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第98話 新しい生活

前回までのライブ配信。


ルキヴィスと『闘神』ゼルディウスが戦う。しかし途中で親衛隊長官のビブルスに止められる。


ゼルディウスが去ったあと、ルキヴィスは攻撃が効いたのは何度か当てた中の1度だけと告げる。アイリスはこれまでの経験により、魔術を身体に宿す者は筋力が強化されているのではないかと考える。


ルキヴィスは1度効いた攻撃から、ゼルディウスを攻略できるかも知れない『カウンター』の考え方をアイリスに伝えるのだった。

 朝。

 今日から皇子の護衛を中心にした、新しい生活のスタートだ。


 ≫お、起きたか≫


「おはようございます」


 珍しく起きてすぐにコメントがあった。

 マリカを起こさないように小声で挨拶する。


 さて、今日は朝からカトー議員のところにお邪魔することになっている。

 男装のためだ。

 男装のあと、皇子の護衛に向かうことになる。


「さてと」


 私はベッドから降りて用意を始めた。

 用意をしながら昨日のことを思い出す。


 昨日はルキヴィス先生にカウンターを教わってから、カクギスさんに『突風の魔術』を説明した。


 突風の魔術はカクギスさんにとって理解が難しいらしい。

 まずは分子や気体のブラウン運動を理解しないといけないからな。

 すぐに理解できたマリカが異常なのかも。


 あと、私の方もカクギスさんから『魔術無効(アンチマジック)』と『空間把握』をよくやく教わることが出来た。


 普通の『魔術無効(アンチマジック)』すら使えないのに、と思ったけどあまり関係ないらしい。


 元々、ローマで使われている魔術無効(アンチマジック)の理屈は簡単で、魔術の発動を中途半端にするというものだ。


 カクギスさんの使う魔術無効(アンチマジック)はこの理屈を1つか2つ進めたものらしい。


 進めたと言っても、話はそんなに難しくない。

 まず、自分の中心から広がるように風を起こす。

 風は人が気付かないレベルの弱いものでいい。

 この風を全体として認識する。

 基本的にはそれだけだ。


 風に意識を同調することで隅々まで空間把握もでき、中途半端に限りなく近い形で魔術も発動してるので魔術無効(アンチマジック)も出来る。


 カクギスさんが師匠から習った秘伝だそうだ。

 無意識でも使えるようになるには長い年月が掛かったらしい。

 剣術メインで戦うなら強力な魔術だと思った。


 そんなことを思い出しながら、薄暗い中マリカの方を見た。

 スースーという寝息に合わせて身体が動いている。


 マリカは親衛隊に協力するということで意見がまとまった。

 彼女の酸素を見る力で『蜂』の連絡サインや居場所を特定するという話になると思う。


 協力したいと思った理由は、よく理解できるものだった。


 家族が何故殺されたか。


 あと、自分やお母さんが何者なのかということを知りたいらしい。

 親衛隊長官のビブルスさんが真面目そうな人だったことも、協力することに決めた理由の1つみたいだ。


 損な役回りばかりなビブルス長官だけど、報われてよかったね!


「……もう起きてるの?」


 そのマリカが起きた。

 彼女は朝弱いのでぼーっとしている。


「うん、おはよう。これから出掛けるからよろしく」


「……あ、そうか。いってらっしゃい」


「いってきます」


 私は部屋から出た。

 ゲオルギウスさんたちを見掛けたので彼らに挨拶してから、カトー議員の家に向かう。


 カトー議員の家に着くと、ずらっと人が並んでいて驚いた。

 全員が男性だ。

 彼らを横目にして、門を通り抜け入っていく。


 お手伝いさんに挨拶すると、彼女が私をラデュケのところまで案内してくれるみたいだ。


 カトー議員が並んでいた人たちと順番に挨拶しているのが見えた。

 何だろう?


「常識的なことかも知れないですけど、カトー議員は何をされているんですか?」


「支持者の方々とご挨拶されています」


「そうなんですか。ありがとうございます」


 選挙活動みたいなものだろうか。

 大変だな。


「おっはようございまーす!」


 突然のこの声とノリ。

 ラデュケだ。


「おはよう。今日はよろしくラデュケ」


「『今日は』なんて言わないでくださいよぉ。ずっとよろしくです」


 私の手を取りながら言ってくる。


「はいはい」


「えー。返事が投げやりですよー」


 周りに居たお手伝いさんたちに暖かい目で見られつつ、私は着替えのための部屋に入っていった。


 男装が始まる。


 さて、どうするんだろう?

