50話 嘘つきウル
これで一安心とでも思っているなら、自分に都合の良いお花畑全開ね。全てがウルの思い通りになると思ったら大間違い、現実をちゃんと、見れるといいね。
◇
後日、私は宣言通り騎士の棟事務室へ訪れ、テキパキと事務仕事をこなした。
ウルのご希望通りにしたはずなのに、私が仕事をしている姿を見たウルは、顔を真っ赤にして発狂した。
「どうしてお姉様がチヤホヤされるのよ! 意味分かんないんだけど!」
ウルの言うチヤホヤとは、『待ってたよリネットー! 救世主の登場だ!』『リネット、これお礼の品物! お菓子買って来たから好きなだけ食べて!』『お茶入れようか? 肩揉もうか!?』『馬鹿! リネットに指一本触れんな! アレン殿下にぶっ殺されるぞ!』等々の歓迎のことでしょうか? そりゃあ、貴女が戦力にならない故の壊滅的な状況を助けに来たんだから、歓迎されるのは当然でしょ。
「お姉様! これはどういうことよ!?」
私が事務室に足を踏み入れた瞬間、勝ち誇った顔で出迎えたウルが笑えたわ。まるで、『また私のために役に立たせてあげる』と言わんばかりだった。
「ウルが私に働けと言ったんじゃない」
「それは……! こんなに堂々としちゃったら意味が無いじゃない……!」
また私から仕事の手柄を奪うつもりだったのに、私が表立って仕事したら奪えないものね。
「お姉様は、私の役に立つために来たんじゃないの!?」
「違うわ、私はアレンに命じられて、騎士のお手伝いに来ただけよ」
仕事が溜まり過ぎてどうにもならないと、騎士側から正式に応援要請があったから私が来ただけ。別にウルに言われて来たわけじゃない。っていうか、私を馬鹿にして婚約者を奪おうとしているような人の為に、私が働くと思う? 代わりに仕事をして、その成果を全部譲ると思う? そんなワケないでしょ。
「っ!」
悔しそうな顔、いつまでも私を好きに使えると思っているのが、そもそもの間違い。
「で、でも、お姉様の働きは全部私の手柄になるんだから、一緒でしょ! だから私が皆に感謝されるべきなの! 間違えないでよ!」
暴君にも程があるでしょ。何その、お前の物は俺の物主義。
「お前馬鹿か? んなワケねーだろ」
普段、任務の最前線にいるはずのサイラス先輩が事務室にいるのは、私を心配して来てくれたのだろう。何だかんだ言って、面倒見の良い先輩ですね。
「リネットの働きは全てリネットの物だ。なんでそれが何もしねー厄介者の手柄になんだよ、ふざけんな!」
「厄介者!?」
「厄介者に決まってんだろ! 仕事はサボるわ! 男と女で明らかに態度を変えるわ! その男でも爵位や顔の良さで差をつけて見下すわ! 気に入った相手を見付けたら付きまとって仕事の邪魔するわ! こっちは滅茶苦茶迷惑してんだよ!」
「そ、それは、お姉様が私の分も働かないからだし! 女は、私の可愛さに嫉妬して意地悪してくるから態度を変えてるだけだし、付きまとってるっていうのは語弊があるわ! あれは、向こうが私に好意を持っているから、応えているだけで――」
「んなワケねーだろ! 全員迷惑してんだよ! この勘違い色ボケ女!」
「ひ、酷い!」
「どこの世界に、お前みたいな地雷女好きになる奴がいんだよ! お前みたいな女に騙される馬鹿な男は、この帝国騎士団ではクリフくらいだ!」
そのクリフ様も謹慎中でここに居るが、先程から息を殺したように静かにしている。ウルと婚約破棄したと聞いたけど、やっとウルの嘘に気付き、自分の見る目の無さに毎日落ち込んで暮らしているらしい。
そんなクリフ様に追い打ちをかけるように、ウルは毎日毎日、『クリフ様! どうして私を捨てたんですか!? 酷いです!』と、いきなり修羅場を繰り広げたり、『私の今までの頑張りが認められて、ここに採用されたんです!』と、仕事してないのに仕事出来ますアピールをしたり、『私、やっぱりクリフ様が大好きなんです!』と、愛の告白をしたりと様々な方法でちょっかいをかけていて、それはそれは事務室は毎日カオスな状況で、皆が困り果てているらしい。
「わ、私が地雷女? そんなこと、無いよね……?」
助けを求めるように視線を泳がせるウル。視線を向ける順番は、ウルのお気に入りの順だろう。ここで誰かが颯爽と助けてくれるのを期待しているのだろうが、誰も助けてくれないことに気付くと、顔を真っ赤にして俯いた。
「ひ、酷いですお姉様……! 私……お姉様の所為で、働けないのに!」
ここから方向展開しようと思ったのか、ウルは急にしおらしい態度になり、口を押え、目から涙を流した。
「私は勉強も仕事も頑張りたかったのに……私が優秀になるのを嫌がったお姉様が、私に勉強をさせなかったから……! 仕事をさせなかったから……!」
どの口が言うか。本当にウルは嘘ばかり。
嘘を付いて私を悪者にして、自分は姉に虐められる可哀想な妹を演じて、可愛がられようとする。いつもいつも、私はウルの嘘に付き合わされてきた。諦めていたけど、本当は嫌だった、苦痛だった。もうウルの嘘に付き合うのは御免よ。




