愛したもの
死ぬ前に愛したものを見ておきたかった。
産まれた町を10年ぶりに歩いた。何もなかった。私の知るものはいくつか見つかったけど、それらは今の私とは何の関係もなくて、私を知るものは何もなかった。
母のお墓を訪ねた。でも母はそこにいてくれなくて、私は寒風の中、放り出されていた。
懐かしいお店に立ち寄った。学生時代、みんなとよく学校帰りに入ったラーメン屋。ご主人が変わっていて、味も記憶とまったく違い、味気なかった。
彼と初めて会った駅。笑顔の2人を思い出した。
生涯ただ一度きりの失恋をした。
産みたいよ。
でも産まれて来る子が不憫でさ。
誰も恨んでなんかいないよ。
ただ絶望的なくらい、自分で自分を救える才能がなかっただけ。
11階のビルの屋上に立った。
見下ろす道路は寂しくて、誰も歩いてはいなかった。
ごめんなさい。
誰にも迷惑かけたくなかったけど、どうしても自分のごみは残っちゃうもんね。
それとも私、誰かに見て貰いたいのかな?
飛ぶ前に、小説投稿サイトに発表しておいた自分の明るい希望の詩を見た。
これに感想がついてたら、飛ぶのをやめようと思っていた。
10pt32pv、感想0。
一番近いひと
お父さんのことだけは愛せなかったけど
私が死ぬことを望んでるの知ってたから
望み通りになってたまるかって思ったけど
望まれてるのっていいなって
今は思う。
私にはこんなにもたくさん
愛したものがあるから
愛してるからこそ
愛してもらえないの辛いんだ。
そんな遺書を残して
家に帰りはじめるいくじなし。
愛したものを
ギュッと抱きしめて
生きて行くしかない。
せめて産まれて来る子を愛せたらいいのだけど
その自信もない。
これは本来産んではいけない子供なのだし。
愛されることばかり
望んでしまう私だから。
そうか、と気がついた。
私にはこんなにも愛したものはあるのに
一番愛せないものがあるんだ。
やっぱり飛ぼう。
それを壊そう。
壊してしまおうと思いながら、
いつもの独りの部屋に帰って行くいくじなし。




