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第97話 衝突の印象

前回までのライブ配信。


アイリスはマリカの家族が暗殺集団の『蜂』に襲われた話を聞く。


その後、養成所にルキヴィスやってくる。彼から義手が神に作られたこと、剣闘士筆頭のマクシミリアスが双子の兄弟だと聞かされる。


そこに剣闘士次席の『闘神』ゼルディウスが現れ、彼とルキヴィスが総合格闘技ルールで戦うことになるのだった。

 ルキヴィス先生は軽くステップを踏んでいる。

 ゼルディウスさんは「ふむふむ」などと言いながらどこまで本気か分からない準備運動していた。


 この2人が戦うんだ。

 ゼルディウスさんはまだマクシミリアスさんと戦ってないはず。

 たぶん、彼が戦ってきた相手の中で先生は一番強い相手になる。


 ゼルディウスさんの付き人を見てみた。

 戦いを止める気配どころか緊張もない。

 負けるはずがないと思っているのだろうか。


 パンクラチオンのルールは簡単で、素手で戦うことと、魔術や目突き、金的が禁止というだけだ。

 降参するか気絶するか死ぬまで戦う。

 審判はいない。


 防具もないし、下手すると剣闘士よりも危険なんじゃないだろうか。


「あー、あと部外者が止めたら終わりにしてくれ」


 急にルキヴィス先生が言った。


「うん? どうしてかね?」


「無職になりたくないのさ。俺はここの訓練士でね」


「仕方がない。ところでいつ始める?」


「いつでも」


 瞬間、ゼルディウスさんの巨体がブレた。

 え?

 先生に蹴りが向かう。

 つま先から真っ直ぐ向かう蹴りだ。


 先生は蹴りを下半身だけ移動して避けながら、右ストレートを放つ。

 狙ったのは顔だ。


 って、今頃気付いたけど先生って右手1本で戦うつもりなのか!


 先生の右ストレートは当たらなかった。

 ゼルディウスさんの膝蹴り。

 膝蹴りに続けて右ストレート。

 先生はその2つを避けるとアッパーを撃った。

 アッパーは身体に当たったけど魔術の光がその箇所に集まり弾かれたように見えた。


 先生が間合いを取る。

 ゼルディウスさんが間合いを詰める。

 先生はゼルディウスさんの連続した攻撃を避けながらも必ず手を出す。


 何をやってるか追いきれない。


 間合いが近いし速すぎる。

 素手ってこんなに剣と違うのか。

 ついていける気がしない。


 2人が同時にバックステップして間合いが開く。

 すぐにゼルディウスさんの大きく振りかぶった拳が先生に向かった。

 途中で急に沈み込みタックルに変わる。


 先生が捕まったと思った。

 でも、いつの間にか先生は移動している。

 硬直したゼルディウスさんの背中にストレート。

 当たった。

 先生のストレートが弾かれる。


 また、先生のストレートが当たった場所には魔術の光が集まってる。


 ゼルディウスさんの巨体がヌルッっと先生の懐に潜り込む。

 先生のストレートがアゴを捉えた。

 が、首元に魔術が集まっていた。


 いつの間にか、先生の右手がゼルディウスさんのアゴと胸で挟まれ、更に左手で捕まれた。

 ゼルディウスさんが強烈な笑顔になる。

 恐怖でゾクッとした。


 ただ、そこからの先生が凄まじい。


 右手を捕まれたまま、ゼルディウスさんの攻撃を全て避けていた。

 速すぎて分からない。

 先生はゼルディウスさんに手を引かれても、対抗せずに同じ速度で付いていくので崩れない。


 先生の動きは人間とは思えなかった。

 どうやったらこんな動きが出来るようになるんだ?


 今度は先生の手が真上に上げられた。 

 瞬間、先生は踏ん張ったゼルディウスさんの腰辺りを踏んで飛んだ。


 そのまま投げ飛ばされた形になったけど、何事もなかったように着地する。


 何だこれ……。

 私は放心してしまっていた。


 ゼルディウスさんは目を見開き笑った。

 先生に向かってゆっくりと進んでくる。


 速度は変わらない。

 でも、神経の電子も見えない。

 カクギスさんに似た動き。


 ゆっくりの速度で真っ直ぐ拳を撃ってくる。


 電子は見えない。

 あの拳を避けようとしても追尾されそう。

 そんな変化が潜んでいる拳だ。

 歩きながら撃っているので勢いそのものはある。


 先生は構えを解いた。


 え?

