第59話
エルクス占領から6日。
「さて、と。そろそろ動くか」
タツヤはその腰を上げ、皇国への侵攻の再開を宣言した。
◇◆◇◆◇
「陛下!陛下!」
アンラス皇国皇都。その中心にある城の廊下を叫びながら走る兵士が居た。
彼の名はカースト。
エルータスでの戦いを遠方から監視していた者である。
「陛下にお目通りを!早くしてくれ!」
カーストは息を切らしながら皇王の執務室の前の近衛騎士にそう叫ぶ。
普通ならば騎士爵を持つ近衛にこんな態度を取れば不敬とされかねない。だが、近衛騎士たちはカーストの様子とその容貌を見て、そんなことを気にすることはできなかった。
「お、お前……一体なにがあった……!?」
「んなことは良いから早く!」
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
「騒がしいな。何事だ」
扉が開き、中から王笏を持った白髪の男──国王が出てくる。
それを見て、カーストは早口にエルータスであったことを伝えた。
神皇国軍によって軍が殲滅されたこと。軍団長バランが捕らえられたこと。見たこともない魔法が使われたこと。
「其方の傷は……」
「……先の魔法によるものです……」
自身を見て問われたその言葉にカーストは頭を下げながら答える。
顔の殆どが焼かれ、右腕に至っては千切れている。まだ死んでいないのはポーションによって右腕の止血をしたことが原因だろう。
「……バラン軍団長閣下が」
「捕虜に……!?」
一方、近衛騎士たちは自分たちの知るその男を脳裏に浮かべながら驚きを顕にする。
対人戦においては皇国最強の名を欲しいままにし、皇国に伝わる霊剣を賜っている彼が手も足も出ずに倒されたなど全く予想もつかなかったのだろう。
「……ラーズを呼べ」
「その必要はございません、陛下」
皇王は険しい表情で近衛の1人に宰相であるラーズを呼ぶように命じた。だが、その必要は無かったようだ。
「ラーズ、停戦の……いや、降伏の準備を始めよ。代償に魔法機兵の設計方法を出しても構わん」
「降伏の準備は出来ております……」
「なに?」
「第四皇子殿下よりその様に命令されておりました故」
「なるほど、ヴァーナか。よし、条件を纏めて報告しろ」
「はっ」
こうして、アンラス皇国の中央部は降伏へと動き出すこととなる。
だが、降伏の前提として重要なのは相手に理があるということ。それを考えれば神皇国側に降伏を受け入れる理由は無かった。
◇◆◇◆◇
「……ということになっている」
「なるほど」
タナトスの戦略立案室。
その中でタツヤとエルドの2人はモニターに映る皇国の首脳部を見ていた。
「降伏を認める理由は無いね」
「ああ。他の国なら魔法機兵の設計図欲しさに認めたかもしれないがな」
「うん。こっちには魔導機兵があるし、戦力も拮抗してるわけじゃない。領地にしても……」
「そんなに欲しい土地も無い」
「寧ろ……ウチの劣化版というかなんというか」
かなり好き勝手言っているが事実なのでしかたない。
「唯一欲しいのは……」
「ああ。第四皇子ヴァーナだな」
「うん。かなり優秀だよ、彼は。にも関わらず権力には興味が無い……」
「エルド。
今回のやつはお前に任せる。このまま戦争を続けてもいいし、降伏を受け入れてもいい。ただ……」
タツヤはエルドを見る。
「神皇国の威を示せ。
最低条件として、ヤリーチンの身柄とヴァーナの確保。これ以外はお前の裁量だ。これは友でも義兄弟としての頼みではなく、王としての命令だ」
「承知しました、我が王よ」
エルドはそう言い、頭を下げた。
これが、神皇国国王の右腕として語り継がれる王佐卿の初仕事。それの始まりであった。
「……こんな感じか?」
「そうじゃない?」
「ようわからんわ」
「僕もわからないなー」
「てか、元王族として頭下げるのに抵抗無いわけ?」
「無いかなー。王族とか面倒くさいから嫌だったし」
まあ、そんな真面目な空気もすぐに終わるのだが。




