第444話 地味に痛い
「本当に、俺を飽きさせない場所だな」
「シャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
夜の紅鱗の地で探索を始めたイシュド。
現在、探索を始めてから約一時間半が経過。
夜中ではあるものの、徘徊している……もしくは獲物を狙って探索しているモンスターはそれなりにいるため、イシュドの溜まっていた戦闘欲が徐々に発散されていた。
そんな中、少し前に戦闘を行ったブレーダーグリズリーに匹敵する戦闘力を持つモンスター、ブラックレネークに狙われたイシュド。
黒色の鱗に赤色の模様を宿す大蛇。
ランクは当然Bであり、強敵も強敵。
イシュドがブレーダーグリズリーを解体している際に狙ってきたバウンディーモンキーの大半と同じく、狂暴性の高いモンスター。
これまでにも蛇系のモンスターとの戦闘経験があるイシュドからすれば、ガルフたちがブラックレネークと戦いたいと言えば……問答無用で、全員で戦えと告げる。
そして……約一分ほどブラックレネークと激闘を続け、イシュドはあることに気付いた。
(やっぱ、あいつらでも……後衛として、リベヌが参加したとしても、なし、だなッ!!!!!)
イシュドは鑑定系のスキルを有しておらず、現在はそういった効果が付与されたマジックアイテムも有していない。
それでも、これまでの戦闘経験から……自身の特徴などから、解ることがある。
「ジャァアアアアッッッ!!!!!」
(このデカ蛇!!! バーサーカーソウルを、持ってん、な!!!)
狂戦士の代名詞とも言えるスキル、バーサーカーソウル。
身体能力の超強化、一定ラインまでの痛覚の麻痺などといった効果を得られる代わりに、使用者の狂暴性が増す、爆発するデメリット付きの強化スキル。
使用者が許容できる限界時間を越えて使用し続けた場合、使用者は敵味方関係無しにぶっ倒れるまで暴れ続ける。
そんな対戦相手が使う場合、そのデメリットすら戦う側は恐怖を感じてしまうスキルを、ブラックレネークは有している。
(でも、使ってこねぇ、と…………んじゃ、いっちょその気に、させてやるかッ!!!!)
イシュドはイシュドで、ギリギリの戦いを楽しみたいが為に強化系スキルを使わず、武器も雷将ではなく一定レベル以上の頑丈さと切れ味が売りの戦斧を使用している。
そのため、ブラックレネークに「てめぇ!!! 誰に舐めプしてんだッ!!!!」と、ブチ切れはせず……ただただ、着実に追い詰めてその気にさせようと動く。
「っ!!!!!!」
「ぐっ!!!!!!」
だが、イシュドの気合を入れ直し、ほんの少し緩んだ隙を狙ったのか……ブラックレネークの強烈な尾撃が迫る。
二振りの戦斧によるガードは間に合うも、その場で踏ん張る事は出来ず、薙ぎ飛ばされてしまう。
(いっ!! ぎっ!!!! ってぇ~~~~~~!!!! これ、地味に痛ぇんだよな~~~)
両腕に痺れを感じるも、切れ味だけではなく頑丈さも売りである戦斧は砕けておらず、イシュドの骨にもヒビは入っていない。
ただ、薙ぎ飛ばされたイシュドは数本の木々に激突。
紅鱗の地に生えている木々は、その他の地域の木々と比べて固いのだが……当然ながらイシュドの体の方が頑丈であるため、木々の方が折れる。
その際、木との衝突で背中に感じる衝撃が、これがまた中々痛い。
(っと!! やっぱ、ダスティンパイセンが……槍じゃあ、無理だよな。大盾を、使ってたら、別かもしれねぇ、けども!!!!)
渾身の力を込めた尾撃に限れば、ブレーダーグリズリーの爪撃よりも威力は上。
(ガルフの奴なら……護身剛気を全身に纏って、りゃあ……なんとか、なるかも、な!!!!)
突然変異的な狂戦士であるイシュドが持たない力、闘気を有するガルフならどうか。
応用技である護身剛気を全身に纏えば、ダスティンよりも受け止められる可能性がある。
しかし、防御から即座に攻撃に移る事は出来ない。
相手が大蛇という、まだガルフがあまり戦闘経験のない相手というのもあるが、やはり紅鱗の地に生息する大蛇……並みの強さではない。
「ハハッ!!!! さぁさぁ!! 終わる頃には、後何枚に、なってんだろうなっ!!!!!」
「っっ!!! ジャアアアア゛ア゛ッ!!!!!!」
だが、イシュドもまた並みではない生物。
身体強化スキルを使用しないという条件下ながら、徐々に徐々に……二振りの戦斧がブラックレネークに触れる度に、鱗を剥ぎ取っていく。
当然ながら、ブラックレネークからすればふざけるなと怒鳴り散らしたい、ねちねちした戦法である。
ブラックレネークは正真正銘の大蛇であり、口を開けばイシュドを丸飲み出来る。
その全長は優に十メートルを越えている。
全ての鱗を剥ぎ取るとなれば、相当な時間が掛かる。
一部の鱗を剥ぎ取り、周辺の鱗も剥ぎ取ってそこから一転集中攻撃を行うのであれば、意味のある行動と言えるが……イシュドは、今のところそういったプランを取るつもりはない。
ただ、ゲーム感覚で至る部分からブラックレネークの体から戦斧で鱗を剥いでいく。
「へいへい!!! どうした、どうしたよっ!!!! このまま俺に、素っ裸に、されて終わるか!!!!!!」
イシュドの技術と体力があれば、決して不可能ではない。
ブラックレネークはイシュドという人間の事を細かくは知らないが、人間が何を吠えているのかある程度理解出来ており……その言葉に、ある程度の危機感を感じていた。
「ッッッ!!!!!!」
「っと!!! まっ、そういう事、してくるよなッ!!!!」
狙いを定めて酸性の毒を吐き出すが、イシュドはその攻撃を予測しており、あっさり回避して接近。
ブラックレネークは体をうねらせて回避しようとするが、その動きまで読んでいた狂戦士の刃がまた鱗を切り取る。
「っっっ!!!??? ッ、ーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」
「そうだよ!!! 余すことなく、ぶっ殺しに来いッ!!!!!!!!!」
赤黒い体から、赤黒いオーラを迸らせるブラックレネーク。
本気を出した黒赤の大蛇の姿に興奮する変態狂戦士は、自身も赤黒いオーラを纏い、互いに狂気を惜しみなくぶつけ合った。