 先生に拳が当たった。

 でもいつの間にか半歩右に移動している。


 当たったのは服にだけ。


 移動と同時に先生が撃った右ストレートがゼルディウスさんの肩に当たった。

 ゼルディウスさんの肩が頬辺りまで上がっている。


 肩を上げて防御したのか?


 ただ、次の瞬間には先生のフックが脇腹に当たっていた。


 今までと違って魔術の光は脇腹に集まってない。

 初めてまともに当たった?


 ゼルディウスさんの鞭のような右の回し蹴りが放たれている。


 先生は更に一歩ゼルディウスさんの方に歩んで蹴りを無効化した。

 支点に寄ることで無効化したのか。


 ゼルディウスさんが掴みかかってくる頃には先生は離れている。


 首を傾げるゼルディウスさん。

 そして仁王立ちになった。

 足を広げ、両手を腰につけている。

 攻める気が……ない?


 先生が小さく笑みを浮かべ、それに応えるようにゼルディウスさんも大きな笑みを浮かべた。

 先生が体勢を低くして、ゼルディウスさんに向かう。


双方(そうほう)、止め!」


 大きな声が響き渡り、先生はゼルディウスさんから離れた。


 声がした方を見ると、親衛隊の長官、ビブルスさんが居た。

 その隣にはマクシミリアスさんが居る。


 いつの間に。

 特にマクシミリアスさんは魔術の光を発してるのに気付かなかった。

 戦いに見入ってしまっていたみたいだ。


「約束だ。ここまででいいよな?」


「残念だね。せっかく面白くなってきたところだったのに」


 先生が言うと、ゼルディウスさんは大きなため息をついた。


 ビブルスさんがマクシミリアスさんを引き連れて2人の元に向かっていく。


「親衛隊長官のビブルスだ。職員より要請があった。許可なく入っては困る」


 まずゼルディウスさんに注意した。


「『不殺』じゃないか。君もアイリスのことが気になったのかね?」


 ビブルスさんのことはスルーしてマクシミリアスさんに話かける。


「私の話を聞きたまえ。彼には協力して貰ってるだけだ」


「君はどちら様かな?」


「親衛隊長官のビブルスだ」


「なるほど。私に何か用事でも?」


「許可なく養成所に入って貰っては困る。即刻出て行け」


「別に良いのではないかね。私も剣闘士なのだし」


「そういう問題ではない。ルールで決まっていることだ。貴方だって総合格闘技(パンクラチオン)の試合には剣を持ち込まないだろう?」


 付き人の2人は困惑しているようだった。

 前に付いていた糸目の人と違ってゼルディウスさんの扱いを分かっていなさそうだな。


「貴方も――」


 ビブルスさんがルキヴィス先生に向き直ったときだった。

 顔を見たまま固まってしまう。


 固まるのも無理はない。

 マクシミリアスさんと同じ顔、同じ背格好の人物がもう1人いるんだもんな。


「あー、他人のそら似ということにしておいてくれ」


 ルキヴィス先生が言った。

 ビブルスさんは先生とマクシミリアスさんの顔を見比べるように交互に見ている。

 マクシミリアスさんは目を逸らしているだけだ。


 空気がものすごく微妙になった。

 ゼルディウスさんだけは「どうしたのかね?」とでも言いそうな顔してるけど。

 はー、仕方ない。


「みなさん、少しお話よろしいですか?」


 私は一歩進み出て全員の顔を見た。


「まず、ゼルディウスさん。貴方の申し出は受けられません。ごめんなさい。ただ、私に勝つことが出来れば、彼ももう1度戦ってくれるかも知れませんよ?」