 前にある鏡を見る。

 どう見ても私は女性だ。


 そんな私の疑問を解消するかのように、ラデュケは手際よく作業をこなしていく。


 頬や首を筋張らせるようなメイク。

 鼻筋を通すみたいなメイク。

 眉を太めでキリッと。

 なにか作業されるたびに男っぽくなっていく。


 髪は編み込まれてショートにされた。


「前髪とサイドを少しいじっていいですか?」


「うん」


 髪も光沢が消えてくすんだようになる。

 動きを出す。

 遊ばせる。

 等々されてイケメンっぽくされた。


「ずいぶん私好みになってきましたけど、目つきがもうちょっと鋭い方がいいんですよねえ」


 ≫お前の好みかいw≫

 ≫テープでリフトアップとかダメなの?≫

 ≫粘着テープとか出来たの最近だから≫

 ≫発明はエジソンと出てきたぞ? マジか?≫

 ≫ゼラチンと布で作ろうぜw≫

 ≫男装のために粘着テープが発明されちゃうw≫

 ≫歴史に残るやつだw≫


 言われてみるとこっちでテープを見てないな。

 簡単に作れるのなら治療とかで役に立つかも。


 でも、『アイリスが男装するために発明された』みたいな話が残るのは絶対イヤだ。


 ≫顔の筋肉制御でリフトアップできないか?≫

 ≫そもそもリフトアップってなんだよ?≫

 ≫『肌伸ばす』って美容用語だw≫


 あ、筋肉の制御か。

 それなら出来るかも。


 まず鏡を見ながら自分を睨むようにしてみた。

 動いてる筋肉を観察して、その筋肉を電気で動かす。


「ラデュケ。これでどう?」


「――え? どうやったんですか! 良いです! 良いです! とても良いんですけど眉と一緒にもうちょっと鋭く出来ません?」


 更に周辺も突っ張らせると、目が少し細くなった。

 眉もキリッとなる。


「これですこれです。最高です。理想の美少年です! 低めの声を出してみてください。『ラデュケ、かわいいよ』。これでいいですから!」


 ≫欲望丸出しだなw≫

 ≫ここまでストレートだと逆に好感持つわw≫


「ラデュケ、かわいいよ」


「……演技下手ですね」


 くっ……。

 ラデュケが言えって言ったのに……。


「あー、嘘です嘘です。その顔で(にら)まれると乙女のハートにダメージ来ますって! もうちょっとだけ自然な感じが良いなーくらいの意味なんで! アイリスさんの普段の声を低くしたような感じでもう1度お願いします」


 ≫めげないなw≫

 ≫強いw≫

 ≫声はノド締めて出すと痛めるから≫

 ≫感じはそのままに胸に響くように発声して≫ 

 ≫なんだ? 何者だ?≫

 ≫ボイトレ受けてるだけの視聴者≫

 ≫なんでも居るなw≫

 ≫響かせるのは胸っていうより肺全体にかな≫


 ボイトレ経験者まで居るなんて……。

 えーと、肺全体に響かせる感じだっけ。


 あと、さっきは照れて棒読みっぽく言ったのがいけなかったのかも知れない。

 今度は照れずにやってみよう。


 私はラデュケを見つめて笑いかけてみた。

 最初は『なんですか?』みたいな顔をするけど、それでもずっと見続ける。

 すると彼女の視線が外れ(まばた)きが増えた。


 かわいいところもあるんだな。


「――ラデュケ。かわいいね」


 あ、肺をイメージして全体に響くように声を出したらほんとにノドが締まった感じがしない。

 面白いな。


 発声に感動して、ふとラデュケを見てみると、彼女は固まっていた。

 私の視線に気づくと、急に気を取り直す。


「い、今のもう1度」


「そう言われても無理だから」


 肺に響くように声を出す。


「くぅ~。良いですね。いけない道に目覚めそうです」


「いけない道って」


 苦笑いをしてしまう。


「ともかく、これで私好みの美少年の完成ですね! 最高傑作です!」


「そこまで頼んでないんだけど……」


「あっ、目を逸らしながら『頼んでねえけど……』って言って貰えますか?」


「イヤ」


「うぅ。でも、美少年にあしらわれるのっていいですね……」


 ダメだ、この子!


