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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第260話 勝つ価値がある

SIDE ステラ


「申し訳ありませんでした」


エリヴェラたちの元へ戻ると、ステラは深々と頭を下げた。


「あ、頭を上げてください、ステラ様!!」


「そ、そうですわ!! あ、あんな……あの、様な…………」


あの様な勝ち方、騎士を目指す者の戦い方ではない。

そう口にしようとしたローザだったが、上手く言葉に出来なかった。


何故なら……それは単純にローザがステラと互角の戦いを見せたクリスティールの実力を認めてしまっている。


それに加えて、確かにステラの拳や手刀が突き付けられるよりも早く、クリスティールのヘッドバットが炸裂したのも事実。

そして……それは全くもって、ルールに反した攻撃方法ではなかった。


「ありがとう。でも、大丈夫よ……彼女は、本当に強かった。私の戦い方を事前に知っていれば、また違った戦い方も出来た筈…………私も、まだまだこれから精進しないとですね」


ヨセフやローザだけではなく、エリヴェラやパオロも含め、若干オロオロしていた情けなさが消え……闘争心という炎にガソリンがなみなみと注がれた。


(……勝利への執念に差があった。でも、それは実力の差……戦いに対する姿勢の差と言える筈……負けてられませんね)


戦況で言えば、まだ体力と魔力に余裕があるステラが優勢だったのは間違いない。

それは勝者となったクリスティールも自覚している。


しかし……優勢であったステラは、偶々運で負けてしまったと、片付けることはなかった。


(気の緩みがあったことは、否定出来ませんからね)


交流会に参加する後輩たちを、仲間たちを鼓舞する為に勝利を掴もうと挑んだはずだった。

にもかかわらず、恐ろしさは当然の様に感じていたが、それでもこの優勢な戦況を維持し続ければと……どこか攻めの気持ちが欠けていた。


「……っ!!!! クルト先生。次は私が参加しますわ」


「ん~~……そりゃ勿論良いんだけど、多分……フラベルト学園の生徒に、後衛職の人っていないよね?」


一応イブキは弓を扱える。

イシュドも見た目に似合わず魔法を扱えるが、二人とも本職は前衛。


(どうしよっか……二対二での試合も全然ありなんだけど、前衛二人対前衛一人と後衛一人だと…………ん~~~~~)


どうすべきか迷うクルトに、ステラと同じ三年生のレオナが助け舟を出す。


「先生、それならうちが前衛として一緒に戦りますよ。んで、あっちは一年同士のタッグにして貰ったら良いんじゃないっすか?」


「なる、ほど……それならまぁ、問題無いか」


確認を取る為、クルトは小走りでフラベルト学園陣営の元へ向かった。

直ぐに戻り、問題無かったと報告。


「っし!! それじゃあ、いっちょ戦るか。ローザ」


「えぇ!!!!!」




「タッグ戦ねぇ~~~……」


クリスティールの勝利に、他のメンバーが盛り上がり、闘志を燃え上がらせている中、フィリップだけは特に変わらず普段通りの表情をしていた。


(おそらく、あっちの同じ一年の……後衛職であろう女が出てくるだろうな)


特別やる気がある訳ではないフィリップだが、交流会で一度も試合に参加しないのはよろしくないとは思っていた。


「なぁ、ガルフ。俺らで戦らねぇか?」


「良いの?」


「おぅ、良いぜ良いぜ。一回ぐらいは参加しないとダメだろうなと思ってたからな」


不純と思わしき理由を聞き、直ぐにツッコミが入る。


「フィリップ、まさかあなたガルフに任せて楽をしようとしてるのではないでしょうね」


「んな訳ねぇだろ」


正直なところ、んな訳ある。


だが……アンジェーロ学園側から次の試合はタッグ戦にしないかと伝えられ、こちら側が了承した後……直ぐに参加するであろうもう一人の面子が確認出来た。


(もう一人は、あの三年生? か………………)


「? どうかした、フィリップ」


「いや、なんでもねぇよ……やっぱ勝ちたいだろって思ってな」


「そりゃ勿論!!! 僕もイシュドやクリスティール会長に続きたいからね!!!」


ガルフはフィリップと違い、メラメラと闘争心が燃え上がっていた。


「んじゃ、決まりだな」


フラベルト学園側からは、ガルフとフィリップのペアが参加することが確定。


数分後、軽いアップが終わった四人は開始線へと並び、構える。


「そっちのお二人さん。開始の合図はコイントスでも良いかい?」


「えぇ」


「それじゃあ、いくよ」


親指で天高く銅貨を弾くレオナ。


甲高い音が響き渡り、徐々に徐々に静まり返ったと思った瞬間、試合開始の合図が鳴った。


「「ッ!!!!!」」


耳に合図が入り、即前衛二人は抜剣。

互いのパワーを確かめるがごとく、正面から斬撃をぶつけ合った。


そしてガルフの相方であるフィリップは……一気に相手チームの後衛には詰め寄らず、バックステップで下がりながら適当に魔力の斬撃刃を放った。


当然、狙うは後方のローザ。

しかし……彼女も一年生で今回の交流会に選ばれるだけの実力を有しており、火の玉であっさりと相殺。


(やっぱ、これぐらいにしておかないとあれだよな~~~)


本気で勝ちにいくのであれば、初っ端から強化スキルを発動し、全身に雷を纏ってローザに詰め寄って仕留め、二対一でレオナと戦うのがベスト。


だが、本当にそれをやってしまうと、わざわざローザが参加する試合をタッグ戦にした意味がなくなってしまう。


(つっても……どうやら、なるべく俺の魔力や体力が残ってるうちに、後衛の女を終わらせといた方が良さそうだな)


ロングソードを振るうガルフと、分厚い刃を持つ蛮刀を振るうレオナ。

両者の斬撃がぶつかり合った結果……押されたのはガルフだった。


「っとっと」


「やっぱ、あの三年はあの三年でヤバい感じか?」


「そうだね」


ガルフはレオナが自分よりパワーが上だと、素直に認めた。


まだ闘気や応用技である護身剛気も使用してない。

互いに素の状態で行った攻撃であるため、決して本気の競り合いで負けたわけではない。


ただ、それでもファーストタッチ……押されてしまったのは自分だと、認めざるを得ない。


「だからこそ、勝つ価値がある」


(ったく……イシュドやクリスティールパイセンに負けず劣らず、アチアチになってんな~~~~)


四人の中で一番やる気がないフィリップではあるが、顔には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

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