 ルキヴィス先生を見る。


「ああ、いいぜ。アイリスに勝てればな」


 先生は笑った。

 ゼルディウスさんも嬉しそうな殺気を出している。


「ゼルディウスさんもいいですか?」


「困ったね。それでは君が手に入らないからな」


 これは退()くつもりはなさそうだな。


「残念ですが私が貴方のものになることはありません。そうなるくらいなら逃げます。どうしても逃げきれなければ命を断ちます」


 キッパリと言った。

 『命を絶つ』という言葉が強かったのだろう。

 全員が私に注目した。


 特にマクシミリアスさんが目を見開いている。

 そこまで驚くことかな。

 先生と同じ顔で驚かれると違和感がすごいし。


「安心してください。私が命を断つことはありません。命を断つことになる約束は絶対にしないということです。つまり、私自身を賭けることはあり得ません」


「そこまで言われてはな。私も嫌われたものだ」


「別にゼルディウスさんのことを嫌いな訳ではないですよ。ただ、エッチな関係みたいなのは遠慮したいだけです」


 私が言うと周り全部が静かになった。


「ぷははは! エッチな関係! いいな!」


 ルキヴィス先生が吹いた。

 そのまま笑い続けている。


 ≫くそ、この単語はフィルターに引っかかるw≫

 ≫真面目なときにぶっ込んでくるなあw≫

 ≫男女の関係とか言い方があるだろうにw≫

 ≫ま、まあ間違ってはいないと思うぞw≫


 しまった。

 もっと言い方を考えればよかったか。

 恥ずかしくて顔が火照(ほて)る。


「困ったね」


 そんな中、ゼルディウスさんが呟いた。


「益々(ますます)、君のことが気に入ってしまったよ」


「――光栄です。でも、トーナメント戦で当たったときには全力で勝ちに行きますので」


 気持ちを切り替えて真っ直ぐにゼルディウスさんを見る。

 ふと。

 頬を風が通り抜けた。


「いいとも」


 ゼルディウスさんが強烈な笑みを私に向ける。

 私も口の端が上がるのを止められずに笑顔を返した。


「付き人さんたち。ゼルディウスさんをお願いします」


「お、おう」


 彼らは慌ててやってきた。


「君とはまた()りたいね」


「そうかい? じゃ、アイリスに勝てるようにせいぜい頑張ってくれ」


 ゼルディウスさんは去り際にルキヴィス先生にそう呼びかけてから満足したように外に向かった。

 付き人はそれを追いかける。

 なんというか、自由な人だな。


「ビブルス長官。忙しいのにわざわざありがとうございました」


 私はゼルディウスさんが遠くにいったことを確認してから話かけた。


「仕方がない。さすがに『闘神』相手では立場のない他の者では歯牙(しが)にも掛けないだろうからね」


「親衛隊を相手にそれですか。何者なんです?」


「彼はただのローマ市民だよ。ただ、後ろ盾や彼自身の弟子の多さが問題でね。もちろん、彼の人気や強さもある」


 ため息をつきながら言ったあと、長官はルキヴィス先生を見た。


「それより貴方は何者なんだ?」


「ただの訓練士ですよ」


「馬鹿を言うな。ただの訓練士があの『闘神』と互角に戦えるはずがないだろう?」


「彼も手を抜いていたみたいなので戦えたんじゃないですかね」


「――いいだろう。では、どうして貴方は『不殺』にそれほど似ている?」


 ビブルスさんって今朝、皇妃の実家に来たときに先生には会わなかったのかな?


