第165話 剣の道
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アイリスはソフィアと巫女姿で公衆浴場へ行き、自身の正体を明かす。その帰り際にペルシャ人サオシュヤントと出会うのだった。
夕食の準備前にウァレリウス邸へと帰ってくる。
結局、休みの間はずっとソフィアといた。
彼女も楽しかったと言ってくれたけど、話したことは、一切他言しないとのことだ。
1週間ウァレリウス邸で働くカミラさんのことも聞いた。
彼女はソフィアのお母さんが巫女の頃から侍女をしているベテランらしい。
階級は、解放奴隷との話だ。
彼女のことは信頼できる人物だと言っていた。
ただ、オプス神殿の神官から指示も受けている可能性もある。
それは頭に入れて置いておいて欲しいとも言われた。
あと、邸宅を出る前に貰ったお給金は使わなかったので、ウルフガーさんへ預ける。
「フィリッパちゃん、おかえり!」
部屋で着替えて1階に降りていくと、掃除中のヴィヴィアナさんに声を掛けられる。
「お疲れさまです。ただいま戻りました。カミラさんはどうしてますか?」
「メリサさんにいろいろ教えて貰ってるみたい」
「ありがとうございます」
改めてカミラさんに挨拶をしようと彼女を探すのだった。
屋内にはいないようなので外へ出る。
小雨が降ってきていた。
慌てるようにメリサさんとカミラさんが戻ってくる。
「雨、大丈夫でしたか?」
「ええ」
「お入りください」
私はドアを開けて彼女たちを室内に招き入れた。
「タオルをお持ちしましょうか?」
「ありがとう。ほとんど濡れてないから大丈夫よ」
「承知しました」
「あの、カミラさん」
「はい」
「改めて挨拶させてください。フィリッパと申します。魔術で掃除を行ったりお飲み物を冷やしたりしています。ウァレリウス家に来て日も浅いですが、よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。改めましてカミラと申します。老体の身ではありますが、新米として雑用などを申しつけてくださればと存じます」
「老体なんてとんでもありません。ソフィア様にお伺いしたのですが、剣術を修めておられるとか」
「お恥ずかしい。少々嗜んでいる程度でございます」
謙虚な人だな。
日本人的というか……。
「いえいえ、リギドゥス神官からも良い腕前だと聞いております。心強いです」
「過分な言葉、恐縮にございます。短い間ではありますが、お役に立てますよう精一杯努めさせていただきます」
「こちらこそお願いします」
≫アイリスも成長したな≫
≫以前はこういうやり取り苦手だったのに!≫
≫なんか置いていかれた感があるぞ≫
≫いかないで≫
「カミラ様は私などより経験がおありなのに、当家の流儀に従うとおっしゃられているのよ。ただ、助言はしてくださるようなので、困ったことがあれば質問等は気軽にね」
「はい」
カミラさんが軽くお辞儀をしたので、私も頭を下げた。
「あと、カミラ様も侍女の部屋でご一緒することになったのでよろしくね」
こちらの負担にはならないという配慮だろう。
徹底してるな。
それから夕食の準備を済ませ、ウァレリウス家の皆様の食事の時間となった。
給仕はメリサさんとカミラさんが行う。
私はワインを冷やしただけで、ヴィヴィアナさんやプリメラさんと一緒にキッチンで待機している。
珍しくウルフガーさんもいる。
「ウルフガーさんがこの時間にキッチンにいるなんて珍しいですね」
「念のためだ」
僅かに緊張感を含ませて言った。
帯剣しているので、カミラさんを警戒しているんだろうか。
賊のこともあったし、仕方ないのかも知れない。
それに、カミラさんには剣術の心得もある。
ウルフガーさんはそのことにも気づいているかも。
食事中の談笑が聞こえてくる。
クラウス様の声が大きい。
内容的には、近々闘技会があるとの話だった。
――初耳なんですけど?
