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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第450話 百点ではない

(……デカパイたちも、この地の空気には慣れてきやがったな)


紅鱗の地は他の場所と比べ、そこにモンスターがおらずとも探索者に威圧を、人によっては不快な圧を感じさせる。


探索し始めたばかりの頃は、ミシェラたちもその圧や空気に対抗するために、常に気を張り続けていた。

しかし……彼女たちは決して傲慢になった、過信するようになったわけではなく、丁度良い張り詰め具合を把握。


多少体に疲れは残っているものの、対応力が上がったことで戦闘に関するパフォーマンスは寧ろ上がったと言える。


(にしても……良い事ではあるんだが、全くって言って良いほど人為的な襲撃とかがこねぇな)


プライベートでの探索ならいざ知らず、今回イシュドたちが紅鱗の地を調査しているのは、学園に届いたイシュドたちあての依頼。


結果的に調査依頼を受けはしたものの、イシュドは万が一の襲撃などを危惧し、実家から同世代の騎士と魔術師を一人ずつ雇った。


人為的な襲撃が来ないに越したことはない。

ただ、ガルフとイブキ、フィリップとアドレアスの四人で受けたミノタウロス討伐依頼の件があるため、もしかしたらという心配事が残り続けていた。


「イシュド様、考え事ですか?」


「ん? あぁ、まぁ……ちょっとな」


「……そうですか。フレア様たちが動いてくれたため、基本的に起こることはないと思いますが」


「そうだな。本当に、あいつらは良い行動を起こしてくれたよ…………」


「警報が鳴り響いてるのですか?」


「どうだろうな…………このま終わりゃあいいけど、って感覚がずっと残ってる」


「なるほど……私たちの方でも警戒を続けますので」


護衛として雇われた身としては、イシュドにはただ紅鱗の地で調査を楽しんでほしい。


だが、そう出来ないことは、イシュドがどれだけガルフたちのことを大切に思っているのかを知っている……だからこそ、心配し続けてしまうのを理解出来る。


「ありがとよ。んで、あいつら……このまま戦り続けられると思うか」


二人が頭の片隅に残っている不安について話す中、ミシェラたちはトロールと戦っていた。


「ん~~~、無理ではないんじゃないですかね」


トロールは……一言で言うなら、太った巨人。


サイクロプスやミノタウロスなどと違い、でっぷりとした腹が特徴的。

しかし、それでもミノタウロスと同じくBランクモンスターであり、一撃の攻撃力に限れば……ミノタウロスやブレーダーグリズリーをも上回る。


その反面、スピードや知性に難ありという弱点はあるものの、全て思いっきり振るわれる棍棒の一撃から感じられるプレッシャーを考慮すると、不利なのはガルフたち側と言わざるを得ない。


一人でトロールを討伐出来るジャレスはその辺りを考えた上で、アドレアスたちだけであってもトロールに勝てる可能性はあると答えた。


「………………」


「あれ? リベヌはあまり勝率は高くないって思ってる感じか?」


「そうですね……攻められてはいますが、今のところまだ有効打は入ってません」


ブレーダーグリズリーよりは劣るものの、トロールの防御力は決して低くない。

それでも、現時点で幾つかの切傷は刻まれているが……どれも出血多量を狙えるほどの深さはない。


「あぁ~~~…………まっ、あれか。ガルフが攻撃にあまり意識を割けてないからか」


「えぇ。対応が間違っているとは言えないけれど、討伐というゴールを考えれば、百点の正解とは言えません」


厳しいな~~~っと、ジャレスが軽口を叩くことはなかった。


ガルフの闘気、護身剛気は確かに強力な力である。

そして相手が超火力を持つトロールであれば、万が一のことを考えて防御に回したい。


そのため、今回の戦いでは二つの丸盾を装備し、なんとかかんとかトロールの攻撃を対処していた。


「イシュド様はどう思われますか」


「リベヌと大体一緒だ。つってもまぁ……あいつらがあぁなるのも解らなくはねぇけどな」


イシュドもトロールの攻撃がどれほど重く、どれほど破壊的なのか知っている。

紙一重で避けた際は、口角が上がると同時に、多数の冷や汗が流れた。


そして変態狂戦士の血が騒いだ結果、バーサーカーソウルを発動した状態で挑み、渾身の一撃をぶつけ合った結果……トロールに大ダメージを与えることに成功したが、イシュドも大きく後方に吹き飛ばされ、両腕がイカれた。


(随分前だが、あん時戦りやったトロールより……は、弱ぇか)


以前イシュドが討伐した個体より弱くとも、ガルフたちにとって超強敵であることに変わりない。


「けど、この前のブレーダーグリズリー戦みたいにミシェラ様やフィリップ様が無茶をすれば、戦況を変えられそうじゃないですか?」


「そうすりゃあ、確かに変えられるだろうな。でもな、ジャレス。あいつらはまだ、俺たちみたいにぶっ壊れてたり、一部が抜けてたりしてないんだよ」


「………………なぁ、リベヌ。俺たちって壊れてるのか?」


「そうですね……レグラ家の外に目を向ければ、大多数が壊れてるのかもしれませんね」


レグラ家で生きてきたジャレスとしては、自分は同世代の中では強いが、それでも一般的な部類の騎士だと思っていた。


しかし、確かな魔術師としての知性を持つリベヌは、世間一般的な常識をある程度は理解していた。


「あいつらも、やるときゃああの時みたいにやるだろ。けど、まだ意識して出来ねぇんだ」


「そうなんすか? ミシェラ様は、前に似た様な無茶をしたことあるって言ってましたけど」


「タイミングとイメージの問題だ。簡単に言っちまえば……飲まれちまってるんだよ」


トロールのスピードを考えれば、寧ろ無茶を成功させる可能性は高い。


しかし、失敗すれば……待っているのは、明確な死。

それはガルフ以外のメンバー、全員が共通して感じ取ってしまっているイメージだった。


(ある意味、丁度良い相手ではあるか…………俺に追い付きてぇなら、乗り越えてみやがれ、お前ら)


困っているなら手を貸せば良いと、そんな簡単な問題ではないと解っているからこそ、イシュドは言葉で助けることもせず、警戒だけは続け……傍観することにした。

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