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第56話 王

 貴族たちからなにやら怪しい気配がたちあがる。


「きみ……」 「ちょっと……」 「こっちに……」 「来ようか……」

「え、ちょ、あ、アーーーーッ!!」


 貴族たちは馬鹿を捕まえると外へと引きずり出していった。なにやら、悲鳴が聞こえ続けているがフレイン伯爵含む他の者達は完全に無視だ。

 あの馬鹿の処遇より先にやることがある。


「どうすればいいんだ…」


「まあ、一人で出て行くしかないでしょう」


 項垂れる伯爵にいつの間にか部屋に居た長髪の男が言った。


「何者だ!?」

「おお、ヒガか。皆、警戒しなくていい。友人だ」


 長髪の男の名は比嘉悠介。タツヤが訪れたら料理店の店主だ。


「ヒガ、なぜここに居るんだ?」

「最初は南門に行ってたんだが……まあ、あとはあれだ。それでだが……奴には喧嘩売らないほうがいい」


 悠介は化け物の中で平然としていた男を思い出して言う。化け物の中で最も小さな気配。だが、それが一番不気味だった。


「会ったのか?」

「朝、店に来た。銀髪の方は見た目から想像できないヤバイくらいの覇気があった。黒髪は…」

「黒髪は?」

「黒髪は……なにも感じない。だが、それが不気味だ……見たところ、銀髪の上に居るのが黒髪だ」

「だが、上が弱いというのはおかしくはないだろう」

「生きていれば人間、気配がある。

 勿論、黒髪もあるが極小さいものだった。自ら抑えている……そんな気がしてならない」


 悠介はタツヤをそう評価した。

 実際、その通りである。タツヤは自分から発せられる圧力──俗に覇気と言われるそれを抑えている。理由は単純。出す必要がないから。勿論、少しでも戦場に出る際は抑えることはない。ただ、ここは街中。誰も見ていないため出す必要など無かった。


「とにかく、行くなら早く行ったほうがいいだろう」


 悠介はフレインにそう告げた。

 悠介の真剣な表情を見てフレインは覚悟を決めた。













 ◇◆◇◆◇


「お、出て来た」


 タツヤは、屋敷の玄関から出て来た齢40半ばくらいの男を見て、隣のエルドに聞こえるくらいの大きさで言った。

 そして、エルドが頷くのを横目で確認する。


「お前がフレインか!」


 タツヤは割と大きな声で誰何する。

 一応、フレインということはわかっているが、万が一嘘をついた場合のことを考えてだ。


「そうだ!貴殿は?」


 フレインはそれに答えながら、タツヤに近付いていく。


「セフィロダアト神皇国国王神崎達也」

「国王!?貴殿がか?」

「そうだ」

「なるほど。

 しかし、セフィロダアト神皇国とは寡聞にして存ぜぬ。どのような国か?」

「ふう……めんどくせ。

 旧アドル王国だ。国王が俺に変わって、旧王族が補佐の一族になっただけだ。

 ただ……アドル王国のように甘くはないぞ」


 タツヤはフレインの言葉に丁寧(?)に返す。


「さて、出て来たということは死ぬ覚悟ができたということだよな?」


 タツヤはフレインに問う。


「ふっ、そう簡単に死にはせぬよ。

 ただ、教えてくれ。なぜ戦争を起こした」

「なぜ?

 人の女に手を出されたから、それと見せしめ」

「見せしめだと?」


 フレインが怪訝な表情で聞き返す。


「なあ、平和ってなんだと思う?

 争いが無いこと?誰もが仲良く生きていること?

 俺は自分の心に平穏があることだと思う。

 俺の平穏、それは自分や周りの人間の安全が脅かされないというのだ。

 だが、それを守ることなんていうのは力が無いとできない。それに未然に防ぐには敵わないと思わせるのが最も速い。

 なら、わかるだろ。俺は俺の平穏のために力を使うことを厭わない。自分勝手なのはわかってる。だが、それをわかってでも俺はやる。

 今回はそれを、知らしめるのに丁度良かった。

 どっかのバカ皇子がやらかしてくれたおかげでな。喧嘩を売るなら覚悟しろ。それを伝えるために俺はこの戦争をしている」


 タツヤは淡々とそう言った。

 だが、淡々とした口調であっても周りの人間が大切というのはタツヤの本心だ。

 どれだけ強引であっても、それが周囲を守るためなら厭わず行う。

 なぜなら、周りが大切だから。


 タツヤは無意識にその覇気を顕にしていた。

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