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27話 階段の踊り場



 ◇◇◇


 私がアレンに指示されたのは他の帝国騎士団と同じ大ホールの警備で、異常が無いか確認しながら大ホールの中を巡回する。

 頭上を見上げれば、天井裏で警護にあたるマルチダ先輩と目が合い、手を振ってくれた。サイラス先輩も大ホールに戻って来ていて、招待されている貴族と談笑している姿が見えた。


 通常、任務中の帝国騎士団には極力声をかけないのが一般的だ。


「リネット嬢、お久しぶりです! いやぁ懐かしいですなぁ」


「グイルグ子爵……」


 際限なく挨拶を許してしまうと、帝国騎士団とお近付きになりたい貴族達が列をなし任務どころではなくなってしまうから。だけど、親しい間柄や家同士の繋がりがある相手なら、任務に支障が出ない程度の会話なら許される。


「リネット嬢ならいつか日の目が当たると信じていましたが、本当に素晴らしいですよ! いやぁ、これを機に、またグイルグ子爵家とも交流を深めていきましょう!」


 わざとらしく私との繋がりを匂わせるこの人は、グイルグ子爵。

 メルランディア子爵令嬢時代、パーティーで『お前みたいな意地悪姉、一生地面に這いつくばってろ!』と暴言を吐き、私を蹴りつけた男だ。手紙でそれとなく拒絶をしておいたのだが、意図が通じなかったのか、それとも、私の意志などお構いなしに強引に繋がりを持とうとしているのか。


「良かったら婚約者のアレン殿下もご一緒に――」


「また貴方にお腹を蹴られろとでも? 冗談じゃありません、交流はお断りします」


 明らかな権力目当てで、親しくもないのに親しいフリをされても困ります。

 周りに私との親密を見せつけるように声をかけてきたけど、私が拒絶したことで赤っ恥をかかされたグイルグ子爵は、顔を真っ赤にして体を震わせた。


「そ、そんな昔の話を持ち出さなくても! あれは、リネット嬢がウル嬢を虐めていたのが原因じゃありませんか」


(虐めてないって何回も言ってるでしょ! しつこいな!)


 声には出さず、心の中で思いっきり叫ぶ。

 この人に何を言っても無駄だし、グイルグ子爵に信じて欲しいとは思わなかった。


「グイルグ子爵、私は帝国騎士団の任務中です。任務中に声をかけていいのは親しい間柄だけだと知らないんですか?」


「いや、それは、私とリネット嬢の仲なら――」


「グイルグ子爵と親しい覚えはありません」


「そ、そんな……」


 完全に拒絶すると、今度はグイルグ子爵の顔色が真っ青に染まった。

 グイルグ子爵からしたら、私がこんなにハッキリと拒絶するとは思わなかったのでしょう。昔の私はメルランディア子爵家にしがみついていて、ここまで反抗することはなかった。


(いつまでも思い通りになると思ったら大間違い)


 今の私はお父様の顔色を気にしなくていいから、メルランディア子爵家と繋がりのあるグイルグ子爵家に気を使う必要も無いの。


「もし次に私に暴力を振るえば――その時は容赦しません。帝国騎士団の力をその身に示して差し上げましょう」


「お、お許し下さい! 本当に本当に申し訳ありませんでした!」


 敵意を持って睨み付ければ、グイルグ子爵は顔面蒼白のまま頭を深く下げた。


(余計なちょっかいをかけてこなきゃ見逃してあげたかもしれないのに、類は友を呼ぶと言うけど、ウルの友人なだけあって馬鹿な人ね)


 私はグイルグ子爵に見向きもせずに、止まっていた足を動かした。


(まさかウルの前にちょっかいをかけられるなんて……すぐに負けを認めて引いたからいいけど、予想外で疲れた)


 引き続き大ホールの巡回をしながら、隠れて息を吐く。


 あれからグイルグ子爵は居たたまれなくなってすぐにシルマニア宮から立ち去ったらしく、姿は消えていた。それはそうでしょう、身内のパーティーでしたが、令嬢を足蹴にしていたことがバレた上に、その令嬢は第三皇子の婚約者である私。

 明日にはグイルグ子爵の醜態が社交界中に広がり、肩身の狭い思いをすることになるのは間違いない。


(私が注目されているのは分かってる)


 アレンの婚約者で帝国騎士団の魔法使い。そして、家を勘当された意地悪姉の元子爵令嬢。

 多くの貴族が私とアレンの婚約を好意的に受け止めたとしても、それはあくまで私の肩書きによるもので意地悪姉のレッテルが消えたワケじゃない。実際、本当はどんな人物なのか気になるのは当然でしょう。

 任務中で直接声はかけられないけど、視線は痛いほど突き刺った。


 吹き抜けを上がる大ホールの階段。

 一階から二階に移動するために階段を上っていた私は、上から下りて来る人物に気付き、踊り場で立ち止まった。


「お姉様、やっと会えた……!」


 視線に映ったのは、出来れば二度と会いたくない、私に意地悪姉のレッテルを張り付けた張本人。


「……ウル」


 私に会えて嬉しそうに顔をほころばせるウルと違って、私の気持ちはとても冷めたものだった。



誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

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