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44話 ウルの再来

 

 ◆


 メルランディア子爵邸――


「クリフ様! 会いに来てくれたんですね!」


「あ、ああ」


 数日後、やっと呪いが解けメルランディア子爵邸に足を運んだクリフは、嬉しそうに胸に飛び込むウルを抱き止めた。


「私、もう退屈で退屈で死んでしまいそうでしたぁ」


 シルマニア宮での騒動以降、メルランディア子爵家を見る周囲の視線は冷たく、以前のように社交界に参加することもままならなくなったらしい。でも、僕は大して気に留めてなかった。確かに、今のウルはリネットによって汚名を着せられているが、時間が経てば、いつか汚名は晴れると信じていた。何故なら、全てはリネットが意地悪姉であって、ウルは何も悪くないからだ。

 それに、いざとなれば結婚して僕がウルを守ればいいと、本気で思っていた。


「退屈なら何か学べばどうだ? そうだ、魔法はどうだ? 姉があれだけ出来るんだから、君だって」


「私、魔法は勉強していないの」


「勉強していない……とは? 学校で習っただろ?」


 学校では魔法と剣技のどちらかを履修しなければならない。勝手にウルも魔法を選択したと思い込んでいたが、違うのか?


「私、その頃は病弱だったから、どっちも習っていないんです」


「――え」


「あ、今は元気だから安心してね」


 基本、魔法と剣技の履修は選択しなければならないが、病気などの仕方のない事情がある場合に限り、免除される。それは知っているし、ウルが言うなら、それが真実なんだろう。


 だが、何故か真っ直ぐに受け止めることが出来なかった。


「……ウルは僕に、リネットは家では何もせずに堕落的な生活を送っていたと言ったよな? 家の手伝いも全て君に押し付けていた、と」


「そうですよ、お姉様ったら酷いですよねぇ」


「なら僕と結婚した後、家門の運営をウルに任せても大丈夫なんだよな?」


 はい、と頷いて欲しかった。安心させて欲しかった。


「えー、どうして私がそんなことしなくちゃならないんですか?」


 だけどウルから返ってきた答えは、期待とはかけ離れたものだった。


「どうしてって……結婚するからには当然だろう!」


「無理ですよぉ、私、お姉様みたいに勉強ばっかりする根暗女じゃないんで、そんなこと出来ません」


 何を言ってるんだ? 頭がクラクラする。

 家の手伝いをしていたというのも、全て嘘なのか? まさかリネットが言っていることが――全て正しいのか?


「お姉様ったら本当に意地悪なんですよ? 良い学校に行ってちょっと頭が良いからって私をいつも馬鹿にして、『少しは勉強しなさい、しないと後悔することになるわよ?』なんて、偉そうに言うんです。私は可愛く着飾って隣に立って笑っているだけで価値があるのに、可愛い私に嫉妬してそんなこと言うんだから、酷いお姉様ですよねぇ」


「……っ」


 言葉が出なかった。これが、言葉を失うということか。

 全てを突き付けられて、やっと現実が見えた。

 冷静に考えれば分かることだった。

 何の努力もしてこなかった人間が帝国騎士団に入隊出来るはずがない! それは僕が身に染みて分かっていたはずなのに、何も見えていなかった。誰の言葉も聞こうとしなかった。


 愚かなのは、僕だ。


「ウル……君との婚約を解消したい」


 本当はリネットが優秀なことに気付いていた、気付いていて、気付かないフリをしていた。彼女を手放した自分が間違っていると、認めたくなかったから。


 どうしてリネットを手放してしまったんだろう。手放さなければ今頃、僕がリネットと――


 後悔しても、もう遅い。




 ◇◇◇



 人間、思い通りにいかないのが人生だと言われればそれまでだが、たまに、どうしてこんなことになってしまったのか――本気で分からない時がある。


「アレン殿下ぁ、今日の私、どうですか? すっごく可愛くないですかぁ?」


 由緒正しい帝国騎士団の魔法使いの棟に、どうしてウルの姿があるのか……しかも、この場に相応しくないひらっひらなドレス姿で! アレンに色目を使って!


「もしあれなら、今日の任務に私を連れて行ってもいいんですよ?」


 誰が連れて行くか! もうお願いだから、メルランディア子爵家に帰って!


 ◆


 事の発端は、帝国騎士団本部に、メルランディア子爵と夫人――お父様とお義母様が来たことだ。

 本当は会わずに追い返してもよかったんだけど、どうせろくでもないことを考えているんだろうな、と、思ったら、何も聞かずに追い返すのが怖かった。この人達、人の迷惑とか一切考えない人種だから。


「リネット、ウルがクリフ様に婚約を解消された」


「……はぁ」


 本部の応接室にて、最初に切り出されたのがこれ。

 クリフ様とウルの婚約が破談になったのは、風の噂で聞いていた。でも、私は二人が結婚しようが別れようが興味がなかったし、理由もどうでもよかったから聞いていない。


「これを聞いて何とも思わないの!?」


「特に何も思うことはありません」


 そんな目にハンカチを当てて涙ぐまれても、コメントはない。お義母様と血の繋がりのある実の娘のことなんですから、そちらで勝手に話し合えば?


「なんて薄情な姉なのかしら!」


「もう姉ではありません、私はそちらの家と縁を切り、コトアリカ伯爵家と養子縁組をしました」



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