 こうして私は男装を終え、カトー議員の邸宅をあとにした。

 最後にカトー議員の婦人であるルクレティアさんがやってきて喜んでくれたことが救いか。


 さてと。

 また大通りを歩いて行ってみようかな。


 皇宮までだけど、今度も大通りを歩いて行くことにした。


 兜は着けずに鎧だけ着ている。

 女性っぽくしないように、と心がけてる自分が面白い。

 大股でガシガシと歩く。


 心持ち手の動きも大きくなってる気がする。

 ただ、見られるということはなかった。

 男装が終わったあと、視聴者にも見て貰ったけど、興奮するというよりは感心してるみたいだったのでそういうものかな?


 皇宮に着き、親衛隊の人にビブルス長官を呼んで貰う。

 ジロジロと見られたがそこは気にしない。


「おはようございます。ビブルス長官。本日からお願いします」


「待たせたね、ラピウ――」


 言い終える前に長官は固まった。


「ほ、本当にアイ――ラピウスかね?」


 長官の言葉で親衛隊の兵士が柄に手を掛ける。

 私に向けていつでも攻撃できるように、前膝に『支点』を作っている。

 これが攻撃の気配ってやつかな。


「ラピウスです。昨日、マクシミリアスさんと一緒にいたビブルス長官」


「そ、そうか。そうだよな。納得した。着いてきてくれ」


「はい」


 皇宮の中に入る。

 途中、いろんなところに『蜂』との戦いの(あと)が見えた。

 しばらく歩いて待合室のような場所に通される。

 初めて入る部屋だな。


「――アイリスか?」


 私を見たエレディアスさんの第一声はそれだった。

 この部屋にはビブルス長官とエレディアスさんしかいないので名前を呼ばれても問題ない。


「いえ。ラ、ピ、ウ、ス、です。本日よりお願いします。エレディアス隊長」


 ひと睨みしてから言った。

 アイリスとは呼ばせない。


「悪かったよ、ラピウス。それにしても()けたね。女は怖いと言うが……」


「女ではありません。話を先に進めましょう」


 私がキッパリ言うと、ビブルス長官が苦笑した。


「尻に敷かれているな」


 そうして、今日のスケジュールや私の役割を話す。

 あくまで私はアーネス皇子の護衛らしい。

 夕方になればエレディアスさんと交代できる。


 続けて私はビブルス長官に『マリカが協力したいと言っている』ことを伝えた。


「もし彼女に危険なことをさせる場合は私も一緒に行動させてください」


「彼女が危険な任務に就けないようには釘を刺さないんだな」


「彼女には何も言われてませんから。それを尊重したいです」


「そうか。良い友人のようだな」


「はい。あと、もう1つよろしいでしょうか?」


「何かな」


 カトー議員にマリカが親衛隊に協力することを話していいか聞いた。

 理由も聞かれたけど、彼も巻き込んだ方がいいからと答えておく。


「分かった。そういうことなら話してくれ。とりあえず、話はそれだけか?」


「はい」


「それでは、ここからのことはエレディウスに一任する」


「はっ! 承知いたしました!」


 ビブルス長官は忙しいのか去っていった。

 私はエレディウスさんに連れられてアーネス皇子の元へと連れて行かれる。


 皇子の住む邸宅に着く。

 相変わらず豪華だった。


「よく来たな、ラピウス! 待ちわびていたぞ」


 玄関口で待っていると皇子がやってくる。

 変わらずラピウスとしての私に友好的だ。


「勿体ないお言葉ありがとうございます。アーネス皇子。本日よりお願いします」


「そんなに固くならないで良い。それにしてもラピウス。素顔を初めてみたがずいぶんと整った顔立ちをしているのだな。これは将来、エレディアスもうかうかしてられないぞ」


「うかうかって何に対してですか……」


「はっはっは。ラピウスもこのように軽口を言ってくれて構わないからな」


「ま、前向きに頑張ります」


 その後、エレディアスさんは去っていった。

 去っていったからといって皇子と2人きりという訳じゃない。

 執事のような人がずっと傍にいるし。


「ネストル。今日の予定はどうなっている?」


「はい。本日は――」


 思ってたよりも来客が多い。

 皇子としての仕事だろうか?


