34話 行方不明のご令嬢
「流石はリネットですね。分かりました、では、そのように手配します」
「はい、お願いします」
魔法使い代表として受けたのだが、その背後では、マルチダ先輩とサイラス先輩が私とアレンの会話の内容について、身を寄せあってこそこそ話をしていた。
「クリフ様、騎士の中で弱い方じゃないのに、アレン隊長はどんな戦いをリネットちゃんに教え込んだの? 怖いんだけど!」
「俺もこえーよ!」
余談ですが、騎士と合同で訓練する際に別の騎士と戦ったりもしますが、今まで対戦した相手とは無敗です。サイラス先輩とはまだお手合わせしたことがないので、いつかお手合わせしてみたいですね。ただ、クリフ様との再戦もサイラス先輩との手合わせも、実現する前に新しい任務を与えられて、それどころではなくなってしまった。
その任務は帝国騎士団にとってとても重要で、特殊な任務だった。
◇
帝国騎士団の任務は、多岐にわたる。
通常は護衛や魔物退治、それ以外は訓練や書類整理など割り振られた仕事をこなすのだが、中には選ばれた人間だけが任せられる、特殊な任務がある。
特殊な任務を任されるのは、帝国騎士団で実力を認められた証拠であり、とても名誉であると同時に、失敗の許されない重要な任務でもある。
「人探し、ですか?」
魔法使い隊長アレンの部屋に呼び出された私は、聞きなれない任務の内容に、頭を捻ねった。
「ええ、行方不明になっている令嬢を見つけ出して欲しいと、依頼がありました」
人探しは通常、警備隊の仕事だ。
帝国騎士団は魔物や皇族の警護など、緊急性が高く危険なものや、重要性が高いものを行う。人探しが重要性がないとは言わないけど、普通は依頼を受けないものなんだけど……
「行方不明になったのは、どちらのご令嬢なんですか?」
「《セリエ=ルルラシカ》、ルルラシカ公爵家の十七歳の一人娘です」
「ルルラシカ公爵って……現皇帝陛下の弟君ですか!?」
「そうです、そのルルラシカ公爵からの依頼です」
「公爵令嬢が行方不明だなんて、一大事じゃ……!」
人探しを帝国騎士団が請け負う理由は分かった。分かったけど、それならもっと大掛かりに捜索した方がいいんじゃないの? どうして、私だけしか呼ばれていないの?
「ルルラシカ公爵は娘の名誉のためにも、大事になるのを望んでいません。秘密裏に娘を見付けて欲しいそうです」
確かセリエ様は婚約が決まっていて、もうすぐ結婚すると聞いたことがある。
結婚前に行方不明、最悪、誘拐されたなんて話が出回ったら、ある事無いこと勘ぐられるだろう。結婚前に大事にしたくない気持ちは、分からなくはない。
「なので、この件は口外無用でお願いします」
「は、はい、分かりました」
想像以上に責任ある任務に、思わず息を飲む。
「因みに、他には誰が参加するんですか?」
「魔法使いからはリネットとマルチダ、騎士からはサイラスと他数名、後は、俺も参加します」
「アレンも?」
「ええ、よろしくお願いします」
アレンがいるなら、安心出来る。悔しいけど頼りになるし、悔しいけど強いし、悔しいけど頭も切れる。これだけ安心出来る相手は他にいない。
「既に何名かはセリエの捜索に当たらせています。リネットは、このまま俺に付いて来て下さい」
「分かりました」
「ただ、ここで一つ問題があります」
「問題?」
「ルルラシカ公爵はノートリダム伯爵家と長年家同士の付き合いがあるそうで、クリフの参加を希望しています」
……よりにもよって、クリフ様ですか……
「現在、クリフには罰として全ての任務の参加を禁止していますが、ルルラシカ公爵の希望に沿う形で、今回に限り参加を許可しました」
心の奥底から嫌だけど、依頼主の希望とあっては聞き入れるしかない。相手がルルラシカ公爵様とあっては、尚更。
「聞くところによると、クリフに反省は一切見られず、雑務ばかりさせられていることに文句ばかり言っているそうです。自分の何が悪かったのかも理解していないので、彼はまた、不快な態度を取ると思いますが……」
「私は大丈夫ですよ」
好き嫌いで仕事相手を選ぶのは、私のポリシーに反する。どれだけ大っっっっ嫌いな相手でも、真面目に働いてくれるなら、仕事相手として割り切ります!
「働きを期待していますね、リネット」
「はい、お任せ下さい」
何はどうあれ、行方不明になった令嬢を一刻も早く見つけ出すのが先決。どうか無事でいて下さいね、セリエ様。
「そういえば、セリエ様とアレンは顔見知りなんですよね?」
「ええ、親族ですからね。ですが、あまり接点はありません。ルルラシカ公爵家は皇室とは全く関係ない仕事をしていますし、ルルラシカ公爵は娘を溺愛していて、パーティーでも片時も傍から離れようとしないので、セリエとは父親を交えて一言二言会話をするくらいです」
過保護……! お父様とお義母様とはまた違うタイプの過保護ですね。
「セリエ自身も大人しく、自分から話しているのを見たことがないくらい消極的で、仲の良い友人も一人もいないと思います」
「そうなんですね……」
私もお父様達に友人を切られて一人ぼっちだったから、何となく親近感が沸く。
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