「貴族の奥様方に人気の『不殺』さんに似てるなんて嬉しいですね」


 先生が見たこともない爽やかな笑みを浮かべた。

 ビブルスさん、困っているな。

 先生、まともに相手にしてないもんな。


「――ふぅ、分かった。聞いて悪かった。ところで、貴方がアイリスを教えてる、ということで良いのかな?」


「そのつもりだったんですがね」


「どういう意味だ?」


「アイリスが剣を持ってから2カ月と言ったら信じられますか?」


「い、いや」


「ですよね。教える暇もありませんでした」


「まさか」


 ビブルスさんが私を見る。

 否定したかったけど黙っておいた。

 先生に何か目的があるのかも知れないし。


「彼女は昨日、そこの『不殺』さんと試合をしましたよね? 良い戦いでした。でも、今の方が遥かに強くなってますよ」


 先生は視線だけをマクシミリアスさんに向けた。

 同時にマクシミリアスさんも先生を見る。

 視線がぶつかり合う。

 2人は目を逸らさない。


 2人とも敵意があるという訳じゃないけど、好意がある訳でもない。

 ただ、間にある過去みたいなものは感じられた。


「さ、お2人とも忙しい身でしょうから、そろそろ戻ってはどうですか? 来てもらって助かりました。いや、ほんと」


 先生は不意に目を()らすと、ビブルスさんに向かって言った。


「――分かった」


 ビブルスさんが何か気付いたようだったけど、何も言わずに去っていった。

 私もただ「ありがとうございました」とだけ言った。


 明日から親衛隊のお世話になるけど、マクシミリアスさんも居るので黙っていた方がいい。

 彼らが去るのをなんとなく見つめる。


「とんだ邪魔が入っちまったな」


 先生が彼らに背を向けた。


「弟と久方(ひさかた)ぶりの邂逅(かいこう)だったのではないか?」


「皇宮ではたまに見かけたからな。感動的な再会ってほどじゃないさ」


「と言いながら少しだけ挑発してましたよね?」


 私が2カ月前まで剣すら握ってなかったをダシにして、努力家のマクシミリアスさんを挑発したように感じた。


「たまには声でも聞こうと思ったんだがな。フられたみたいだ」


「どういうこと?」


 マリカが聞いてきたので簡単に説明する。

 説明している内に彼女は何か怒り始めた。


「バカでしょ。回りくどすぎだから!」


 聞き終わると先生に向かってマリカが言った。

 私としては同じ兄という立場から見てルキヴィス先生の回りくどさも分かる気がするんだけど。


「返す言葉もないな。まあ、俺のことは置いといてだ。ゼルディウスをどう見たアイリス」


「底が全く見えないですね。もちろん、見えてる部分だけでも勝てる見込みはありませんけど」


「カクギスはどうだ?」


「拳闘のことは分からん。が、いくつか拳が当たっていたように見えたぞ」


「ああ。さすがにあの巨体で的は大きいからな。ただ、1度を除いて効いてない」


「ほう」


「マリカはどうだ?」


「何をやってるのかすら分からなかった。でも、ルキヴィスが投げられたときは『闘神』が作った支点を踏みつけて飛んだよね?」


「その通りだ。よく分かったな」


「お、教えて貰ったことくらいは分かるから!」


「それが難しい。着実に強くなってるな」


 誉められたマリカは一旦口を開けたけどそのまま閉じて黙ってしまった。


「俺が戦った感じでは1つ突破口がある。アイリスはこれを知りたいか? 教えるつもりだが断れば黙る」


 私に聞いてきた。


「もちろん知りたいです。知っていても勝てるかどうか分からないので。それに弱点を探るために戦ってくれたんですよね?」


「まあな」


 その後、先生は簡単にゼルディウスさん攻略を話してくれた。


 話は簡単で、彼が『認識できていない』攻撃が効くという話だった。

 不意打ちなら効くということだ。


「それが1度だけ効いた打撃という訳か」


「だな。それ以外は恐ろしく硬かった」


「硬い?」


「ああ。鎧でも叩いたかと思う感触だったぜ」


如何様(いかよう)なカラクリだ?」


「分からん。ただ、効いた攻撃のときだけは普通――とは言わんが人の感触だった」


 あれ、それってもしかして。

 何かが結びつきそうだった。

 先生とカクギスさんは、不意打ちの状況などを話している。


 私は記憶を探っていく。


「『闘神』は魔術の光が強いという話だが、その辺りはどうだ?」


 記憶を探っている中、2人の会話が思考に混じる。


「魔術の光って言っても見えるのはアイリスだけだろ。アイリス、ちょっといいか?」


「あ、はい」


「『闘神』の硬さと魔術の光は何か関係ないか? あのハルピュイアも硬かったであろう?」


「――あ」


 そうか。

 ケライノさんに剣が通じなかったことを忘れていた。


 そして、ゼルディウスさんは魔術の光を攻撃される場所に集めていた。

 ケライノさんは元々の魔術の光が強いので、集める必要がなかった?


「どうした?」


「ちょっと待ってください」


 目は硬くできないけど、皮膚は硬くできる。

 いや、皮膚とは限らないか。

 筋肉かも知れない。

 魔術の光を持ってる人は筋力が強い気がするし。


「マリカって自分で力が強い方だと思う?」


「力? 女としては強い方だと思うよ。子供の頃からお父様より強かったし。……手を抜かれてたかも知れないけど」


 マリカは体型が細身なのに剣を片手で自由に使いこなしてる。

 そう考えると力はある方なのかも。

 私は未だに片手だと剣が使いにくい。


 ただ、筋肉のみ硬くできるのなら関節が弱点な気がするんだけど。


「カクギスさん。ケライノさんと戦ってたとき、筋肉のない関節は狙いました?」


「狙ったとは思うが、覚えてはおらんな。斬撃(ざんげき)が通用したのは翼の(きわ)と目のみだ」


「翼は硬かったですか?」


「かなりの手応えではあったな。獣の骨を断ち切る方が遥かに容易(たやす)かった」


 なんか怖いこと言ってる。

 でも、翼はカクギスさんくらいの剣の腕がないと斬れなかったかも知れないな。


「魔術を宿した筋肉が硬いということか?」


 先生が私に聞いてくる。


「そうですね。一定以上の魔術の光があると硬くなるのかも知れません。ハルピュイアのケライノさんは何もしなくても硬かったですが、ゼルディウスさんは意識的に集めないと硬くならないような気がします」