耳を澄ますと、円形闘技場の復旧が終わりつつあるらしい。
その復旧祝いとして会が開かれるらしかった。
目玉の対戦は、私、アイリスと第三席『黄金』レオニスのカード。
クラウス様のテンションが高い。
それ以外はまだ決まっていないらしい。
「――レオニス」
ウルフガーさんが静かに声を発した。
静かな声とは異なり、強く拳が握られ、歯が噛みしめられている。
心配になるほど強い力だ。
賊との戦いですら冷静だったのに。
「ウルフガーさんは、その剣闘士とお知り合いなんですか?」
聞いてみる。
「――いや、一方的に知っているだけだ」
「そうでしたか。変な質問してすみません」
一方的と言いながらも、何か思い入れがあるような感じだ。
気になるな。
コモド流の同期のライバルとか?
でも、それなら一方的に知ってるとだけは言わないか。
あと、明日からエミリウス様の剣術訓練を再開するらしい。
現在、エミリウス様は他人に攻撃することができなくて悩んでいる。
なんとかしないとな。
魔術に関しては水分子が見えたので今後が楽しみだ。
明日は少し長い時間を取って貰おうかな。
食事が終わり、私たち侍女の夕食の時間になる。
ウルフガーさんは自身の食事を持ち去っていった。
本当に初めて来たカミラさんを警戒してたのか。
彼ってやっぱりこの家のこと大好きだよな……。
何かウルフと言うよりイ――いや、止めておこう。
ヴィヴィアナさんが休みをどう過ごしたか聞いてきたので、ソフィアと公衆銭湯に行ってきたことを話す。
VIPルームに入ったのか聞かれたので素直に認めると羨ましがられた。
「そのときにソフィア様に聞いたんですが、カミラさんもコモド流なんですよね」
カミラさんに話を振ってみる。
「はい」
「ウルフガーさんもコモド流らしいんですよ」
「そうなのですか? どちらのなのでしょう?」
初めて彼女が事務的ではない反応を示してくれた気がした。
しかし、どちらのって支部がたくさんあるような流派なんだろうか。
「申し訳ありません。さすがにそこまでは分かりません」
「いえ、こちらこそ」
「コモド流について何も知らないんですけど、大きな流派なんですか?」
ヴィヴィアナさんだ。
「はい。恐らく、ローマで一番大きな剣術の流派かと」
「カミラさん、そんな立派なところに?」
「末席を汚しております」
あれ?
ローマ最大の流派って第四席のロンギヌスさんがそうだったような。
それがコモド流か
今、初めて結びついた。
――たぶんカミラさんはロンギヌスさんと知り合いだよなあ。
「質問をよろしいですか?」
改めてカミラさんに聞いてみる。
「どのような内容でしょうか?」
「はい。レオニス様という方をご存じですか?」
「レオニス様? 第三席のですか?」
「そのレオニス様です」
彼はいろんな意味で目立つ人だったな、と思い出す。
「いえ、私どもの元師範代が破れたということ以上は存じ上げておりません。申し訳ありませんが……」
ロンギヌスさんのことだろう。
『元』師範代になってしまったのか。
やっぱり捕まったからかな?
「師範代ですか」
「現在は、元・師範代ですが、『剣帝』ロンギヌスという者です。私の弟弟子でもあります」
「それほどの方が弟弟子とは」
「たまたま弟弟子に才があっただけです。――と、失礼いたしました。私の話などしてしまいました」
「はい! カミラさんについて興味あります!」
ヴィヴィアナさんだ。
「私などすぐに去ってしまいます。あまりお気になさらないでください」
「一緒にいる時間が短いからですよぉ。早く仲良くなりたいじゃないですか」
「――ヴィヴィアナの言うとおりだね。仲良くなるに越したことはないもんさ」
「皆様……」
それからは和やかに食事が進んだ。
「差し出がましいとは存じますが、私事で1つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「休憩時間に剣術の練習を行いたいのですが、よろしいでしょうか? ウァレリウス様にはすでに許可をいただいております」
私以外の3人が顔を見合わせた。
「――コモド流ってのは、皆熱心なのかい?」
「毎夜、ウルフガーくんも素振りしているので、大丈夫ですよ!」
「必要なら、木剣もお貸しできますよ」
「彼の素振りを見てみたいのですが、それは可能そうですか?」
「今日は雨だし、広間の端で練習すると思います!」
「練習を見ても大丈夫か、私が確認いたします」
メリサさんが微笑む。
「助かります」
「本当に剣術がお好きなんですね」
「このような歳にも関わらずお恥ずかしい」
「私はそう思いません! 素敵です!」
微妙に話に入っていけないので地蔵になってる。
諦めて食べてる内に夕食が終わるのだった。
夕食の片づけは、カミラさんがメリサさんに教わりながら行うことになった。
私も見るだけ見ておく。
一通り、仕事も終わる。
メリサさんから素振りを見ても良いと言われたカミラさんは、二階の廊下から広間を見ていた。
雨は本降りになっている。
広間では天井に穴が開いているので、雨が真下の池に入る仕組みだ。
水道がなかった頃の伝統なのだろうか?
