第44話 適当は蜜の味
「あ、急にお腹が…」
「さっきまで元気だったよねぇ」
「くっ、頭痛が」
「はい、『彼の者に癒しを~《回復》』」
「はっ、これは魔王の気配!?」
「魔王なら後1年は封印されたままって噂だよー」
「くそぉ!打つ手がねぇ!」
タツヤ撃沈。
何をしてもタツヤは運命からは逃れられないのだろうか。神皇とかほざいてるくせに情けないことこの上ない。
いや、まあ手段を選ばなければどうとでもなるのだろうが、タツヤは珍しく穏便に済ませようとしているため、こうなっているのだろう。
「仕方ねぇな。《転移》(ボソッ」
そんなタツヤは遂に強行策へと出た。
その結果は成功。
タツヤは魂の平穏を得たのだった。
そう、怒れる子羊もとい勇者に会うまでは。
タツヤが転移した先は勇者達が集うイングラシア王国王都にある王城。
「あー、疲れたぁ」
「団長強すぎだよ」
「あー、もう動けないぃ」
「汗ベトベト~」
その王城にある近衛騎士団の訓練場では勇者達が訓練の間の休息を摂っていた。その勇者の数は少し前と比べるとかなり減っていた。どっかの勇者が何人もの勇者を殺し、玩具にしたためだ。現在、そのボコられた勇者達で残っている人数は11人。だが、何れもステータスはゴミのようになっている。
勿論、そんな事は他の勇者には関係無く、訓練は普通に続いている。訓練場の端で休憩しているのはそんな勇者達だ。
「ハァ!」
「ぬぅん!」
だが、休憩している勇者達の前では二人の男が戦っている。
戦っている金の短髪の筋骨隆々男は騎士団長であるライオス・フォン・エッチーナ。変態みたいな名前だが、SSSランク相当の実力者だ。
そして、もう一人の黒髪の細い男は今となっては勇者筆頭である黒條和眞。筋骨隆々という訳ではないがその身体には高密度かつしなやかな筋肉が詰まっている。冒険者で言えばSランク程の強さだ。
「いい加減倒れろや!」
「お前が倒れろ!」
二人は剣で斬り合い、隙あらば拳や脚を叩き込み、唾を飛ばして注意をそらそうとするなど近衛騎士や勇者がやらないような戦い方をしていた。
ゴン!
「「この石頭が!」」
お互いが頭突きをして直ぐ様離れると罵声を浴びせながら再び斬り結ぶ。
因みにこの戦いは身体強化魔法以外の魔法は禁止である。
「はぁ……カッコいいねぇ」
「だが…彼女持ち……」
「どうして良い男は決まった相手が居るのかねぇ」
「葵ちゃんは居ないじゃん」
「「「葵ちゃんは愛でるものだから!」」」
「やっぱ、か弱い女の子だから?」
「守ってもらいたいのよ」
「でもさ、黒條くんみたいな貴公子タイプも良いけど…」
「神崎くんみたいな俺様タイプも良いよね!」
「だね!」
女子達は二人の戦いを見ながらほんわかした様子で話をする。
「そういえばさ、明日皇国の王子様とかが来るんだってね」
「あ、そうだったねぇ」
「それに来週から冒険者を呼んで訓練だってさ」
「へー、んな事やんのか。俺呼ばれてないなぁ」
女子達が話していると不意に背後からそんな声が聞こえた。
女子達が振り向くとそこには…黒の革鎧を着け、コートを着て帯刀した変態もとい勇者様がいた。
「それにしても、アイツが貴公子はねぇだろ」
「神崎くん!?」
「うぉっ!……チッ、参った」
「テメ、何舌打ちしてんだよ!」
女子達が達也を確認したとき、丁度二人の戦いも終わったようだ。負けたのは和眞である。
「おーーーい!カッズマくーん!それともー、クズマって呼んだほうがいいかーー!?」
達也はその瞬間大声で和眞を呼ぶ。
いや、しかしそれにしてもクズマは無いだろクズマは。
「ハァハァ、……達也か。…………殺す!!!!!」
「なぜに!?」
和眞は達也を確認すると疲れも忘れて剣を振り……下ろす!
すると、某セイバーのエクスカリバーの様な光の奔流が達也へと殺到する。
「うおおおお!これは俺の新たな力を見せるときか!見ろ!これが《気功術》を基にして創った新たな力!《戦気術》だ!
唸れ!俺の気よ!此れが【鏖気】だ!」
一応言っておくとこの世界には気という概念はない。あのSS擬きも気なんて関係ない。つまり、これは達也の創ったスキルという訳だ。勿論、ただの中二ではなく気の種類も恩恵もある。気の種類は【剣気】やらなにやらだ。勿論恩恵も身体強化やらなにやら種類によって違うがある。【鏖気】とやらは全ての恩恵を受けられる達也固有の物のようだ。頑張れば普通の人間も剣気やらは使えるようになるかもしれない。
そして、達也は鏖気を身体に通し、纏い、そして光の奔流に右ストレートを放った。
パァン!
…………訓練場の見晴らしが良くなった。
「お前のせいで!お前のせいで!俺がどんなに苦労しているとー!」
ただ、それでも和眞の機嫌は良くならないようだ。




