第431話 ひたすら削れる
イシュドが羨ましいと、ミシェラたちとブレーダーグリズリーとの戦闘を眺めている時……当の本人たちは、心の底から必死で戦っていた。
「ッ!!! 疾ッ!! っ!!!! ハッ!!!!!」
この戦いで全てのスタミナを使い尽くしても構わない。
そういった覚悟で刻み、離れ、躱し、また刻むを何度も何度も繰り返すミシェラ。
(この、熊っ!!!! 本当に、堅い、ですわねッ!!!!!)
既にBランクモンスターのブレーダーグリズリーとの戦闘が始まってから一分が経過。
否が応でも、ブレーダーグリズリーの強さを体感していた。
(ミシェラさんが、言った通り……全員で、挑んで……正解だったね!!!)
(これが、真に強き、Bランクモンスターの、一撃!!!! 本当に、恐ろしいなッ!!!!)
(タイミングは、あるのに……斬れる、という確証が……持てません、ねッ!!!!)
(いやぁ~~~、後衛で良かったって、思ったけど……これは、これで、クッ……ソめんどくせぇな!!!!!!)
(ガルフを、除いた、全員でなどと、思ったが…………どうやら、俺の認識が、甘かった……ようだな!!!!)
一応、ダスティンとディムナもBランクモンスターとの戦闘経験はある。
なんとか……薄氷の勝利ではあったものの、Bランクモンスターを打ち破った経験はある。
次、同じBランクのモンスターと戦えば、前回よりも上手く倒せるだろう、などとは思っていない。
間違いなく簡単にいかない。
しかし、自分たちだけではなくアドレアスにミシェラ、フィリップにイブキと……他学園の一年生ではあるが、それでも同級生たちよりも頼りになる面子がいれば、負けることはないだろうという思いがあった。
彼らがそう思ってしまうのも、無理はない。
ガルフという特別な同級生がいないものの、他四人もこれまでに複数のBランクモンスターとの戦闘経験があり、それを乗り越えてきた。
素材は良質、経験という研磨が徐々に進んでいる。
存在感に圧し潰されるほど内は脆くなく、それぞれが確かな武器を有している。
「フッ!!!!!!」
「っ、牙ァアアアアアアアッ!!!!」
「チッ!!!!」
しかし、モンスターを倒すには必ず達成しなければならない要素がある。
それは……モンスターに傷を付けること。
非常に、非常に当たり前過ぎる要素である。
学園に通う学生たちに知っているか? と尋ねれば、バカにしてるのかと怒りを買い、一斉に殴り掛かられてもしまってもおかしくない。
だが、現在ディムナたちは、その常識を実行することに苦しめられていた。
(こりゃあ、前の奴ら……苦労すんだろうな~~~)
当事者の一人であるフィリップは心の内で暢気な言葉を零すは、彼は彼で苦労を重ねていた。
遠距離攻撃がメインの本職ではないため、当然ながらフィリップの攻撃も殆ど効かない。
ただ、ブレーダーグリズリーも目や鼻、耳などまでは頑強ではなく、狙われれば咄嗟に反応してしまう。
加えて、どれだけ強力な爪撃を放とうとしても、攻撃を行う部分に僅かな衝撃与えられてしまうと、狙いが僅かとはいえブレてしまう。
そりゃそうなるだろうと思われるかもしれないが、ブレーダーグリズリーは決して鈍間なモンスターではない。
それを加味すれば、決して簡単に行える芸当ではない。
(攻撃を、受けてないのに……削れ、ますわね)
フィリップの援護、接近戦では五対一という圧倒的に有利な数。
そして……ミシェラ、ディムナの二人に関してはスピードは渡り合えるという状況もあって、なんとか今のところダメージを受けずに済んでいる。
しかし、ブレーダーグリズリーの太い腕が振るわれるたびに、鋭い爪が空を斬る度に……自分たちの間を通り抜けていく斬撃波が何かを破壊する度に耳にする破壊音が、ミシェラたちの精神をじわじわと削っていた。
「っ、避けろ!!!!!!!」
フィリップの悲鳴にも近い指示が戦場を通り、ディムナたちは瞬時に全神経を回避に使う。
直後……勢い良く地面を抉り取る一撃が放たれた。
爪技、ブレイククロウ。
破壊の爪撃が下から振り上げられた結果、後方にいるフィリップが抉り飛ばされた岩石を避ける結果となった。
(ただの爪撃だけでもヤバそうなのに、爪技の技を放てば、これかよ……ダスティンパイセンだろうと、防げねぇだろうな)
大剣や大斧ほど適してはいないが、一応相手の攻撃を防ぐことが出来る槍。
だが、現在ブレーダーグリズリーと戦ってる者の中では一番のパワーを持つダスティンであっても、ブレイククロウを受け止めることは出来ない。
ミシェラ、イブキ、アドレアス、ディムナたちが受け流そうとすれば、不完全に終わって吹き飛ばされてしまう。
直撃すれば……間違いなく、そこでジ・エンドである。
(イシュドから言われたし、まだ付き合うっちゃ付き合うけど、こんな怪物……どうやって、仕留めんだ?)
心の中でぶつくさと呟き続けるが、それでも相変わらず仕事は続ける。
「破ッ!!!!!!!」
お返しだと言わんばかりに、フィリップの顔面に向けて放たれた雷斬波を躱したタイミングを狙い、槍技……螺旋突きを放つ。
見事、当たりはした。
(っ、自信を、なくしてしまうな)
ダスティンが思わず心の中でそう呟いてしまう程、結果は芳しくなかった。
矛先はブレーダーグリズリー纏う魔力、毛皮を越えて体内に入ったが、肉を多少貫くだけで、内臓には届かない。
「「疾ッ!!!!!」」
「っ!!! ッッッッッッ!!!」
止められてしまえば、ブレーダーグリズリーにとって絶好の反撃チャンスだが、両側からアドレアスとディムナの細剣技、三連突きが放たれた衝撃により、ディムナはなんとか特大の反撃を食らわずに一旦距離を取ることに成功。
因みに、二人が放った三連突きには旋風が、光が纏われていたが……衝撃を与えるだけで、突き刺すことは出来ていなかった。
既に戦闘が始まってから数分が経っていることで、今更焦る事はない。
ただ……己の弱さに苛立ちを感じ、静かに歯ぎしりをする王子と貴公子?
それでも尚、自ら申し出た戦いから背を向けることはない。