穴の縁から水が落ちている様子は趣があった。
雨音が響く中を、素振りの音が聞こえる。
大きくはないけど鋭い音だ。
カミラさんは素振りをかなり熱心に見ているようだ。
私は彼女に話しかけてみることにした。
「お疲れさまです。ウルフガーさんの素振りはどうですか?」
「驚きました。かなり美しく淀みがなく軽い。切っ先のみが走っています。ここまで磨き上げるのは長い年月が必要です。かなり鍛え上げたのでしょう。彼は素振り以外の鍛錬はしていますか?」
≫饒舌だな≫
≫人間好きなものは語りたくなるから≫
「少なくとも、私が来てからは素振り以外をしている姿を知りません」
「そうなのですか? 楯などは?」
「いえ、見たことありません。ウルフガーさん本人の話によると、『見よう見まね』でコモド流を学んだそうです」
「見よう見まねであの剣の振りを……?」
「リギドゥス神官は、金銭的な問題があり、盗み見て学んだのではと推測していました」
「まさか」
何かウズウズした様子を感じる。
彼女は素振りをしているウルフガーさんに目を向けた。
「あの……。立ち入った話になってしまいますが、カミラさんはコモド流で、教える側の立場なのでは?」
「ご推察の通り、指導補佐の役目をいただいております」
彼女の誇らしげな表情からも簡単になれる立場ではないことが分かる。
「ウルフガーさんをどう思います?」
「他の基本を一通り見てみたいですね。教えることがなければそれもまた……、いえ」
独り言のようにつぶやく。
「――コモド流の先輩として、アドバイスしたいということでしょうか?」
彼女は迷っているようだった。
差し出がましいと思っているのかも知れない。
「では、カミラさんがコモド流であることだけでも、ウルフガーさんに話してみましょうか? リギドゥス神官に敗北して、彼にも学びたいことがあるでしょうし」
カミラさんが振り返る。
驚きとともにすごく嬉しそうだった。
でも、慌てて冷静な顔に戻る。
「そうですね。お互い何か得られるかもしれません」
クールな声だけど遅い気もする。
≫かわいい≫
≫剣術のことになると素が出るのか≫
ウルフガーさんの素振りが終わる。
今日はこれで終わったと思ったけど、すぐに相手を想定しての練習が始まった。
私が観察していた限りではこれまでになかった練習だ。
カミラさんは熱心に動きを見ている。
「少し外しますね」
「ええ」
このウルフガーさんの行動は、彼に話しかける話題にしやすいな。
私は1階へタオルを取りに向かった。
降りると衣類置き場でヴィヴィアナさんに会う。
「どうしたんですか?」
「あ、ちょっと」
「ヴィヴィアナさんが忙しくなければ、ウルフガーさんに濡らしたタオルを持っていきませんか?」
私が持っていくより良い気がする。
「え、でも……」
ちらっ、とウルフガーさんが居る方向を見た。
「ご迷惑な提案でしたか?」
「そんなことないけど……」
「彼が迷惑そうにしたら、私がヴィヴィアナさんを強引に連れてきたことにします。行きましょう」
タオルを取った。
「お水も持っていた方がいいんじゃ……」
「そうですね。冷やした方がいいでしょうか?」
「ウルフガーくんの好みとか知らないからなあ」
「聞いてみるのもいいかもしれませんね。あ、そろそろ練習が終わりそうですよ。タオルを濡らすついでにコップ取ってきますね」
私は急いでキッチンへと向かい、タオルを濡らし絞る。
コップも取り、水をくんだ。
すぐに戻った。
「――ウルフガーさんに渡してあげてください」
