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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第432話 経験が足りない

SIDE  ガルフ


強い。

そして賢い。


キャップレッドゴブリンと戦い始め、それを強く思い知らされたガルフ。


ゴブリンの中では大きい方だが、それでも身長はガルフたちに及ばない低身長。

だからこそ、その位置から勢い良く放たれる大斧の一撃が中々厳しい。


「フッ!! 刃ッ!!!!!」


しかし、よ~~く……よ~~~~く理解出来るほど戦い続けているからこそ、キャップレッドゴブリンとのタイマン勝負に順応し始めた。


低い姿勢から迫る攻撃に対し、余裕を持って躱し……斬撃波を放ち、牽制。

回避する方向を読み、闘気を纏った斬撃で力勝負。

僅かに拮抗すれば、相手が身を引いてしまう前に自分から身を引く。


(はは……ハハッ!!!!!)


相変わらず闘志は熱く燃え上がっている。

キャップレッドゴブリンが強敵であることも忘れていない。


ただ、なんとなくこう動けば……こう動けば、攻撃を回避出来る。

逆にこうすればキャップレッドゴブリンを追い詰めることが出来る。


考えてはいるが、深く考えてはいない。


言葉にするのが難しい感覚ではあるが、簡単に説明すると……超絶好調な状態であるガルフ。


(避けて、避けて、避けて、今ッ!!!!)


「っ!!! っ……ッ!!!!」


(捌いて、一撃ッ!!!!!)


「っ!!!!!?????」


ガルフがこれまで試してきた中で、一番綺麗に大斧による攻撃を捌き……無理にロングソードで斬ろうとはせず、離した右腕で肘鉄をかました。


相手の動きが完全に読めるようになった、未来が解るようになったんじゃないか。

そこまで有頂天になってしまうほど、ガルフの頭は緩くない。


ただ、ついそこまで気持ちが盛り上がってしまうほど、戦況を上手く動かせていた。


ここにきてキャップレッドゴブリンに吐血させるほど良いダメージを与えられた。


「…………」


「ギッ…………」


だが、ここにきてある種の弊害? が発生。

普段のガルフであれば、掴んだ流れを離さないように追撃をしかけ、終わらせられるのならばそこで最後の攻防を行おうとする。


しかし、見事肘鉄を叩き込み、キャップレッドゴブリンを後方に飛ばした後、ガルフは追撃を仕掛けなかった。






「……ジャレス、観ておいてください」


「? おぅ、分かったよ」


ジャレスは同僚から伝えられた通り、現在ミシェラたちと戦闘中のブレーダーグリズリーの動きに更に集中した。


「イシュド様、あちらを」


「ん? あちらって、ガルフとレッドゴブリンの戦いじゃねぇか。どうかしたか?」


「ガルフさんの動きが、明らかに変化しています」


「ガルフの動きが?」


どういう事かと思い、一先ずキャップレッドゴブリンと戦っている親友の動きを注視する。


「あぁ~~~~~~……なるほどねぇ~~~。確かに、変わってんな」


数秒ほど観察し、直ぐに変化を把握したイシュド。


(はは、丁度良い相手だったかぁ……人間の相手に慣れてそうだし、あんな体格なくせに大斧を上手く扱ってるとかってなると、良い感じの刺激になるか)


親友が浮かべている表情や動きに関して、イシュドは既視感……身に覚えがあった。


「声をかけるべきでしょうか」


リベヌも現在のガルフの状態に身に覚えがあるからこそ、パーティーのリーダーであるイシュドに声を掛け、様子の変化を知らせた。


「……リベヌは、止めた方が良いに一票ってことか」


「彼の実力を侮ってはいません。約一年の間とはいえ、それなりの修羅場を越えてきたという話は耳にしています。ですが、それでも……経験が足りないかと」


イシュドと出会ってからガルフの中で一番増えたものといえば、筋肉量……ではなく、経験値である。


イシュドが空飛ぶ絨毯を有しているお陰で、授業がない休日になれば王都を離れてモンスターを狩り、特例として依頼を受けられるようになり、ミノタウロスやブランネスウルフといったBランクモンスターとの戦闘も友人たちと共に乗り越えてきた。


たかが一年、されど一年とも思えるほど濃密な一年を過ごした。

それは間違いなく、誰が見てもそう感じるほどの内容が詰め込まれている。

ただし…………それは、レグラ家以外の人間からすればの話。


「おそらく、勝てる可能性は十分にあるでしょう。闘気は使用していますが、まだ護身剛気は使用していない。となれば、レッドゴブリンの虚を付いて倒すことも出来る」


「……今のガルフであれば、切り札を隠したままでも倒せるんじゃないかと調子に乗って、万が一が起こりえる。そう言いたいんだな」


「えぇ、その通りです。今の彼は……自身の万能感に酔い痴れている可能性が高い。だから負けるとは断言出来ませんが、経験不足だからこそ、性格に自身の状態が判断出来ていないかと」


リベヌが語る内容には……一理あるイシュド。


身に覚えがあり、酔い痴れてうっかり腕が切断されそうだったのを覚えている。


(酒を呑んでねぇのに、まるで酔ってるかのような……多幸感? があんだよんな~~~~~)


倒せる可能性はあるが、それに酔い痴れた結果、手痛いダメージ……なんて言ってられな程の重傷を負う可能性もある。


「…………まっ、あのまんまでいかせようぜ」


「……よろしいのですか」


「あぁ。倒せる可能性はあんだ。なのに、わざわざあの感覚を切らせるのは、それはそれで勿体ねぇ」


最悪、大怪我を多い……それがそのまま致命傷に繋がる可能性がある。


「それに、クソ痛ぇ怪我を負ったら、それはそんで次に活かせんだろ。どんなに絶好調な状態でも調子に乗ったら負けるってな」


「……手厳しい指導ですね」


「そうか?」


「ガルフさんは、イシュド様の友人……親友だと聞いていますが」


「へへ、まぁそうだな。けど、それとこれとはまた別問題だろ。つーか、そんな理由で手ぇ抜いて変に優しくされてるって知れば、あいつだって嫌だろうからな」


「なるほど…………出過ぎた真似を致しました」


「いいってことよ。ダチを心配してくれたのは、普通に嬉しいしよ」


とはいえ、リベヌが心配する理由は解るため、イシュドはほんの少しガルフの戦いの方に意識を割くようにした。

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