の間に青白い光が収束して行く。

 ゼロ距離で己が必殺技『マイクロ波シェル』を放つつもりなのだ。


「くっ! させるか!」

 琉詩葉が苦悶の表情で、のたくる赤熱鞭を自分の肩から引き抜くと……


 ぴょんっ!


 なんと、プルートウの鼻先から降虫すると、弦之助の鋸の先端に飛び降りるなり、さらに空中を跳躍。

 クワガタの頭部に降り立ったのだ。


「小娘が鬱陶しい! 下りろ!」

 琉詩葉の咄嗟の跳躍に混乱する弦之助を振って彼女を振り落とそうとするが、


「へっ! 小さいからって舐めんな!」

 琉詩葉は左手で必死で弦之助の頭部にすがると、腰から下げたアメジストの錫杖『召蠱大冥杖』に右手に構えるなり、


 ぐさり!


 錫杖が、弦之助の真っ赤に光った左眼に、突き刺さった。

 

「ぐがああああああああああ!」

 空中で苦痛にもだえる弦之助に……


「冥条流蠱術、『ダーク・レギオン・フルバースト』!!!」

 クワガタの眼に錫杖を突き立てたまま、琉詩葉が叫ぶ。


 次の瞬間!


 ぶじゃあああああああ!


 クワガタの、左側頭の甲殻が砕け散った。


「ぐぎゃあああああ!」

 弦之助の悲鳴。

 なんと、砕け散ったクワガタの頭部の内側から湧いてきたのは……


 蟲だった。


 クワガタの緑の血と肉片に混じって弦之助の内から湧きあがるのは、わんわん羽音を立てて黒煙を成す琉詩葉の徒。

 灰色の、羽虫だったのだ。


 『ダーク・レギオン・フルバースト』!

 異界より人喰い羽虫の軍団を呼び寄せて敵を襲わせる冥条流蠱術『ダーク・レギオン』。

 弦之助の配下で先日せつなと戦った甲賀衆、蟲塚小四郎の火星忍法と系列を同じくする陰湿蠱術であるが、琉詩葉は、この技をさらに一歩進めたのだ。

 錫杖『召蠱大冥杖』から、敵の体内に直接羽虫の雲霞を注入し内側から破裂させる禁断の技。

 人間相手の立ち合いでは禁じ手の、冥条琉詩葉最凶の近接蠱術であった。


 地上最強の昆虫忍者も、内側から頭部を破壊されては絶命は免れないか?

 クワガタの体がぐったりと弛緩すると、その翅の羽ばたきが止まる。


 弦之助の体は、赤熱鞭で彼につながれた傷ついたプルートウ、そして、必死の表情で鋸にしがみついた琉詩葉もろとも、地上へと落下して行った。


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