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48話 魔女見習い

 


「メルランディア子爵も愚かですね、これ以上、家の恥を上乗せするとは」


「あの人達はウルを野放しにすることがどれほど危険なのか、事の重大さを理解していませんから」


 会話をしていると、いつの間にか目的地に辿り着き馬車が止まった。差し出される手を自然に取り、馬車から降りるのを待つが、アレンは中々扉を開けなかった。


「アレン?」


「俺が好きなのはリネットだけです」


「っ、どうして、いきなり……」


 腰に手を回され体を引き寄せられたと思ったら、至近距離で囁かれ、一気に体温が上昇する。そのまま頬に手を添えられて顔を向き合わされ見たアレンは、相変わらず綺麗な目をしていて、吸い込まれてしまいそう。


「リネットが不安にならないように、愛情表現は欠かさずにしないといけませんから」


「ふ、不安になっていません! 充分愛情は感じています!」


「愛しています」


「っ」


「では、行きましょうか」


 笑顔で手を放し、私を解放するアレン。


(悔しい)


 そのまま何事もなかったようにエスコートするアレンの手を、強く握りしめた。


 ◇


 私とアレンが任務で訪れたのは、混沌の魔女が再生したダンジョン、ムグスケ洞窟だ。

 混沌の魔女のおばあさんは長らく世間から姿を消していて、発見に伴い陛下を含めて大騒ぎになった。そりゃあ、ラングシャル帝国の要ともなる帝国騎士団の創立メンバーでもありますからね。


 魔女としてのおばあさんの力も昔と変わらず偉大で、あらゆる呪いの魔道具も使いこなせ、役に立つ魔道具の開発にも突出していて、あっという間に有名人になった。おばあさんに会いたいと連日押し寄せる人々が後を絶たないそうだが、おばあさんはダンジョンを攻略した者しか会わないと無理難題を吹っ掛けているので、陛下とすらお目通ししていない。

 混沌の魔女に会えるのは、おばあさんに認められた私と、アレン、サイラス先輩のみ。クリフ様だけ該当していないのは、察して下さい。


 そんなわけで定期的におばあさんと交流を持つことを任務に換算された私達は、今日もこうしてムグスケ洞窟に訪れたのだが――


「リネットには、この恋の魔道具をお貸しします! これは、意中の相手の髪の毛と唾液と爪と汗と血液を混ぜ合わせて流れ星にかざせば、相手を意のままに操ることが出来る壺です! これでアレンの心を鷲掴みにしましょう!」


「恋の魔道具……それが!?」


 ある意味呪いの魔道具にしか聞こえないんですけど! しかも中々にハードルが高い!


「これこれセリエ、アレン殿下はもうリネットにメロメロなんじゃから、その魔道具は必要あるまい」


「あ、そっか」


 どうしてか、おばあさんの唯一の弟子であるルルラシカ公爵令嬢セリエ様に、恋の相談と称された呪いの魔道具を勧められている! 何で!?


「じゃあこれは? 意中の相手をその気にさせる魔道具で、煙を吸わせれば一瞬でその気に――」


「セリエ様! もう止めて下さい!」


「ふぉふぉ、そうじゃのう。それくらいは自分の力で誘惑せんと、どれ、魔女秘伝の誘惑術でも教えてやろうかの」


「混沌の魔女様!」


 着いた途端、観察眼に優れているおばあさんに異変を気付かれたのがそもそもの始まりだった。

 あれよあれよとアレンに用事を言い付けこの場から退出させ、何があったかを根掘り葉掘り聞かれ、馬車の中であったことを話したら、こんな事になった。救いはアレンがこの場にいないことのみ!


「何の話なんですか!? 私はただ、私ばっかりドキドキさせられるのが負けたみたいで悔しいって話をしただけです!」


「もう、分かってないなぁリネットは。それはね、相手にもう一歩踏み込んで欲しいってことなのよ!」


 セリエ様、一生結婚しない、独身でいいって宣言していたのに、どうして恋のアレコレが分かるんですか? セリエ様だって私と似た様な恋愛経験値ですよね?


「ふぉふぉ、若いのぉ」


 ……魔女は、あらゆる手を用いて相手を罠に嵌める手腕から、恋愛に対してもエキスパート! 何なら恋心さえ利用する魔性の持ち主! おばあさんに勝てるとは思っていません!


「まぁ冗談はさておき、リネットの元妹は面白い女子(おなご)じゃのう」


 おばあさん達には、アレンの話をするついでにウルのことも話した。


「もう縁を切ったのに一々絡んでくるなんて、迷惑よね! それに仕事を真面目にする気がないなら帰るか、呪われて一生石像にでもなってればいいのに」


「昔の混沌とした時代なら、簡単に生命を奪ってお終いじゃが、今の時代はそうもいかんしのぉ」


 怖い! 一々魔女の言うことが物騒で怖い! セリエ様も完全に染まってる!


「ふぉふぉ、だがリネットなら問題なく退けられるじゃろう。何せ、混沌の魔女(わたし)を打ち破った魔法使いなのじゃからのぅ」


「はい」


 負けるつもりは毛頭ない。

 私はウルの姉として、ずっとウルの姿を見てきた。嘘つきなウル、ずっと嘘をついて自分を良く見せて、私を悪者にして生きてきた。きっとここでも、同じことをするだろう。だから私は――降りかかる火の粉を徹底的に払おうと思う。


「混沌の魔女、私に、嘘がつけなくなる魔道具を貸して下さい」


 放っておいても勝手に自爆すると確信してるけど、どうせなら意地悪な姉の手で、とどめを刺してあげますね。



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