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49話 婚活

 

 ◇


「お姉様、いい加減にしてよ!」


 帝国騎士団騎士の棟――用が合って訪れた私は、遂にウルと二人きりでエンカウントしてしまった。

 アレンに注意されたからか、今日はひらっひらの場違いなドレスは着てないけど、肩を大きく出した露出の高いワンピースを着ていた。

 出会い頭にいきなり怒りをぶつけてきたウルは敵意剥き出しで、激しく私を睨み付けた。


「……何をいい加減にしろって言うの?」


 相手にしようか迷ったけど、最近は私に接触しようと躍起になっていると聞いたので、仕方なく相手にすることにした。


「お姉様の所為で上手くいかないんだから!」


「だから、何のことよ? 理由を言えって言ってるの」


「全部よ! クリフ様に振られたのだって、アレン殿下が振り向いてくれないのだって、皆が私に冷たいのだって、全部お姉様の所為なんだから!」


「私、何もしていないけど」


「嘘! じゃないと私が愛されないのはおかしいもの!」


 自意識過剰のお化けか。ウルのどこにそんな愛され要素が? 毛嫌いされる要素しか見当たらないけど。


「ウル、貴女まともに働いてないんでしょ? 貴女が働かずにフラフラばかりしてるから、皆に冷たくされるんじゃないの?」


「はぁ? どうして私が働かないといけないのよ? それは、お姉様の役目でしょ!」


「はい?」


「お姉様がちゃんと私の分も働かないから、こんなことになるのよ! ちゃんとしてよね!」


 全く意味が分からない。まさか、私がウルの分も仕事をするのが当然と思ってるの?


「するわけないでしょ」


「どうしてよ! 私が何も出来ないのはお姉様がちゃんと私を育てなかった所為なんだから、責任持って最後まで面倒を見るべきでしょ!」


 よく言うわ、私が何度も勉強をしなさいと言っても、都度お父様達に告げ口して私を悪者扱いしていたのに。それに、もし私が修道院に入っていたらどうするつもりだったの? 一度修道院に入ったらもう二度と出れないんだから、最後まで面倒を見るとかの話じゃなかったでしょ。


 両親共々、何も考えていない、無鉄砲。全てをただ、私の所為にして責任を押し付けているだけ。


「働く気がないなら来なきゃ良かったのに、どうして来たのよ?」


 働いたら負け精神でずっと働きも勉強もしたことなかったのに、今更。


「仕方ないじゃない、クリフ様に婚約解消されちゃったから、新しい婚約者を見つけないといけないんだもの」


 わー、想像を超えたロクでもない理由。


「やっぱり私に釣り合うのは、最低でもクリフ様以上でしょ? そうなると、帝国騎士団で直接探した方が手っ取り早いのよね。それに、職場で直接出会って恋に落ちるのも素敵じゃない!」


 ふざけてんな……由緒正しき帝国騎士団を何だと思ってるの? ここは結婚相手を見つける婚活会場じゃないの、婚活なら他所でやってよね。


「本当は事務員だなんてショボい職業は私に似合わないから、お姉様の代わりに魔法使いとして帝国騎士団に入るつもりだったのに、お姉様が素直に譲らないから! 魔法使いだったら、アレン殿下ともっと簡単に仲良くなれたし、今頃は私が婚約者になれたのに!」


「アレンにあれだけ相手にされていないのに、よく懲りないね」


 どこからどう見てもどの角度から誰が見ても、アレンがウルを相手にしていないのは丸分かりなのに、ウルには私達とは全く違う景色が見えているようだ。


「だから、それはお姉様の所為なの! お姉様が私のために働かないからでしょ! いい加減、意地悪しないでよ!」


 私がウルの分も働くのは絶対で、していない私が意地悪をしていると言わんばかりね。横暴だわ。


「お姉様がちゃんとすれば、アレン殿下は私を選ぶに決まってるんだから。男はね、何だかんだお姉様みたいな勉強だけが取り柄のつまんない女じゃなくて、私みたいに可愛くてか弱くて可憐な女の子を好きになるのよ――――アレン殿下も、またクリフ様みたいにお姉様から奪ってあげるから」


 ……確かに、私は婚約者をウルに奪われた。

 本当なら、またウルに婚約者を奪われるかもしれない、って、恐れるところなのかもしれないけど。


「奪えるものなら、どうぞ」


 アレンはクリフ様とは違う。ウルにそそのかされて私を裏切ったりしない。私が微塵も不安に思わないよう、彼は私を信じさせてくれる。だから私が不安になることはない。


「言ったわね、お姉様。後悔しても遅いから」


 ウルのその自信がどこから来るのかが不思議よ。

 全てが自分の思い通りに行くと思ってる。私がまた、昔のように言いなりになると思ってる。自分がまた、皆から愛されるとしか思ってる。アレンを手に入れられると、思ってる。そんな未来、永劫こないのに。


「……とりあえずウルの言いたいことは分かったわ、騎士の皆さんにこれ以上迷惑をかけるのも忍びないし、今度、私がウルの代わりに仕事しに行ってあげる」


「最初からそう言いなさいよ、ああ、無駄な時間だったわ」


 私が了承したことに納得したウルは、最後に捨て台詞を吐いて、その場を去った。騎士の棟から出ていったから、またサボりに行ったのだろう。本当に好き放題してるわね。


「馬鹿なウル」



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