「なるほどな。認識の外からの攻撃には弱いという説明にはなるか。ただ、俺はアバラとかアゴとか狙ったぞ」


「……筋肉だけじゃないんですかね」


 ≫筋肉じゃないなら筋膜(きんまく)か。もしくは両方≫

 ≫筋膜?≫

 ≫筋や骨、内臓を包んでる繊維質(せんいしつ)のこと≫

 ≫みかんを()くと(ふさ)があるよね?≫

 ≫房1つ1つの薄皮みたいなものが筋膜≫


 コメントで気になる話が見えたけど、先生とカクギスさんも話を進めていた。


「とりあえず、認識の外から攻撃することだけを考えた方がいいだろうな」


「あ奴が素肌で剣をも弾くと?」


 カクギスさんが片目を閉じて先生を見る。


「可能性はある。『闘神』というくらいだ。実際に半神(はんしん)かも知れんしな」


「ふむ。そういえばお主の師は元々半神であったか」


「さあ、どうだったかな」


 ≫ハンシン? 野球?≫

 ≫半神だろw≫

 ≫アキレスとか、ヘラクレスか≫

 ≫話が大きくなってきたな≫

 ≫つまり葉っぱが付いてたところが弱点か!≫

 ≫葉っぱ1枚あれば良い!≫

 ≫やった! やった!≫

 ≫お前らいくつだよw≫

 ≫葉っぱは北欧神話のジークフリートだぞw≫


 うわ……。

 き、気を取り直そう。


「認識の外から攻撃するという話ですが、剣で大丈夫でしょうか? 剣だと素手と比べてスピードが遅い気がするんですけど」


 ゼルディウスさんが目視で攻撃を見てるなら、カクギスさんの『死角からの攻撃』が使えるかも知れない。

 でも、ゼルディウスさんって空間把握を普通に使ってそうなんだよな。


「大丈夫だ。相手が攻撃してきた瞬間を狙えばいい。アイリスなら簡単に出来るようになるさ」


「動いた瞬間?」


「攻撃のために手を伸ばす。顔や胴体がガラ空きになるだろ。そこを狙う。今までアイリスは攻撃を空ぶったときの硬直を狙って攻撃を当ててたよな? それより早いタイミングの攻撃手段だ」


「カウンターってことですか?」


「よく知ってるな。カウンターについてどこまで分かる?」


「いえ、言葉を知ってるだけで具体的には分かりません」


「そうか。カクギス、ちょっといいか?」


 先生はカクギスさんに何度か攻撃してもらいながら、寸止めでカウンターを決めていく。

 それは、私の知ってるカウンターとイメージと違った。


 先生が先に動いているようにしか見えない。

 避けるというよりも相手に向かっていってる。

 下がると同時にカウンターを決めてるものもあったけど。


「カクギスは鍛えてるだけあって動きの支点が分かりにくいな」


「ことごとく決めておいて良く言うわ。しかも、先ほど『闘神』相手にコレを使わなんだな?」


「対策されたら困るからな」


 動きの支点?

 先生って支点を作る動きの電子を見てカウンターを決めてるのか?

 そういえば以前も支点そのものを作らせないようにしてフゴさんを封殺してたし。


 でも、確かにそれなら相手が動く前にこっちが動けるか。

 私がそれを身につける?

 簡単って言ったけど難しいのでは?


「イメージは掴めたか?」


「思っていたのとは全然違うということが分かりました」


「とりあえずはそれでいい。昨日のこともあるし、1週間はダメージを抜くためにイメージだけの練習をする。その後、実際の練習を始めよう」


「1週間は打ち合いみたいなのを避けた方がいいってことですか?」


「ああ。練習での衝撃は避けろ」


「分かりました。魔術の練習はいいんですよね?」


「風とか水を自分にぶつけなければな」


 それもダメか……。


「分かりました。いろいろとありがとうございます。助かってます」


「好きでやってることだ。気にするな」


 先生は手をヒラヒラと振った。


「おっと、アレと戦うのはもちろん、関わるのも嫌だから是非勝ってくれよ」


 さすがに先生もゼルディウスさんと関わるのは嫌なのか。


「了解です。勝ってゼルディウスさんから先生を解放します」


「まるで俺が昔話のお姫様みたいだな」


 先生が言うとみんなが笑った。

 私はそんな中、ゼルディウスさんに勝つために出来うる限りのことをしようと誓うのだった。

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[気になる点] エッチな関係で現地民に通じるのが不思議
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