「内密の話だが、現在皇帝は病に伏せっておられる。代理でこのような公務も多い」


 あ、皇帝を見かけないのはそういう理由があったのか。

 ともかく、皇子は午前中だけで3人の来客をこなしていった。


 私は表情を維持するのが疲れるので、誰も私を見ていないときは目つきを元に戻していた。


 そして、あまりにもすることがない。

 私は罪悪感を持ちながらも、カクギスさんに教えて貰った魔術無効(アンチマジック)の練習をすることにした。


 室内だと何か失敗したときに問題になるので、邸宅の外に意識を飛ばして練習した。

 完全にそっちに集中するという訳じゃなくて半分くらい意識を向けている。


 何かあったときのために来客に視覚をぼんやり合わせていた。

 変な動きがあれば察知できるはず。


 そんな感じで魔術無効(アンチマジック)の練習をしていると、進展があった。


 魔術で空気を動かしながら異物を感じるので、何かがあると違和感があることが分かった。

 手で触ったら凸凹(でこぼこ)してるというか。


 ただ、風を広い範囲で使うことは難しい。

 そもそも意識を全体にまで広げることが難しい。

 慣れの問題かな?

 カクギスさんも時間が掛かったと言ってたし。


 私はしばらく上空で空気を操りながら護衛――と言ってもアーネス皇子の後ろで立ってるだけだけど、をこなしていった。


「護衛はどうだ? 何もせず立っているというのは疲れるだろう」


 3人目の来客が終わると皇子が声を掛けてきてくれる。


「お気遣いありがとうございます。その言葉で頑張れます。皇子は大丈夫ですか?」


「大丈夫、と言いたいが肩は凝るな」


 笑いながら応えてくれる。

 親しみやすい皇子だなと思った。

 あの素直じゃないけど素直なフィリップスさんが慕うくらいだから性格の裏表とかはないのだろう。


「ネストル。この後、時間はあるか?」


「昼食まで特に予定はございません」


「分かった。ではラピウス。親交を深めるためにも少し話をしようか」


「はい」


「君は剣が得意だろう? しかし私は何年やっても上手くならない。最近ではマクシミリアスに教わっているが一向に上達しないのだ。何か助言はないだろうか?」


「助言ですか。どの辺りが気になります? 攻撃とか防御とかがあると思いますが」


「どちらかというと防御だ。すぐに追いつめられてしまう」


 防御か。

 マクシミリアスさんが教えてるとなると『三角』を使った防御かな?

 でも、『三角』は私も試してみて上手くいかなかったんだよな。


「可能なら実際に木剣(ぼっけん)と楯を持って練習できませんか? 何か分かるかも知れません」


「ふむ。着替えが必要か?」


「いえ、そのままで大丈夫です。音がするので外での方が良いかも知れませんが」


「分かった。ネストル、準備を頼む」


「はい。承知いたしました」


 こうして、私はなぜか皇子の練習をみることになった。

 護衛なのにこんなことしていいのかな?


