46話 望まぬ来訪者②
いつまでも私に強気なお父様とお義母様。幼い頃からの先入観でしょうが、いい加減、うんざりです。
「メルランディア子爵、子爵夫人――――誰に喧嘩を売っているのか、分かっているんですか?」
未来の魔女セリエ様も、お父様に毅然と立ち向かった。私だって、負けてられない。
魔力を放出して空間を一気に冷却させると、お父様とお義母様は顔色を変え、『ひっ』と悲鳴を上げた。
私は帝国騎士団の一員であり、あの混沌の魔女をも打ち負かした魔法使いです。そんな私がお父様やお義母様相手に負けるなんて、帝国騎士団にも魔女にも失礼よね。
「誰に喧嘩を売っているのか分からないのなら、その身に理解させてあげますね。ああ、安心して下さい。殺したりはしません、ちょっと痛い目に合ってもらうだけですから」
未だに私を親に逆らえない小さな子供だと勘違いしているお父様達が、二度と勘違いしないように。
「す、すまなかったリネット! いや、申し訳ありませんでした! 二度とリネットに逆らわない! だから許してくれ!」
しっかりと時間をかけて分からせるつもりだったのに、お父様達はものの数分で地面に這いつくばった。身の危険を肌で感じ、ガタガタと体を震わせながら謝罪の言葉を口にするお父様に、魂が抜けたように呆然とするお義母様。
そんなにすぐに降参するなら、初めから喧嘩を売らなきゃ良かったのに。
「言っておきますけど、ウルがクリフ様に婚約解消されたのは私の所為じゃありませんよ。ウルはクリフ様に、『自分が家の手伝いをしていて、姉の私が堕落的な生活を送っていた』と嘘をついていました。それがバレたから、婚約解消されたのでは?」
「そ、そんな……」
ウルは自分が優位に立つためなら、どんな嘘でもつきますからね。
幼い頃から嘘をつき、そんな妹の嘘を全て鵜呑みにしていたお父様達がいたから、ウルは嘘をつくことが普通になってしまった。悪いとも思っていない。
いつまでも部屋を氷漬けにしておくわけにはいかないので、魔法を解き、元に戻す。
「お帰り下さい、メルランディア子爵、子爵夫人。二度と私に関わらないで下さい、ウルもね」
しっかり首に縄でも付けて監視しておけよ、っと忠告したのだが、お父様もお義母様も、途端に顔色を真っ青に染め、俯いた。
何? 嫌な予感。もしかしてもう、ロクでもないことをした後なの?
「あの、その……帝国騎士団で人員を募集していると目にしまして……」
募集って、事務員のこと?
帝国騎士団では、最近、人員募集をかけた。騎士や魔法使いとは違う、救護班や料理人など、帝国騎士団を陰で支える部分なのだが、その中でどうしても騎士側の事務作業が追い付かないと、短期で事務員の募集を行うことにしたと聞いた。
帝国騎士団の騎士と魔法使いは、本当に事務作業が苦手ですからね。魔法使いも私が入ってようやく円滑に回るようになったと聞くし、あまり外部の者を入れたがらない帝国騎士団だが、任せてみてもいいんじゃないか、と案が出たとか。
「ありますけど、貴方達には関係のないことでしょう」
「いえ、その……ウルがそこに応募しまして……」
「ウルが?」
働いたら負けだと考えているあの子が仕事に応募とか、どういう風の吹き回しで? いや、っていうか、ウルが受かるのは絶対に無理よ。短期の事務仕事と言えど、帝国騎士団本部の募集要項は厳しくて、貴族であることとか、事務経験必須とか、資格がどうたらとか、色々あった気がするし、貴族令嬢しかクリアしていないウルが採用されるわけがない。
採用されるとしたら、また嘘を付くしか――――
「まさか……嘘をついたの!?」
「う、嘘じゃないわ! ウルはちゃんと仕事してたのよ! 仕事の書類に名前を書かせていたし……」
「書類って……まさか、私がやっていた仕事の書類!? 貴女が私の痕跡を残すなと言って名前を書かせなかったところに、ウルの名前を書かせていたの!?」
「だって、あのままじゃウルが何もしていない駄目な子に勘違いされてしまうでしょ? だから……」
信じられない! 私がメルランディア子爵家でやってきたことは、全部ウルの手柄にされていたってこと!? だから……クリフ様もウルを信じたの?
「嘘を付いて帝国騎士団に採用されるなんて、許されないことですよ! 早くウルを止めて下さい!」
「む、無理よ! もうウルはここで働く気で、さっき送り届けたところだし」
ウルの姿がないと思っていたら、そんなことに……!
自分で言うのもなんだけど、私の仕事は完璧だと思う。メルランディア子爵家で過ごしていた間も、手を抜かずに、丁寧に必死に取り組んだ。結果、経費削減に円滑な運営など、数々の功績を残したと思う。
その評価をウルが奪ったなら、実力主義の帝国騎士団なら採用してしまってもおかしくない。
「本当にロクでもないことしかしませんね! これは不正ですよ!? バレたら大変なことになるのが分からないんですか!?」
「そんな、大袈裟よ。ちょっと名前を書いて偽装しただけだし、やろうと思えばウルだってちゃんと出来るわよ。あの子は自慢の娘だもの」
「そうだ! 心配ならリネットがウルの手助けをしてやればいいじゃないか!」
誰がするか!




