第55話 stand by
エルクス南門。
そこには深紅の龍とそれを従える金髪の男と黒に限りなく近い紺髪の女、その後方には五百程の兵と二十名程の騎士が控えていた。
その異様な──龍を従えているという点や緊張感の無さによる──集団の前には精緻な装飾が施された椅子に座る二人の青年が葡萄酒を片手にチェスをしていた。
「チェック」
「ふぇ!?じゃあ、こっち…ダメだ、ならこっちもダメだ!」
「まあ、詰んでるし」
「・・・」
これでタツヤの6勝目。
エルドの気持ちはチクショウメ。
「てか、あと何分で三時間経つ?」
「あと十五分くらいかなー」
タツヤがグダーとしながらエルドに訊く。
威厳もくそもない姿ではあるが、これでも王なのだから本当に驚きである。
「で、彼処からコッチを狙ってる奴はなに?」
「どこ?」
「3キロくらい先から弓構えてるやつ。てか、あそこから撃って俺らに当てられんの?」
「あ、あれか。いや、知らないよ。魔道具なんじゃない?」
そんな緊張感もない状態でも自らへの危険は察知する。たとえ、それが数キロ先であっても。
タツヤは溜息を1つ吐くと、インベントリから狙撃銃である《神銃・蝕》を取り出す。そのフォルムはブレイザーR93LRS2Tactical。簡潔に言えばヨルムン○ンドでルツがオーケストラ相手にぶっ放した銃である。
強力な.338Lupua弾を使用するストレートプル・ボルトアクションライフルだ。
「なんか、めんどくさそうだからドーン」
タツヤはやる気の無い声と共にその引き金を引く。
見た目はブレイザーR93LRS2Tacticalであってもその中身は最高位の神器である。つまり、射程は無限。たとえターゲットが数光年先のアリだったとしても撃ち抜ける。
銃口から放たれた弾丸は真っ直ぐに弓を構える男に飛んでいく。そして、その弾丸は眉間を撃ち抜いた。
「さて、と。さっきのは敵対行動ととってもいいな。
エルド!こういう場合での対処は?」
「殲滅」
「だな。テメェら!忠告無視した領主様を潰すぞ!皇国の中央に知らしめろ!」
「stand by……ready move!」
こうして、愚かな従属貴族の手の者によって知らないうちに領主はタツヤに完全に敵判定されることとなった。
◇◇◇◇◇
「フレイン伯爵!お待ちください!」
「止めるな!私が行かなくてはこの街は!」
「大丈夫です!そんなことにはなりません!」
「なぜ、そんなことが言える?!ええい、離さんか!」
領主、フレイン伯爵邸。
数多の戦で勲功を上げてきた武の名門フレイン伯爵家の本拠地エルクス。
その本邸であるこの場所ではフレイン伯爵が寄子の貴族達に取り押さえられていた。
その理由はもちろんタツヤの通告。それを聞いた伯爵はすぐに向かおうとしたが寄子たちによって阻止され続けている。
「大丈夫なのです!我が男爵家の弓兵が向かいました!」
「なに?どういうことだ」
「魔弓アーヴァンを持たせた弓兵が向かっております。すぐに敵将を討ち取ブベラァ!」
「なにをしておるのだ、貴様!」
フレイン伯爵の怒声が響く。
彼の前には頬を抑えた貴族が倒れ、フレイン伯爵を見上げている。
「敵将を討ち取る?なにを言っている!それは敵対行動ではないか!もし、それが原因で攻め入られれば「失礼します!!!!」
「何事だ?」
フレイン伯爵の言葉が扉を乱暴に開く音と焦った声に中断させられる。だが、それを咎めることなく、フレイン伯爵は部屋に入ってきた男に問う。
「は!南より、騎士及び数百の兵、ドラゴンが向かってきています!」
「なん…だと……!?まだ三時間は経っていないはずだぞ!まさか…」
フレイン伯爵は倒れている貴族に目を向ける。
「ありえません!奴には数キロ先より狙撃するように命じました!」
『あ、あー。
エルクスの統治者殿に告ぐ。三時間経ったわけではないが、こちらを狙う弓兵を見つけた。
これは敵対行動と見なし、戦闘を開始する。申し開きがあるなら、今すぐ一人で屋敷から出てこい』
この時、フレイン伯爵とその他の心が通じたそうな。
「「「お前が原因じゃねえか!!!!」」」




