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51話 奪われた嘘

 


(お借りした魔道具、使いますね)


 混沌の魔女から借りた魔道具を手に取るため、魔法使い制服のポケットに、手を伸ばした。


「――嘘を吐くな」


 だけど、思いがけない人の声に、ポケットに入れた手が止まった。


「クリフ様……」


「……ウル、君は僕に、『姉は家では何もせずに堕落的な生活を送っていて、家の手伝いも全て自分に押し付けられていた』と泣きながら言ったよな? それに、君は仕事が出来るとして、帝国騎士団に採用されたはずだ」


「あ! えっと、それは……」


 あちらこちらで嘘を付くから、矛盾が生じることになる。

 これで、ウルがメルランディア子爵家で私の仕事の成果を奪っていたことも気付かれるでしょう。……もう皆薄々勘付いていたみたいだけど。


「帝国騎士団を欺いた罪は重いぞ、覚悟しておくんだな」


「どうして……どうしてですか、クリフ様!? 何でお姉様を助けるの!? 私と一緒になって、お姉様を悪く言ってたじゃない!」


 私も、ウルと同じくらい驚いてる。どうして? どうしてクリフ様が、私を助けるような真似を?


「……僕を欺いたことは責めない、君に騙されてしまった僕が愚かだった、同罪だ。だが、これ以上は見過ごせない。リネットを陥れるのは止めるんだ。彼女は意地悪な姉なんかじゃなかった。全て君がついた嘘で……騙された僕が、彼女を深く傷付けた。本当に後悔している、いつか……まだ許されるべきではない僕が謝罪の言葉を口にするのもおこがましいが、いつか必ず、心から謝罪したいと思ってる」


 私と視線は一度も合わない。真っ直ぐにウルだけを見つめ、言葉を紡ぐクリフ様。

 正直、まだクリフ様を許すことは出来ない。でも、これが本来のクリフ様のお姿なんだとしたら……これからは人を見る目を養い、様々な俯瞰で物事を判断出来ることを願います。


「何なのよそれ……! もしかしてクリフ様、お姉様と関係が続いていたんじゃないの!? だから、お姉様を庇ってるんでしょ!? お姉様もクリフ様も最低! 浮気して婚約者の私とアレン殿下を裏切ってたのね!?」


「リネットがアレン殿下を裏切ってまで、こんな人を見る目も無い! 敵の力量も見極められない! 魔法使いと騎士の違いも分からずに喧嘩を売って処罰を受けるような馬鹿男と、浮気するワケねーだろ!」


「サイラス……猛省してるから、傷口を広げるのは勘弁してくれ」


「うるせぇ! リネットを傷付けた分、クリフはもっと反省しろ!」


 クリフ様とサイラス先輩は同じ帝国騎士団の騎士で、元は親しい間柄だったのかもしれない。昔と少し変化してしまったかもしれないが、そう感じるくらい、二人の掛け合いは自然だった。


「わ、私は悪くない! お姉様が全部悪いの! お姉様が私を虐めるの! お姉様が私に意地悪するの! そうよ! 帝国騎士団に入ったのだって、私は不正を働きたくないって言ったのに、お姉様が無理矢理入らせたの!」


 この期に及んで嘘ばかり。

 使うタイミングが少し遅れてしまったけど、やっぱりウルには、()()が必要なんだと思う。


「お姉様! お姉様に虐められたことは忘れて家族として認めてあげるから、早く私を助けて! いつもの意地悪姉になってよ!」


「…………私はもう、貴女の姉じゃないわ」


 ポケットに入れていた手を出した先には、真っ白な一輪の花の押し花。魔力の籠った不思議な花で、混沌の魔女も数百年前に見かけ採取出来た幻の花だと言っていた。混沌の魔女から借りた物は、()()()()()()()()()()()()

 嘘つきのウルにはとても堪える物だろう。しかも、混沌の魔女はクリフ様にかけた呪いよりももっと強力な物を貸してくれた。クリフ様にかけた呪いは数日で解けたけど、果たしてウルにかけた呪いはいつ解けるのか、誰にも分からない。


 クリフ様の時のように大掛かりに呪いにかかったとは見せず、隠密に、呪いにかけられたと本人が認識する間もなく、花粉を飛ばせ、息を吸わせた。


 もうこの場でウルの嘘に騙される人はいないだろうから、使う必要は無かったのかもしれない。だけど、見てみたかった、嘘をついて人生を過ごして来たウルが、嘘を奪われた末路を――――


『さっさと私の罪を被って、目の前から消えてよ! 昔っからお姉様のことが目障りなのよ!』


 帝国騎士団の面々は、ウルに何か異変があったことに気付き――特に、一度呪いにかけられたクリフ様は、ウルがどんな呪いにかかったのかも理解したようだった。


『家から追い出されて、やっといなくなると思ったらアレン殿下の婚約者になるわ、帝国騎士団の魔法使いにもなるわ、何様のつもりなの!? それは全部、私に相応しいものなのに!』


「……私がアレンと婚約しようと、ウルには関係ないでしょ。だってウルは、昔からクリフ様のことが好きだったって言ったじゃない、だから、私からクリフ様を奪ったんでしょ?」


『別に好きじゃないけど? お姉様の婚約者を奪ったら、お姉様の傷付く姿が見れて面白いだろうなーって思っただけだし、結婚相手として最低限の資格があったから、奪っただけよ。もっと良い相手を見付けたら乗り換えるつもりだったし、あの時点で彼氏は別に三人いたし』



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