第421話 似た存在
「マジですかぁ……王都の女たちって、見る眼ないですね」
「………………」
まさかの? 事実に衝撃を受けるジャレス。
だが、そんな反応をする彼に対して、ミシェラは非常に……非常に強く語りたかった。
本来女性から……貴族令嬢からモテる様な男性は、どういった特徴を持っているのかこれでもかと語り、だからこそイシュドがモテる訳がないという事を伝えたい。
だが、ミシェラはなんとなく……あることに気付いていた。
ジャレスにとってイシュドは、自分にとってクリスティールに近い存在なのだと。
(~~~~~~~~~~~っっっっ………………すぅーーーーー、はぁーーーーーーーーーーー…………一部は、間違ってないのですから、否定はしなくて、良いでしょう)
もし自分がジャレスの立場でイシュドを否定される様な事を言われれば、当然のように怒りがこみ上げてくる。
今回、ジャレスは自分たちの護衛者として同行しているという事も忘れておらず……なにより顔と実力だけを切り取れば、モテなくもない。
そう何度も自分に言い聞かせ、ジャレスに説きたい気持ちをなんとか抑えた。
「モテても意味ねぇ興味ねぇってカッコつけるつもりはねぇけど、だから今の状況は別に悪くねぇんだよ」
前世の記憶がまだそれなりに残っているイシュドは、前世の自分なら異性からモテる!!! という状況に対して間違いなく嬉しさを感じたであろうことを忘れていないため、モテたらそれはそれで悪くはないと語る。
ただ……興味が全く違う方向に向いているからこそ、大してモテていないという状況に悔しいと感じることはなかった。
「イシュド様の事を想う方が現れれば、それはそれでその方が苦しくなるだけかと」
「? どういうこと、リベヌ」
「イシュド様の事を本気で想う…………イシュド様の全てを受け入れられると断言出来る方であれば、それ相応の思考力を有しているでしょう」
「なるほどぉ……そうなんですか、イシュド様」
「知らん」
イシュド本人は知らんと語るも、リベヌは自身の見解を語り続ける。
「であれば、まずイシュド様と自身の能力が釣り合っていない事を気にするでしょう」
「不釣り合いのままじゃ、イシュド様の隣に立てないと」
「えぇ、その通りです。となれば、イシュド様に追い付くために自信の得意分野を伸ばそうとするでしょう……しかし、狂戦士としてのイシュド様の実力を考えれば、戦闘以外の分野と言えど、同レベルの境地に至るのは困難を極めます」
決して、イシュドに恋心を抱いている訳ではない。
ただ、リベヌが語る内容に関して思うところがあるガルフやミシェラの顔には、薄っすらと皺が浮かぶ。
「あぁ~~~、なるほどなぁ。そりゃあ……苦しいって、感じるのかもしれないね」
正直なところ、ジャレスはそれのどこが苦しいのか解らない。
解らないが、目標があるにも関わらず、上に登ろうと努力し続けられない人間がいるという事実は知っている。
「ということは、イシュド様より歳上の女性ならあまりその辺りを気にせずイシュド様に近づける? ということか」
「…………簡単に言うと、そういう事になるかもしれませんが」
リベヌは決してこれまでイシュドと全く会話をした事がなく、互いの存在は知っている……というほど薄い関係値ではない。
ただ、二人で……他の同期などを交えて恋バナをするほど深い関係値でもないため、イシュドの好みのタイプなどは全く知らなかった。
(姉さん女房、というのに興味があるのでしょうか?)
リベヌの頭の中にある知識としては、種族に差がある場合は話が変わるが、男性は恋人や妻にする相手は比較的歳下か同世代を選ぶ可能性が高い。
「どうなのでしょうか、イシュド様」
「どうなのでしょうかって言われてもなぁ~~~。今のところ、自分が誰かと付き合ったり結婚したりする姿なんて全く想像出来ねぇしな」
「そうなのか? 俺は割と出来るぞ」
「マジかよフィリップ。お前から見たら、俺は割とイメージしやすいのか?」
「だって、なぁ……ようやっと完全に? 表に出てきてくれたレグラ家の人間だぜ」
「…………そういう意味でイメージしやすいってことかよ」
レグラ家と縁を結びたい。
そう考える家の令嬢……もしくは王女から狙われる。
あり得ない問題ではなく、実際問題それが起きてしまっている。
「ったく……まっ、あれだ。ジャレス、家に戻ったらアルフレッド爺ちゃんとロベルト爺ちゃんに伝えてくれ。イシュドは今のところ全くその気配がないってな」
「了解です」
ジャレスとしては特に落ち込む様な結果ではなく、イシュドの指示通り今回の依頼を終えてレグラ家に戻ったらそのままアルフレッドとロベルトに伝えると決めた。
(……俺は親じゃねぇから解らんけど、そんなに孫の顔が見たくなるもんなんかねぇ)
アルフレッド、ロベルトの気持ちをうぜぇの一言で切り捨てるつもりはない。
ただ、本当に今のところ自身の隣にそういった人物が立つ身らが予想出来ないからこそ、祖父たちの気持ちにはとりあえず答えられない。
(…………なんか、あれだな。別にカッコつける訳じゃねぇけど、恋愛の仕方? っていうのを忘れそうになるな)
そうなったらなったで何とかなるだろう……そう思っていると、一体のモンスターが放つ獣臭を感じ取ったイシュド。
「……お前ら、全員下がってろ」
「イシュド? ……っ!!!」
イシュドがガルフたちに下れと伝えた直後、あるモンスターがガルフたちの前に現れた。
「やっぱり、お前か」
「「「ルルルゥゥ……」」」
現れたモンスターは、三つの頭を持つ地獄の番犬、ケルベロス。
先日イシュドたちが話していたBランクモンスターの一体。
(……これまで見てきた個体より、毛色が……更に赤ぇな)
ケルベロスとの戦闘経験はあるものの、紅鱗の地に生息しているケルベロスと出会うのは人生で初。
大きな涎を零すケルベロスに対し……涎を零しそうになるのは、イシュドも同じ。
そして数秒後、鋭い斬撃と爪撃がぶつかり合い、それが戦闘開始のゴングとなった。




