第30話 年下の女の子
ボクは今、お風呂にいる。
そして、両腕が動かない。
自分で服が脱げない。
ということで、マリカに服を脱がされた。
ボクの両腕が邪魔になって脱がすのに苦労していた。
最終的には、前屈みたいな体勢になることですんなり脱げたけど。
それにしても目を閉じてからコメントがうるさい。
暗闇状態の中に文字が勢いよく流れていくので、どうしても目がいってしまう。
「パンツも脱がすから立ってくれる?」
「パ、パンツは自分で出来るから」
≫ゴクリ≫
≫いいからいいから≫
≫腕動かないのに自分で脱ぎ脱ぎできる?≫
≫ついでに目も開けよう(提案)≫
≫俺のパンツも!w≫
ボクは雑音に負けずに、なんとか自力でパンツを脱ぐことに成功した。
動かない腕でも腰を折って前屈になれば膝下までパンツを下ろせた。
あとは片足ずつ抜けば大丈夫だ。
「次はオイルだねー」
うきうきした声に嫌な予感を覚える。
「ど、どうして楽しそうなんですかね、マリカさん?」
「え? だってオイル、人に塗ったことなんてないし。なんか楽しそうじゃない?」
それは確かに。
男には絶対塗りたくないけど、女の子に塗るのはいいかも。
じゃなくて!
「大丈夫大丈夫」
マリカがオイルを手に取って自分の手にまんべんなく塗って準備しているのが分かった。
たまにピチャと音がする。
「じゃ、いくねー」
「まだ心の準備が!」
「えい」
「うわ!」
背後からいきなり胸に手を伸ばしてきた。
「ど、どうして胸から?」
「吸い寄せられたから!」
さすがに揉んではこないけど、にゅるにゅるすりすりと手を動かしてくる。
「おっきい」
≫何が起こってる?≫
≫●REC≫
≫犯行は机上じゃない風呂場で起きてるんだ!≫
≫エマージェンシーエマージェンシー≫
≫何がおっきいんですかね!≫
「ちょっ――」
待ってと続けたかったけど、触られる感覚に耐えるために言葉が止まってしまう。
「そんなに身体に力入れないでよ」
「そ、そう言われても」
「うーん、オイル塗るのには関係ないからいっか。柔らかいしすべすべだし」
そのまま、オイルを取ってはボクの身体にぬるぬると塗っていく。
たまにマリカの肌が当たる。
当たってるときの肌の暖かさと弾力が生々しい。
オイルを塗る感じは、マッサージしてくれる女性たちの手つきとはやっぱり違う。
彼女たちがオイルを塗るときは、すーとゆっくり等間隔で手を動かしていく。
でも、マリカの場合は胸の横のアバラとか、下腹部とか、内股のような敏感な部分も遠慮なくぬるぬるしてくる。
単にうきうき気分で塗ってるからかも知れないけど。
「うっ、くっ」
思わず声が出る。
口を押さえたいけど手が動かない。
「どうしたの? 痛い?」
「痛いって言うか、その」
「――痛くないならいいけど、何かあったら言ってよ」
ゾワゾワ甘いような感覚がくるから止めて、とも言えずボクはなすがままになっていた。
年下の女の子にこんな風にされるなんて。
「ふぅ、ふぅ」
――終わった?
何かオイル塗られる方が練習よりキツいんですけど。
コメントはもう荒ぶりすぎてて追いかける気にもならない。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫」
「じゃ、次はヘラでオイル落とすから」
ヘラは木で出来てるからさっきみたいにはならないだろう。
ボクはようやくリラックスできると思って力を抜いた。
「マリカ、ありがとう」
ボクは目を閉じたまま、顔だけマリカに向けた。
「ああ、うん。これくらいはね」
マリカはボクの後ろに回りこんだ。
そして、ボクの首元からヘラでオイルを刮いでいく。
ただ、人のオイルを刮ぐのは難しいらしく、マリカも苦戦していた。
「くっつくけどいい?」
「え?」
ボクの返答を待たずにマリカが身体を密着してきた。
ヘラで圧力を掛けるときに、ボクの身体が逆に動いてしまうからそれをマリカの身体で押えようとしてるんだろうけど。
――だろうけど!
マリカの胸や太股がボクに密着している。
彼女のオイルはもうヘラで落としたあとだけど、ボクはぬるぬるの状態だ。
女の子同士のやわらかい身体でぬるぬると肌を擦り合わせている。
訳が分からないけど、気持ちよかった。
マリカはもう完全にヘラを使うことに集中してて、ボクに抱きついている状態のことなんて全く気にしてない。
そういうマリカらしいところを見てると邪な考えをしてる自分に罪悪感がでてくる。
出てくるが、気持ちいいので止めさせることもなくなすがままにされていた。
年下の女の子に!
