表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/67

26話 大ホール

 


「えっと……サイラス先輩? 大丈夫ですか?」


「お前の妹、頭いかれてんのか!? 俺は、ワードナ侯爵家の――!」


「お気持ちはごもっともです。後でメルランディア子爵家に思う存分文句を言って下さい」


 ウルのことだから全部自分に都合の良いように脚色するだろうけど、ワードナ侯爵家からの抗議なら、お父様は素直に謝罪するでしょう。


「大体、帝国騎士団の入隊が不正ってなんだよ!? アレン殿下の名前まで出しやがって!」


「ウルは自分に都合の良いように平気で嘘を付く子なんです」


「マジかよ、クソっ!」


 帝国騎士団で縁故入隊なんてあり得ないことだが、そんな話が耳に入れば信じる人間が出て来てもおかしくない。ウルはそうやって、いつも私を悪者にするのだ。


「……リネット、お前を意地悪姉だって言って罵倒したこと……悪かった」


 態度は軟化していたけど、サイラス先輩から謝罪されたのは、これが初めてだった。

 サイラス様には珍しく項垂れている姿を見ると、本当に気にしているんだな、と、思ったので、すぐに謝罪に応えた。


「大丈夫ですよ、今は私を信じてくれていますよね?」


「勿論だ! あんな色ボケ女の嘘に騙されていた自分をぶん殴ってやりたい!」


「あははは」


 お父様とお義母様は、何度、私が訴えても信じてくれなかった。長い間、家族でいたのに、私のことを最初から信じる気が無かった。クリフ様も同様、婚約者の私のことを知ろうともしなかった。


 あの頃は、誰も私のことを信じてくれないって思い込んでいたけど……こうやって私を信じてくれる人が増えるのは嬉しいな。


「てか、まだお前を探してるとか、何考えてんだ、あの女」


「さぁ? どうせくだらないことだと思います」


 ウルの考えなんて興味もない。私に関わりが無かったら、完全に無視するのに!


「はっ! 時間ヤバい! すみませんサイラス先輩、失礼します!」


「おお、頑張れよ。あと、あの尻軽女には注意しろよ!」


「はい!」


 サイラス様と別れ、私は急いで次の任務のために、玄関ホールとは真逆の方向へ向かった。


 ◇◇◇


 本日、先輩達の補佐として色々な場所を行き来していた私が最後に辿り着いたのは、アレンがいる大ホールだった。大ホールは広さも人の数も規模が大きい分、配置される人数も多く、アレンはその中で隊長として指揮を取っていた。


「リネット、お疲れ様でした。問題はありませんでしたか?」


「……はい、大体は」


 あれからもしつこいウルの妨害(会わないように必死)に遭いつつ、ジュース溢すわコケるわ泣き出すわ男に色目使うわやらで騒動ばかり起こしていたウルに心底呆れ果てたくらいです。


「報告は受けていますよ。あれだけ恥をかいたのに懲りない方ですね」


「面倒をおかけしてしまい、申し訳ありません」


「リネットが謝る必要はありません」


 確かにもうウルとは無関係なんだけど、姉の今の立場や評価が気に入らない! っで、暴走していると思うと、少しは責任の一環を感じてしまう。


「主催者のコット兄さんも楽しそうにしていますし、いいんじゃないですか」


 普段のパーティーでは起こり得ないドタバタ劇が、この国を離れる前の土産話としてお気に召したらしい。主催者が楽しんでいるならまぁ良かったけど……


「大ホールは招待客が集う場所です。その中には、メルランディア子爵令嬢の姿もあるでしょう。彼女はずっとリネットの姿を探していたので、接触してくるのは間違いありません。充分、気を付けて下さい」


「はい、分かっています」


 もう逃げられない、ウルと直接、顔を合わせるしかない。


「招待客に声をかけられて、話すのは問題無いんですよね?」


「挨拶程度なら構いませんよ」


「それで招待客が私に喧嘩を売って来たら……任務中でも買うことは可能ですか?」


 私がウルから逃げ回っていたのは、一回一回、ウルの相手をして仕事の邪魔をされるのが嫌だったからだ。

 どうせ邪魔されるなら、最後に一度だけでいい。


「どうぞ、思う存分」


 私の質問に、アレンは満面の笑顔で頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