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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第442話 発散

「さてと」


ガルフやフィリップだけではなく、ディムナやミシェラたちもレポートを記している中、イシュドはというと……宿から出て、街の外へと向かっていた。


ガルダンデードに、紅鱗の地に訪れてから、イシュドは殆ど強者と戦えていない。

赤毛のケルベロスと戦うことは出来たが、イシュドにとって満足のいく戦いはそれだけ。


その他の時間でもモンスターと戦っていたものの、Bランクモンスターとの戦闘はケルベロスのみ。


(あんな戦い見せられちゃあ、なぁ……体が火照るってもんよ)


体が火照るのであれば、娼館で発散するという手段もあるが、今のイシュドは戦闘で発散したかった。


そんな狂戦士小僧は夜中にこっそりと宿を抜け出し、超スピードで塀を越え……街の外へと出た。


(あっち、だな)


紅鱗の地へ続くおおよその方向を確認し、一気に駆け出す。





「ふふ……良い雰囲気じゃねぇの」


紅鱗の地へ足を踏み入れたイシュドは、昼間ら夕方にかけての雰囲気とは違い、更に恐ろしさを感じさせる雰囲気に……良い意味でぞくぞくしていた。


(とりあえず、軽く散歩するか)


ぞくぞくする雰囲気を楽しみながら、夜の紅鱗の地を散策するイシュド。

正直なところ……学生であるミシェラたちからは当然であり、普段から紅鱗の地で探索している冒険者たちからも自殺行為だと言われてもおかしくない。


アホだバカだと言われるのは、イシュドも解っている。

解っているが、昼間楽しめなかった分の発散……そして、単純に紅鱗の地に生息してるであろう、ブレーダーグリズリーや赤毛のケルベロス以上の強さを持つ存在が気になる。


(ギルドのクエストボードにAランクモンスターの討伐依頼とか、目撃情報もあったからな。まぁ、そういうのに関しちゃあ、昼間に遭遇しても相手にするけど)


紅鱗の地に生息するモンスターは、どれも一筋縄ではいかない個体ばかり。

それでも……Bランクモンスターを相手に、複数人で……ほぼ全員で挑むのであれば、イシュドも友人たちが成長する機会を無理に奪おうとはしない。


ただし、遭遇してしまった強個体がAランクモンスターであれば、話は別。

遭遇した場所が紅鱗の地ではなくとも、絶対にイシュドが相手を行う。


(そういえば、夜行性のモンスターってどんなモンスターがいたっけな…………

……解んねぇけど、とりあえず何かしらうろちょろしてんだろ)


実家の領地でも夜に狩りを何度も行っていたイシュドではあるが、格モンスターの

生態を調べるようなモンスターマニアではない。


「……ふふ、なんだよ。俺の気持ちを汲み取ってくれたのか?」


イシュドから十数メートル先には、本日の調査時にミシェラたちが戦った強敵、ブレーダーグリズリーがのそのそと歩いていた。


「それじゃあ、しっかり味合わせてもらおうか」


「……っ!!! グルルルゥ…………ッ!!!!!!」


距離が十メートルを切ったところで、ブレーダーグリズリーは自身に近づく存在を察知。


数は一人。

ただ……直感ではあるが、ただ者ではない……これまで自分が殺してきた人間とは違うと判断。

そう判断した上で、ブレーダーグリズリーは逃げることなく両手の刃を武器に、目の前の人間へと襲い掛かる。


「ははッ!! 良い、殺気だっ!!!!」


イシュドは取り出した頑丈な二振りの戦斧を持ち、振り下ろされる爪撃に魔力を纏った一振りをぶつける。


(っっっっ!!!! 良い、重さだ)


自身の体がやや押されたのを把握しつつも、直ぐに身体強化のスキルは発動しない。

強化は全身の体に魔力を纏うだけに留め、振り下ろされる爪撃に魔力を纏った戦斧を叩き込み、真正面からの接近戦を繰り返す。


「おらおらおらッ!! どうした!!!! んなもんじゃ、ねぇだろおおおおッ!!!!」


ブレーダーグリズリーは身体強化のスキルを発動しており、現状での身体能力では……特にパワーでは上をいかれている。


だが、イシュドは特に考えずとも戦斧を振るう角度を調整し、力を受け流せるように捌いていた。

そして身体能力がイシュドを上回っていたとしても、熊が振るう爪と人間が振るう戦斧が相手に届く距離、攻撃方法などをふまえると……戦斧の方が攻撃回数が多くなる。


「っ、ゴアアアア゛ア゛ッ!!!!」


加えて、ただ魔力で身体能力や武器の切れ味を強化しただけであっても……イシュドの攻撃力やミシェラたちよりも上であるため、ブレーダーグリズリーの毛皮を切り裂き、確かなダメージを与えていた。


「っっっ!!! ははッ!!!! そう、こなくっちゃ、なっ!!!!」


とはいえ、楽しむために制限を掛けていれば、さすがのイシュドと言えど無傷とはいかない。


何度か顔を、服を掠り、僅かではあるが血が流れる。


(熱くなってきたぜッ!!!!!!)


ミシェラたちが、本当にこの男はバカなのだなと思ってしまうが、イシュドにとってガチの戦闘でダメージを受けた際に感じる熱さが……自身の闘志を高める要因であると理解してる。

だからこそ、大なり小なり関係無く、ダメージを受ければ自然とテンションが上がってしまう。


「ぬぅおらッ!!!!!」


「っ!!!!????」


そんなテンションが高まりつつあるイシュドは戦斧でブレーダーグリズリーの爪撃を外側に弾いた後、更に迫るもう片方の爪撃が当たる前に、蹴りを腹に叩き込んだ。


「っと。ふぅーーー、危ねぇ危ねぇ」


腹に蹴りを食らったことで後方に五メートルほど飛んだブレーダーグリズリー。

しかし、今回の爪撃もギリギリ直撃はしなかったものの、イシュドの皮膚を裂いていた。


(やっぱ制服じゃないやつを着といて正解だったな)


フラベルト学園の制服は生徒同士の戦い、モンスターとの戦闘でも中々切り裂かれたり燃えないような頑丈なつくりとなっているが、Bランクモンスターとの戦闘は想定されていないため、ブレーダーグリズリーの爪撃を受ければ間違いなく裂かれてしまう。


「っっっっ、ガァアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」


「はっ!!! 上、等ッ!!!!!!!」


腹を決めたブレーダーグリズリーは全力で最強の一撃を叩き込もうと、イシュドにツッコみながら爪技……ブレイククロウを放つ。


対し、イシュドは普段通りに逃げずに真正面から迎え撃ち、斧技……轟斧両断を放った。

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