「うん」
ヴィヴィアナさんは素直にタオルとコップを受け取る。
よし。
私たちは広間の隅に居る、ウルフガーさんの元へと向かうのだった。
「ウルフガーさん、お疲れさまです」
話しかけた。
私はヴィヴィアナさんの半歩後ろに立っている。
先に行ってくださいという無言の圧力だ。
「ウルフガーくん、お疲れさま。頑張ってるのが見えたから。はい、タオル」
彼女はごく自然に話しかけた。
「助かる」
彼はタオルを受け取り、冷たさを味わうように首元に当てた。
「はい。お水も」
彼は一礼して受け取る。
「ウルフガーくんは冷たいお水とかは好き?」
「嫌いではないな。もちろん、普通の水も嫌いではない。特に運動したあとは美味い」
彼は半分くらいを飲み干す。
「そうなんだ」
ぬるい水へのフォローも忘れない男前な言動。
ヴィヴィアナさんを気遣ってのことだろう。
さすが出来る男だ。
「いつもこんなに激しい練習をしているのですか?」
良い雰囲気のところ申し訳ないけど発言する。
「いつもは素振りだけだ」
「昨日のリギドゥス神官との試合の影響ですか?」
「どうなんだろうな。いや、違うな。あの神官には元々勝てると思っていなかった」
自分のことを分かってないような言い回しだ。
「では、昼に出たレオニス様の話でしょうか」
彼の動きが止まった。
「――なぜそう思った?」
「いえ、レオニス様の名前を聞いたとき、見たことのない反応を見せていたので」
「よく見ているな」
彼は笑った。
話を続ける。
「恐らくその通りだ。奴の名を聞いたことが原因だろう」
「奴? 知り合いではないという話でしたが……」
「知り合いではないな。言葉すら交わしたことがない」
言葉すら交わしてないのに、名前を聞いただけで剣術の練習内容が変わる相手か。
「もしかして、ウルフガーさんって剣闘士だったんですか?」
レオニスさんは剣闘士だ。
ウルフガーさんが同じ立場なら話は分かる。
「そうなの? ウルフガーくん?」
「詳しくは話せないが、私は円形闘技場で戦うような剣闘士ではない。ある場所で奴の戦いを見た。そして勝てないと考えた」
『ある場所』ってどこだろう。
表だって人に言えない場所な気がする。
裏社会的な戦う場所があるのだろうか。
≫これ剣闘士なのは認めてるよね?≫
≫地下闘技場みたいなのがあるのか?≫
≫真っ当な場所じゃさなそう≫
≫こわっ!≫
≫もしかしてレオニスってヤバい奴?≫
それにしても、戦いをみて勝てないと考えたか。
強さに差があると思ったのかもしれない。
ただ、本当は勝ちたいと思っている気もする。
触れられたくない過去の可能性も高いし、踏み込んでいいものか迷うな。
「――でも実はレオニス様に勝ちたいと思ってる、とか?」
結局、踏み込むことにした。
リスクはあるけど、単純に私が聞きたい。
その問いに彼は考え込んだ。
想定してなかった反応だ。
「どうしてそう思う?」
「はい。レオニス様の名を耳にしただけで練習内容が変わったので、心のどこかで勝ちたいと思ってるのではないかと」
「そういうことか」
言ったまま、彼は何か考え込む。
私の言葉をちゃんと考えてくれているんだろうなと思った。
素直な人なんだよな。
「昨日の試合の後、リギドゥス神官との話が聞こえてしまいました。ウルフガーさんはコモド流を見よう見まねで覚えたとか」
「その通りだ」
「今からでもコモド流を学んでみようとは?」
ウルフガーさんが私を見る。
「――難しいな」
「執事のお仕事などの関係ですか?」
「ああ」
