第384話 未体験の痛み
(加勢したいところだけど、あれは…………あの動きは、そういう事か)
真正面から打ち破るという理想論として、なるべく存在感を消しながら戦場の外側からライダーとウルフを突き滅ぼしていたアドレアス。
その活躍もあり、残りの数ならヨセフたちだけでもなんとか出来るだろうと判断し、残り三つの線上に目を向け……自分が加わるとしたら、ゴブリンキングの戦場だろうと判断。
だが、アドレアスが参加出来る余裕が生まれた時には、既にゴブリンキングが怒りを発散させ、天眼を体得していた。
(あれだけ動けるモンスターが、天眼を……恐ろしいの、一言だね)
自分が加われば、数的には三対一と有利になる。
それは間違いないのだが、天眼を体得したゴブリンキングに数の利があるのか……そもそも、攻撃のリズムがエリヴェラとクリスティールで完成している中に自分が入れば、二人のリズムを崩してそれが隙になるのではないかという不安もあった。
「……タイミングと、後は……距離と放つ場所かな」
天眼の効果範囲はどこまでか、そして二人の援護を行うジャストタイミングを……ジャストタイミングを計り易い場所を選ばなければならない。
「この辺りの木だね」
アドレアスは軽快に気を上り、踏ん張れるであろう太さを持つ枝へと移動。
(うん……僕が放てる距離的にも、ここがベストの筈)
後はタイミングを見極め、二人へ有利な戦況に持っていけるよう、重要な部分を射貫く。
アドレアスが放つ一撃は、あくまで援護。
であれば、頭部や心臓、首を狙うべきではない。
日和っている訳でも、二人に花を持たそうとしている訳でもない。
ただ、ザ・急所である部分を狙えば、本能的に回避されるかもしれないという判断の元の行動。
(今ッ!!!!!!!!!!!!!!)
ジャストタイミングというのは、いきなり訪れる。
ここしかないと、アドレアスはこれまでの経験と本能に身を委ね、細剣に旋風を纏い……細剣技、螺旋突きを放った。
その一撃は、以前ミノタウロスの脇腹を抉った一撃と遜色ない……もしくはそれ以上の威力と速度を有していた。
「………………っ!!!!!!!!!!??????????」
「ぃよし!!!!!」
見事、クリスティールやエリヴェラに当たることなく、狙い通りの箇所にヒット。
思いっ切りガッツポーズをしてた勢いで、枝から転落するも、なんとか着地。
「あの二人なら、多分終わらせられるだろうね」
因みに…………アドレアスが渾身の螺旋突きで貫いた箇所は……ゴブリンキングの一物である。
「………………っ!!!!!!!!!!??????????」
「「っ!!??」」
ゴブリンキングが自慢の一物を貫かれた現場では、いきなり自分たちの間を通り過ぎ、ゴブリンキングの首や頭に心臓以外の急所を貫いた一撃に、クリスティールとエリヴェラの二人も驚きを隠せなかった。
だが、千載一遇のチャンスであることに変わりはなく、クリスティールはこの時の為に残しておいた魔力を振り絞る。
「ハッ!!!!!!!!」
クリスティールは勢い良く双剣を地面に突き刺し、地面に氷の魔力を流す。
そして、ゴブリンキングの足元から凍てつき冷気を発し、一気に足元を氷漬けにしていく。
「っ!!!!!!!???????」
足元を凍らされた……天眼という優れたスキルを持っていようとも、行動を制限されてしまえば、対処出来るはずの攻撃も対処出来なくなってしまう。
ゴブリンキングとしては、即座に両足に力を入れるか、岩斧で足元を砕き、拘束を解きたい。
ただ…………どうしても、それが出来ない。
理由は至極単純。
粉砕したイチモツの痛み……そして、イチモツが貫かれた箇所を冷気で凍らされるという、これまでのゴブリン生で一度も感じたことのない痛みに襲われ、完全に痛みが限界出来るレベルを越えてしまっていた。
「エリヴェラ君ッ!!!!!!」
「はいッ!!!!!!!!」
ここでまでお膳立てされて決められなければ、男ではない。
その覚悟を持って、エリヴェラは今自分に出せる最高の火力……聖剣技、ペンタグラムを発動。
イシュドから譲り受けた聖剣で五芒星を描き……見事、ゴブリンキングの四肢の切断に成功。
しかし、寸でのところでゴブリンキングは残っている魔力で岩石を身に纏い、頭部や首は切断されずに済んだ。
とはいえ、死は既に目前の状態。
どう足掻いても勝ち目はない。
にもかかわらず、ゴブリンキングの表情は覚悟が決まったままであり、未だに勝利を諦めていなかった。
「ホーリー、スラッシュッ!!!!!!!!!!!!」
だが、それはエリヴェラも同じだった。
ここで決めなければ男ではないと叫ぶ男は、ペンタグラムでは完全に殺し切れなかったことを冷静に把握しており、まだ意識を保っている上半身に向かって……渾身のホーリースラッシュを放った。
「ギッ…………ッ…………」
最後の最後まで戦う王であったゴブリンキングも、頭ごと胴体を真っ二つにされては、何も出来なかった。
「…………ッ、はぁ、はぁ……倒せ、ましたね」
「えぇ、そうですね。ペンタグラムに、最後のホーリースラッシュ……見事でした」
クリスティールも同じく、ペンタグラムで四肢を切断された状況であるにもかかわらず、まだゴブリンキングは戦意を失っていないことに気付いていた。
あの状況からでも、何かをしてくるかもしれない……といった二人の認識は正しかった。
最後にエリヴェラがホーリースラッシュを放てなければ、ゴブリンキングは自身の頭に岩石の角を纏い、背中から石柱を伸ばしてエリヴェラに突進しようとしていた。
仮に……もし、エリヴェラがペンタグラムで四肢を切断したことに満足していれば、心臓や頭部、首などは貫かれずとも……上手く聖剣で弾けなければ、急所以外を貫かれていた可能性は十分にあった。
「ありがとうございます…………クリスティールさんが最後の最後まで全力を振り絞って行動したからこそ、自分も最後まで気を抜いてはいけないと、喝を入れてもらえました」
「ふふ、そうでしたか。しかし、途中のあの素晴らしい遠距離からの刺突を放った方はもしや……」
自分たちの方に寄ってくる存在に視線を向けると、そこには両手にポーションを持ちながら駆けよるアドレアスがいた。




