第443話 盗人撃退
「っ!!!!!!! ッ、アアアアア!!!!!!」
「っっっっっっ!!! ぅ、おらッ!!!!!!」
ブレーダーグリズリーのブレイククロウと、イシュドの轟斧両断が激突した結果……相手の武器を破壊し、その腕を引き裂いたのは、イシュドの轟斧両断であった。
ブレーダーグリズリーの爪は破壊され、右腕には甚大な被害が出た。
ただ……イシュドもブレイククロウの衝撃を全て破壊することは出来ず、その場に留まれずに押された。
その間、ブレーダーグリズリーは右腕の痛みを気にする素振りを見せず、残った左腕で撃墜。
「良いね……良かったぜ」
「……っ!!!! ァ、…………」
しかし、イシュドは咄嗟に右の戦斧で弾き、左の戦斧で胴に一閃。
心臓には届かなかったものの、重要な器官の切断と右腕の半壊が重なり、そのまま地に倒れ伏した。
(ん~~~、割と腕が痺れたな。やっぱ、強化系スキルを使わずにブレーダーグリズリーと戦うのはあれだったか?)
あれだったか? どころの話ではない。
だが、その事に関してこの場に狂戦士小僧へツッコみを入れる人物は、一人もいなかった。
「…………まっ、いっか」
一応、迷った。
一般常識では考えられない行動を取るバトムスではあるが、一応は迷った。
真夜中の紅鱗の地でモンスターを解体するか否か。
木々に火を付ければ明かりは十分だが、焚き木による明かりと、解体を行う際に漂ってしまう地の匂いは……周辺のモンスターに居場所を伝えるのに、十分過ぎる要素。
場合によっては、強者の血が流れていることで、向こうに向かってはならないと考える個体も存在するが……イシュドはその様なことは、一切考えていない。
「~~~~♪~~~~~~♫」
鼻歌を歌いながら血抜きを行い、終わったら肉や毛皮の剥ぎ取り、解体を開始。
(どうせなら、後で夜食にこいつの肉を食っちまうのもありだな……ん?)
危険な行為を行っている自覚はあるのか、普段よりも素早く……それでいて丁寧な
手捌きで解体を行っていたイシュド。
そんなイシュドの鼻に、ブレーダーグリズリー以外の獣臭が鼻に入った。
(複数体、だなっ!!!!)
襲撃者複数体。
イシュドが戦斧を取り出すよりも早く、石ころによる投擲が行われる。
(っと。こりゃあれだな。投擲スキルを持ってる奴の、投擲だな)
投げられた石ころ平然とキャッチ。
その際に感じ取った衝撃から、投擲スキルを持つ者が投げたであろうことを把握し、逆に投げ返す。
「っ!!!!????」
手投げも手投げ。
しかし、身体強化と剛力のスキルを同時発動した状態からの投擲。
当然、投擲スキルも発動しており……石ころを投げた襲撃者は、逆に投げられた石ころによって頭部を破壊され、即死。
「「「キキャキャっ!!!!」」」
(あぁ~~~、はいはい。バウンディーモンキーだったか)
スパイルモンキーと同じく、Cランクの猿モンスター。
身体能力に関してはスパイルモンキーに後れを取らず、器用さも負けてない。
ただ、スパイルモンキーと違って敵対者を煽るような行為は取らない。
その代わり……狂暴な者と、冷静かつ残酷な者。
おおよそのその二種類の性格に別れている。
その違いもあり、どちらのモンキーとも対面したことがある戦闘者は、戦うのが面倒なのはスパイルモンキーだと答える。
対して、戦いたくないのは……バウンディーモンキーだと口にする。
狂暴な個体は獣特有の俊敏かつ不規則な動きで激しく攻め続け……冷静かつ残酷な個体は目や鼻……耳などを良く狙い、器用な個体はまず指から狙うなど、ある意味攻め方が上手い。
「お前らと、やっても、なぁ~~~」
「「「っ!!!!????」」」
正確に特徴のある個体だが、バウンディーモンキーの主な目的は標的から何かを奪うこと。
となると、イシュドの現在の様子を振り返れば……狙われるのは解体中のブレーダーグリズリーの素材。
「よこら、せ!!」
「っ!!??」
「ふんっ!!!!」
「ブギャっ!!!!!?????」
イシュドはまずブレーダーグリズリーの素材を奪おうとしたバウンディーモンキーの腕をキャッチ。
そして、自分を狙う他に退きに向けて……思いっきり叩きつける。
イシュドとブレーダーグリズリーの素材を狙った四匹のバウンディーモンキーには、特に大きな個体差はない。
だからこそ、同種を叩きつけられれば……一撃で昏倒してもおかしくない。
「おっ、ラッキーだったな」
「…………」
二体のバウンディーモンキーをバウンディーモンキーで叩きつけ、即死させた結果、その際の衝撃で腕を掴んでぶん回していたバウンディーモンキーも頭部をやられ、あっという間に撃沈。
「んじゃ、こいつらも纏めて解体しちまうか」
先程投擲で頭部を貫いた死体も回収し、そのままブレーダーグリズリーと一緒に解体を行い始める。
幸いにもそれらの解体が終わるまでの間、他のモンスターが襲撃してくることはなく……まさかの人間が襲撃してくるというパターンもなく、イシュドは五体分の解体を終わらせ、再び夜の紅鱗の地を歩き始めた。




