表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/67

32話 クリフ様来襲

 


(アレンが迎えに来てくれて良かった。アレンの婚約者になれて良かった)


 誰も私を大切にしてくれない、見てくれない、信じてくれない、好きになってくれない。そんな環境から私を助け出してくれた皇子様。


 繋がれた手を握り返すと、アレンは笑みを強めて、握っていた手に口付けした。


(駄目だ、絶対に恋愛でも敵わない)


 どこか敗北感を感じたけど、幸せなことは変わらなくて、幸福感に包まれたまま、中に戻った。



 ◇◇◇


 シルマニア宮での任務から、一週間が過ぎた。

 元々、帝国騎士団では私の意地悪姉のレッテルは剥がれ掛けていたし、あの騒ぎも、『やっぱりな、リネットが妹を虐めるわけない』と、納得されただけで、妹――ウルに関しては『あんな妹がいて可哀想』と同情されたけど、特に大きな騒ぎにはならず、普段通りになった帝国騎士団の日常を、今日までは、変わらず平和に過ごしていた。


「リネット、僕と勝負しろ」


 ……唐突に何を言ってるんだ、この人は。

 今、私の目の前で勝負を挑んでいるのは、元婚約者であるクリフ様だ。わざわざ魔法使いの棟まで来て言うのがそれ? ウルの騒動が終わってホッと一息ついてるところなのに、意味が分からない。


「ちょっとクリフ様、いきなりすぎて意味不明よ。大体、何で同じ帝国騎士団同士で勝負しなきゃなんないのよ」


「五月蠅い! 万年雑務をやってる半人前は黙ってろ!」


 一緒に仕事をしていたマルチダ先輩が注意するが、それが逆にクリフ様の怒りに触れたのだろう、怒鳴りつけるように大きな声を出した。てか、雑務をしているから半人前って……


 日常に戻った私は、マルチダ先輩と二人、領収書の整理など、日々雑務をこなしていた。

 もう新人ではなくなったけど、帝国騎士団に所属する魔法使いは、日々を魔法に捧げてきた人が多く、事務作業が壊滅的に苦手な人ばかりで、メルランディア子爵家で事務作業を行ってきた私が、引き続き行うことになった。

 因みに、『ほんっと! リネットちゃんが来てくれて助かったわ! 他の奴等、一切覚えようともしないし、使えないんだから!』と、私が来るまで殆ど一人で事務作業をこなしていたマルチダ先輩の怒りの籠った発言には、他の魔法使いの皆さんがガクガクと震えていた。


 そんな経緯があってこその雑務、事務仕事なのだ。

 新人がやる仕事って印象が強いからその反応なのかもしれないけど、騎士だって似たような理由で同じ人がし続けてるって聞いたことがあるし、同じ帝国騎士団で働いているなら理解していてもいいと思うけど。


「喧嘩売ってるのね……いいわ、買ってやろうじゃない」

「落ち着いて下さい! マルチダ先輩!」


「たかが魔法使いが僕に勝てるとでも思っているのか?」


 殺意丸出しに臨戦態勢に入るマルチダ先輩をなんとか抑えつつ、クリフ様の言い方に苛々する。

 確かに魔法使いと騎士では、詠唱の時間も関係して魔法使いが不利になると言われている。でもだからって魔法使いを見下す権利がある?


「私にお負けになったクリフ様の台詞とは思えませんね」


「あれは、油断していたからだ! 今戦えば、負けることはない!」


 こいつ……またコテンパンに叩きのめしてやろうか。

 帝国騎士団に入隊してから今まで、クリフ様と関わらずにいたのに、何で今更? 周りが気を使って私とクリフ様がパーティーを組むことが無いようにしてくれていたし、騎士と魔法使い合同で訓練をする時も、会わないように配慮してくれていたのに。


「帝国騎士団では私闘は禁止されていますよ? 処罰を受けたいんですか?」


 私は御免だけど。


「訓練だということにすれば文句はあるまい」


「では、正式に訓練として要請して来て下さい、そうしたら相手をしてあげますよ」


「逃げるのか!?」


 ちゃんとすれば相手するって言ってるでしょうが! 話が通じないなぁ! 苛々してきた。禁止さえされていなければ、私だって喜んでお相手してあげるわよ。


「――あ、いた! おいクリフ! 勝手にいなくなるな!」


「サイラス先輩」


 クリフ様に遅れること数分、慌ててやってきたサイラス先輩は、クリフ様の姿を見つけるなり、肩を掴んで引っ張った。


「触るな! こんな奴に! 妹を虐める意地悪姉にまんまと騙されるような奴が!」


 意地悪姉、今や久々に言われましたね。


「だから! お前は別の任務でいなかったけど、あの尻軽女の本性はバレたんだって!」


「ウルのことを尻軽女と呼ぶな! 周りが何と言おうと、僕はウルを信じる!」


 私のことは信じなかったのに、ウルのことは信じるんですね。

 単純に騙されやすいのか、恋で現実が見れていないのか、そもそも人を見る目がないのか、まぁどちらでもいいですけど、魔法使いを馬鹿にしたのは許せない。


「魔法使いを馬鹿にしていると痛い目を見ますよ」


「何を言う、騎士に守られないと何も出来ない役立たずの集団が!」


「はぁ……!? マジで許さない!」


 マルチダ先輩! 気持ちは分かるけど攻撃しないで! 私闘は禁止されてるので、手を出した方が負けなんです! こんな人の所為で処罰を受けないで!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