第26話 夜の散歩
もすもす終日☆
ハァーイ、みんなのアイドル玉鋼バンブーだよ!
イタッ!
然り気無く雪〇の峰で殴らないで!
痛いっ!
だからと言って機竜で握り潰そうとしないで!
「もすもすひねもすー?ハァーイ、みんなのアイドル神崎達也だよー♪」
『きるぞ』
「ババーン!厳正な抽選の結果!黒條和眞君に!【フックショット】をプレゼントすることが決定しましたー!拍手っ!」
『そんなもん要らねぇからI〇か神〇機竜寄越せ』
「えー、どうしよっかなぁ?」
『いや、持ってんの!?』
「うーん、まあ、白〇とかバ〇ムートとかは創ったから。アジ・ダハーカでいい?」
『要らないから!冗談だから本気にしないで!』
「わかってる」
『なら良かった。それでなんの用だ?こんな時間に』
「いや、学園で某公爵令嬢的な人とやりあう可能性があるからその報告と、お楽しみの邪魔をしようかと。だが、その分だともう終わってたようだな。つまらん」
『おーい!?ふざけんなよ』
「じゃあな。そっちの三人は抑えといてくれよ」
タツヤはほぼ一方的に話すと通話を終了した。通話に使用していたのはタツヤが創ったスマホ的なやつだ。現在所持しているのは和眞とタツヤの二人のみ。三女神には持たせていない。その理由は察して頂きたい。
だが、しつこく電話してくる奴はウザいとだけ言っておく。
「ふぁ、あ。ギルドでも行くか」
タツヤは二十四時間営業の冒険者ギルドへと向かった。
その結果、とある人物と出会うことになるとは知らずに。
(そういえば、俺はたぶん2年生に編入だよな。それに生徒会長の年齢も聞いてないし。結構適当だな)
タツヤはそんな事を考えながら民家の屋根の上を歩く。言っておくと、タツヤはたぶんと言っているが確実に2年生に編入することになる。もちろん、今のではなく、次のだ。つまり現一年。
そして、生徒会長。
タツヤの予想通りと言った人物だ。タツヤは知らないが生徒会長の学年は一年。つまり、タツヤと同学年になる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
タツヤがギルドの扉を開け、中に入ると近くからそんな声が聞こえた。タツヤが声のした方を向くとそこには両手一杯に書類を抱えた三つ編みの少女がいた。クラスに一人は居そうなタイプの娘だ。
「大変そうだな。どこに運ぶんだ?」
タツヤはその様子を見て思わず訊いてしまう。
「受付カウンターまでです」
「そうか、なら《固定》《浮遊》《移動》」
「ふぇ?わっ」
タツヤは少女の答えを聞くと物体を固定する魔導を発動し、浮遊させてからカウンターまで移動させた。
魔導の三種同時発動。普通なら超々高等技術と呼ばれるものを軽々と行ったタツヤを少女は驚きの表情で見るがタツヤの無駄に整いすぎた容姿を見て軽く頬を染めながらすぐに視線を外す。
「これでいいか?」
「は、はい。ありがとうございます!」
「どういたしまして。それより一人なのか?この時間に」
タツヤは受付の方を見ながら言った。
冒険者ギルドは基本的に腕に自信のある者達が金と名声を求めて集まる場所だ。それは必然的に荒くれ者が多くなる。いくら夜遅くと言ってもこんな少女一人というのは流石にいろいろと危ないだろう。タツヤももしかしたら強いのかも……と思い少女を鑑定したが、少し魔法を使える程度だった。
「はい。受付には私一人です。何人かは後ろで作業してますけど」
「それで回せるのか?」
「まあ、いつもこの時間にはシルフィ様くらいしか来ませんし」
「シルフィ様?」
「はい!16歳で既にSランク冒険者のシルフィ・エル・ルーセント様です!ご存知で無いですか?かなり有名なのですが。イングラシア王国ルーセント公爵家の長女で一年生ながら学園で生徒会長を勤めており、その美しい煌めくような金髪と晴れ渡る蒼穹のような蒼い目に魅了───」
「(そいつが男嫌いかぁー!)」
タツヤは少女の言葉に思わず心の中で叫んだ。当たり前だ。初見でやりあう事になるのかなぁとか思っていたらすぐに情報を得たのだから。
「そ、そうか」
「ところで、貴方も冒険者ですか?今まで見たことがありませんが」
「ん、ああ。一応そうだな」
正確に言えば一応どころでは無いのだがタツヤはそう言った。それこそ名前とランクを言えば領主(馬鹿でなければ)がめちゃくちゃもてなしてくれるレベルで。
「こんな時間になんて珍しいです」
「まあ、暇だったからな。依頼はアッチに貼ってあるので全部か?」
「いえ、受付で【無指定高難度未達成依頼】を見れます」
【無指定高難度未達成依頼】──通称【グランドクエスト】。それはランク指定が無く、最高で数千年前からの依頼である。その難度はXXXランク依頼と同じかそれ以上と言われ、受注したほぼ全ての冒険者が死亡している。さらに、その中でのみ有効となる難度設定もされており、☆1から☆15までとなっている。因みに魔王討伐もこれに含まれる。
そして、タツヤは非公開ながらも既にギルド本部により斡旋された【グランドクエスト】を数個完了させている。その報酬の多さに使い道がほぼないタツヤが頭を抱えたのは別の話だ。
「じゃあ、それを見せてくれ」
「正気ですか?」
「まあな」
「そうですか。じゃあ来てください」
二人はカウンターの方へ歩いて行った。