「そうですか……」
これ以上は押せないし、難しそうだな。
「わ、私の話をしていい?」
ヴィヴィアナさんだ。
ウルフガーさんが私を見てきたので頷く。
「聞かせてくれ」
「うん。私、今、フィリッパちゃんに魔術教わってるんだけど、すっごく楽しいんだ。小さい頃からずっと夢見てきたことだから。ウルフガーくんも小さい頃はどんな思いでその剣術を見てたのかなって。もちろん、私とじゃ全然違うと思うけど」
「――ひとつ聞きたい。仕事を理由に魔術を教わるのを断っていたらどうなっていた?」
「すごく後悔してたと思う。フィリッパちゃん、教えるのすごく上手だし、教わってよかったと本当に思うよ」
「そうか」
「今思うと私の一生で最初で最後のチャンスだったのかも。フィリッパちゃん、ありがとう」
≫ヴィヴィアナちゃん……≫
≫良い子≫
ヴィヴィアナさんの気持ちが伝わってくる。
ただ、私は笑顔で頷くだけに留めた。
今はウルフガーさんの言葉が聞きたい。
「最初で最後、か」
ウルフガーさんはしばらく考えていた。
「――そうだな。先ほどの話だが、私にコモド流を学ぶ機会があると考えていいのか?」
ウルフガーさんが聞いてきた。
「はい。カミラさんはコモド流の指導補佐という立場なようです。ウルフガーさんの素振りを見て、褒めていました。交流することで互いに何か得るものがあるかもしれないとも」
「分かった。ウァレリウス様にお伺いしてみよう。前向きに検討したい」
「ウルフガーくん!」
≫やった!≫
≫感動した≫
≫ヴィヴィアナちゃんのおかげだな≫
≫別に俺らが喜ぶ筋合いないけどな≫
≫細けえことはいいんだよ!≫
「前向きに検討してくださり、ありがとうございます」
「礼を言われるようなことではないな」
「そうでもないですよ。私の我が儘でもあるので」
「おかしな人間だ」
言い回しが柔らかい。
「割と言われます。本人としては不本意なんですが」
「フィリッパちゃんは誰がなんと言おうと良い子なんだから!」
和やかな雰囲気になった。
私もウァレリウス家の一員になってきた気がする。
襲撃を共に乗り越えたこともあるのだろう。
「ではな」
ウルフガーさんが去っていった。
その後ろ姿をヴィヴィアナさんが視線で追う。
「私たちも戻りましょうか」
「うん」
私たちは侍女の部屋へ戻るのだった。
今回の話には収穫もあった。
ウルフガーさんに言っていた『あの場所』についてだ。
非合法な闘技場の可能性が高いように思う。
ローマの闇の部分が関わってそうだ。
問題はその『あの場所』をどうやって探るかなんだよな。
ナルキサスさんなら知ってそうだけど、ゼルディウスさんの道場にまで行くのは難しい。
カミラさんに聞く――のは少し危ないか。
背後にオプス神殿の皇妃派がいるかもしれない。
あのウルフガーさんに連れて行ってくれた服屋も何か知ってそうなので彼女たちに聞くか?
でも、どう考えても私が怪しまれるような。
結局、ウルフガーさんに直接聞くのが早そうだ。
エミリウス様の剣術練習に、ウルフガーさんとカミラさんを呼んだら来てくれるだろうか。
そのときなら聞けるかも知れない。
一方で、エミリウス様の剣術のことも考える。
どうやっても、隙だらけのクラウス様を打てないのなら、剣術は向いてないと進言した方がいいかも。
慣れとは思うんだけど何か方法はないかな。
階下で短いヒュンという音が聞こえ始める。
そうか、カミラさんが素振りを始めたんだな。
――剣術か。
私は剣そのものについても考え始めるのだった。