「足は手で押えれば大丈夫かな」
「あ……」
そう言って身体を離されると名残惜しさを感じてしまった。
肌をくっつけ合うって気持ちいいんだな。
「ちょっと待ってて、アイリスのオイル、私に付いちゃったからもう一度落とすね。明日はもうちょっと順番考えた方がいいかも」
ボクの腕が動くようになるまで、オイルはマリカに頼るしかないのか。
人肌の気持ち良さを覚えてダメ人間になる気がしないでもないけど。
その後は、湯船に浸かった。
その頃になるとさすがにコメントは僅かに冷静になってきている。
コメントし疲れただけかも知れないけど。
そのコメントから、腱が炎症してるかも知れないから、肩まで浸からない方がいいというアドバイスを貰った。
水風呂に入るという手もあったけど、あまり得意じゃないのでマリカと一緒にぬるま湯に入る。
ご飯もマリカに食べさせてもらった。
本当に彼女には頭が上がらない。
何か困ったことでもあったら出来る限り彼女を助けようと誓った。
そうして、ボクはライブ配信との相談タイムのために1人で外に出た。
夜風が冷たい。
「それでは、これから相談タイムに入ります。まずは配信が止まってからのこれまでを説明しますね」
そう言ってから、これまでのことを話し始めた。
でも、コメントからは最初から知りたいとの意見が多い。
それで、ボクはそもそもの心霊スポットのライブ配信のことから簡単に説明していった。
日本だと夜中の3時くらいだからかコメントは少ない。
≫それでカワイソーと練習することになったと≫
「そうです。あとゲオルギウスさんが頼れる兄貴分っていうのも大きいと思います。昔はカエソーさんと敵対してたみたいなので、あのカエソーさんにもずけずけ注意してくれるんですよね」
≫大丈夫なのか?≫
「練習仲間とは思ってくれてるみたいなので大丈夫なんじゃないでしょうか? ゲオルギウスさんには幼馴染の婚約者がいるって話ですしね。カエソーさんは大丈夫かどうか分かりませんけど」
その後は、身に着けた剣術や巨人との戦い、皇妃について話した。
皇妃についてはみんな腹を立ててくれている。
「あと、一つ相談なんですが、コメントが多すぎて読みきれなくて困ってるんです。何かいいアイデアはありませんか?」
≫流れ速いからな≫
≫そっちから管理画面の操作とか出来ない?≫
「残念ながら。こっちに来てからはコメントが見えるだけです。ボクの視覚と聴覚が配信されてることと、ボクがコメント見える以外は何も出来ません」
≫そんな状態だったんだな≫
≫どうやって復帰したんだ?≫
「それが分からないんですよね。巨人と戦ってるときに急にコメントが見えて」
≫そうだったのか≫
「運営側でメンテナンスとかはなかったんですか?」
≫いや、特になかった≫
≫配信停止はラキピだけだったな≫
「不思議です。復帰できたのは本当に嬉しいんですけどね。皆さんが見守ってくれてる安心感や、危ないときの命綱になってるようなところもありますし」
≫おう、任せろ!≫
≫命綱ならコメント整理は死活問題だな≫
≫管理画面が使えないなら運営に頼むか?≫
≫さすがに無理じゃね?≫
≫俺がコメント打てなくなっても嫌だしな≫
いろいろ意見が出たけど、決め手になるようなものはなかった。
管理画面にアクセスできれば、コメントに優先順位を付けられるらしいんだけど。
具体的には、配信者が登録したユーザーやコメント数、ログイン時間によっての優先順を決められるらしい。
なお、ボクはその辺に設定を全くいじってなかった。
そのため、全てのコメントが表示されるようになっているとのことだ。
≫ダメ元で運営当たってみるわ≫
≫今日辺りから騒ぎになるかもだしな≫
≫見るだけならともかく真偽マンとかな≫
真偽マンとは、嘘っぽい話に関して流れを無視して真偽を確認してくる人たちのことだ。
確かに人が増えたら多くなりそうだな。
≫管理画面? が見えればいいんですか?≫
どういう方向で運営に問い合わせるかの意見が飛び交う中で、不思議なコメントが目に付いた。
≫そりゃそうだけど≫
≫それが出来れば苦労しない≫
≫なにか方法があるのか?≫
運営の人とかだろうか?
まさかな。
≫1つ聞きたいんですけどいいですか?≫
ボクへの質問だろう。
「はい。なんでしょう?」
≫アイリス・ラキピさん本人についてです≫
≫家族構成は看護師の母と高校生の妹ですか?≫
は?
頭が真っ白になった。
身バレした?
どうして?
≫重要なことなので答えてください≫
「は、はい。そうです」
コメントに急かされる形でそう答えてしまった。
≫やっぱりそうだったんだ≫
≫あたしだよ、澄○だよ、お姉ちゃん≫
え? 澄夏?
あまりにも驚いて頭が真っ白どころか何も考えられなくなる。
でも頭のどこかで、自分の妹――澄夏の姿を浮かべていた。
次話は、19日(木)の午前6時頃に投稿する予定です。