 私たちは邸宅の外の少し広い場所に移動した。

 何人かの護衛がこっちを見ている。


 そんな中、皇子には木剣と楯を構えて貰った。

 すると剣と楯で三角形を作った。

 やっぱり『三角』か。


 あと、はじめて気づいたけど、足先も腕と同じように三角にするんだな。


 ≫ほう。三戦(さんちん)と同じ足の形なのか≫


 私が皇子の足を見ていたからかそんなコメントがあった。


 ≫サンセン?≫

 ≫サンチンだ。空手の型の1つになる≫

 ≫その型では安定のためにあの足の形をする≫

 ≫サーセン……≫

 ≫謝罪で(いん)を踏むなw≫


 空手にそんなものがあるのか。

 コメントはともかく、皇子に向き直る。


「今から何度か剣を振るいます。それを防いでください」


 皇子には万が一にも怪我をしないように上半身だけ鎧を着て貰っている。


 私は両手に剣を構えた。

 防御しにくそうな場所に連続で攻撃してみる。

 ――なるほど。

 最初の攻撃ですぐに問題点が分かった。

 皇子は攻撃に対して身体を固めすぎだ。


「『不殺』に力みすぎと指摘されませんでした?」


「今ので分かるのか! 確かにずっとそう指摘されている。しかしどうしても身体の(りき)みが抜けなくてな」


 力みは抜くのが難しい。

 男なら特にそうだろう。

 私の肩の力も魔術がなかったら今でも抜けてなかったろうし。


「視点を変えてみましょう」


 先生は『三角』を不器用な人向けといっていた。 なので難しいことは求められてないはず。

 あと、三角は形自体が強い。

 特に真正面からは強いと思う。

 ドリルもそうだし。


 まずは三角という形の強さを信じて貰おう。


「目を閉じて防御して貰えますか?」


「目を閉じる? 見えてもないのに攻撃をどう防ぐのだ?」


「構えるだけでいいです。その構えた場所に私が攻撃しますので」


 構えだけで攻撃を弾けることを実感して貰いたかった。

 皇子にはただ目を閉じて『三角』に構えて貰う。


 攻撃するのは、皇子が気を緩めた瞬間だ。

 気を緩めたり、疲れて休んだその時を狙う。

 電子で力を使ってるかどうか分かるのはこういうときに便利だ。


 何十回と攻撃していく中で、皇子も私の考えに気づいたのか次第に力を抜き始めた。


「今度は目を開けてください」


 皇子が目を開ける。

 そこに攻撃すると、受ける瞬間に身体を固めてしまう。


「目を閉じてください」


 目を閉じると、最初は力が入っているものの次第に力が抜けていく。


「目を開けてください」


「目を閉じてください」


 切り替えを早くしていく。

 皇子は訳が分からなくなってきたのか、目を開けていても攻撃を受けても力むことが少なくなっていく。


 最後には目を開けたままでも力まなくなった。

 正確に言うと肩の力みは抜けてないけど、普通に戦うには十分だろう。


「どうですか? 力を抜いたまま防御できる感覚は掴めましたか?」


「――信じられぬ」


「え?」


「まさかとはこのことだ」


「ど、どうしました? 掴めませんでしたか?」


「逆だ。掴めたことに驚いている」


「それはよかったです」


 私はほっとした。


「ラピウス。お前は本当にすごいな。私がずっと出来なかったことを、たったこれだけの時間で……」


「もしそうだとしても、皇子のこれまでの努力と、皇子が私のことを信じてくださったお陰だと思いますよ。私のは最後の一押しに過ぎません」


 ≫この謙遜(けんそん)は日本人w≫

 ≫実家のような安心感だなw≫


「いや、さすがに私でも分かるぞ。確かに最後の一押しかもしれないが、その一押しが難しいのだと」


 皇子は思ったより苦労してきてるのではないかと思った。

 思った通りの人生ならこういう言葉は出てこない気がする。


「――評価してくだってありがとうございます」


「固い。私も力が抜けたのだ。ラピウスにこそ力を抜いて欲しい」


 ≫うまいこと言うなw≫

 ≫なにが?≫

 ≫防御で身体を固めるのと接し方の固さをだな≫

 ≫説明される皇子かわいそうw≫


「それはともかく、今後も空いた時間には助言が欲しいのだが良いか?」


「はい。私でよければ」


 じっとしているより気が楽だし、皇子は素直そうなので教えがいもありそうだなと思った。


 それからお昼を挟んで、もう1件の来客をこなしたあとだった。


 ネストルさんが呼ばれて出ていった。

 ただ、すぐに戻ってくる。

 戻ってくると皇子に耳打ちした。


「面倒なことになったな……」


 皇子が呟く。

 そのとき私に一瞬視線を向けたのが気になった。


「――母上がラピウスに会いたいそうだ。さすがに無茶なことは言ってこないと思うが、もしもの場合は黙ってくれ。誤魔化(ごまか)してみよう」


 ≫『誤魔化す』なんだw≫

 ≫息子があの皇妃に対抗できるとは思えん≫

 ≫あれに対抗できるのはカトーくらいか?w≫


 まさか正体がバレた?

 いや、それはないと思いたい。


 ――もしも、バレていた場合は、とにかく認めないでやり過ごしカトー議員になんとかして貰おう。

 そう決めると気が軽くなる。


「いつですか?」


「今すぐに、だそうだ」


 皇妃は相変わらずせっかちだな。

 我が儘なんだろうな。

 特に感情は動かない。

 面倒だなと思うだけだ。


 私はアーネス皇子たちと一緒に皇妃の邸宅へと向かうことになったのだった。

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