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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第273話 燃費はクソ悪い

激闘が、終わった。


その瞬間、イシュドは直ぐに拍手を送った。

まさに奇手と言える攻撃を最高のタイミングで使用したイブキに、そして最後の最後まで諦めるという選択肢を取らず、勝利を掴み取ったエリヴェラに……賞賛の拍手を送った。


その拍手は直ぐに波紋となって広がり、フィリップたちも……ステラたちも心からの賞賛を二人に送った。


「……お見事でした、エリヴェラ殿」


「い、いえ、イブキさんこそ…………こういった事を言うのはナンセンスというものかもしれませんが、実戦であればどうなっていたかと……」


「試合ではなく、実戦であれば……互いに、普段は越えてはいけない一線を容易に越えていたでしょう」


当然ながら、イブキはエリヴェラが砕かれてしまった聖剣、盾の代わりとして、イシュドが自分の聖剣と盾を渡したのを忘れてはいない。


それを出された場合……イブキとしても、出すべき手札があった。

だからこそ、エリヴェラ本人が言う通り、その話をするのはナンセンスであった。


二人は握手を交わした後、自身の武器を拾い、互いの陣営へと戻る。


「お疲れさん、イブキ。マジで良い戦いだったぜ」


治癒師たちから治療を受けながら戻ってきたイブキに、イシュドは真っ先に賞賛の言葉を送った。


「ありがとうございます……しかし、最後の最後で負けてしまいました」


良き戦いだったとは、イブキ自身も思っている。

ただ、いざ負けという形で戦いが終わってみると、あそこであれではなくこの攻撃を行っていれば……等々、反省点が浮かび上がってくる。


「それでも、マ~~~~~ジで良い戦いだぜ。どれぐらいかっつ~と……今度、飯奢ってやりたいって思うぐらいには良い戦いだった」


「…………ふふ、そうですか。あなたにそれぐらい評価してもらえたのであれば、本当に良い戦いが出来たのだと思えますね」


「いやぁ~~、本当に良い試合だったよ、イブキ。あと、個人的には二人とも武器を変えなくてホッとしたよ」


兄であるシドウからの称賛も当然嬉しい。

ただ、武器を変えるとは何のことだと首を捻るも、直ぐに先程……ほんの少しだけエリヴェラと話した会話内容を思い出した。


「そう、ですね…………今更な話ではありますが、本当にそうならなくて良かったと思いますね」


イブキとエリヴェラ。

どちらとも交流会の試合とはいえ、負けるつもりは毛頭ない。


そんな心境で挑んだ戦いだったが、どちらが負けられないという気持ちが大きかったと言えば……ザ・ハチャメチャイレギュラーである異常な狂戦士が相手とはいえ、敗北を喫したエリヴェラであった。


まだ学生であるエリヴェラは、交流会ということもあり、国を背負って戦っているわけではなかった。

それでも、二次職で聖騎士の職に就いたということもあり、誰がどう見ても……エリヴェラはその世代の者たちを導く先導者の一人。


相手がザ・ハチャメチャイレギュラー以外が相手となれば、負けるわけにはいかなかった。

故に…………どちらが先に武器を変える可能性があったかと言えば、エリヴェラの方がその可能性が高かった。


「惜しかったな、イブキ。あのエリヴェラを相手に、本当にもう一歩だったな」


「そうですね……でも、フィリップの様に上手く決まりませんでした」


自分の攻撃を相手が盾でガードすると読み切り、スライディングで股を通り抜ける。

背後に回った瞬間、素早く飛びつき、両足で相手の両腕を拘束し、腕で首を絞める。


それは、フィリップがレオナを相手に使った雷を全身に纏えないと見せかけて、実は纏えるというフェイクに近い、その一戦でしか使えない奇手であった。


「かもしれねぇな。飛びついて首を絞めるんじゃなくて、背後から斬ろうとしてたら、多分エリヴェラの反応が間に合ってた……………………」


「フィリップ? どうかしましたか」


「いや、なんでもねぇよ。もう一回分岐点があっとすりゃあ、あの良い右が決まった時、ダメ押しで蹴り上げてたら良かったかもな」


何かを思い付いた……そう思える間ではあったが、尤もらしいもしもの選択を口にしたことで、その場では誰もフィリップの不自然な間にツッコまなかった。


「何故蹴り上げの方が良いのですの?」


「あそこからエリヴェラが取れる手段なんて、基本的にはタックルしかないだろ。そう考えっと、下から蹴り上げが一番効くし、向こうも避けられないだろ」


仮に………仮にイブキがフィリップの言う通り、下から蹴りを放っていれば……最悪の場合、腹ではなくエリヴェラのムスコに直撃していたかもしれない。


顎先へのフックも、上手く入れば試合を終わらせる決定打となり得るが、もしイブキの蹴りが運悪くエリヴェラの腹ではなくムスコに当たっていれば……それこそ完全に試合を終わらせていてもおかしくない。


「イシュドもそう思うだろ?」


「ん? あぁ……まっ、そうだな」


「…………イシュド君。何か、他の方法もあるって顔してるね~~」


「いや、別にあれっすよアリンダ先生。思い付いたのはイブキがエリヴェラへの対処じゃなくて、エリヴェラがイブキの対処方が他にもあったんじゃないかって思って」


「マジかよイシュド。あそこからエリヴェラが出来る攻撃方法がタックル以外あるのか?」


「たらればの話っつーのは解ってるけど、あそこでエリヴェラが全身から聖光を放出するって手もあったよなって思ってな」


首絞め、顎先フックからの脳震盪で更に追い込まれたものの、魔力は当然残っていた。

意識が途切れていなかったことから、自爆技……ではないが、全身から聖光を放出することで、イブキにそれなりのダメージを与えることが出来た。


「はぁ~~~~、なるほどな~~。イシュドはよくそんなヤベぇ攻撃を考え付くな」


「実行経験はねぇぞ。クソ燃費の悪ぃ技だってのは理解してるし、うっかり魔力を全部使いきっちまって、そのまま倦怠感でぶっ倒れたら元も子もねぇからな」


イブキがあの時こうしていれば良かった、エリヴェラにはあの時こういった方法もあったと……全てたらればの話ではあるが、それは間違いなくイブキたちの今後に役立つ話し合いであった。

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