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第二十章 身を知る雨(5)

 


(強引に押し掛けて弟子入りしたくせに──)

 その割に、決して銃太郎を頼ろうとはしない。

 瑠璃にとって、砲術を教わる以上の存在ではないということなのだろう。

 先の会話でもそうだ。

 瑠璃が端から自分をあてにしていないことは、明白だった。

 進退窮まる事態を目前にしても、一言の相談すらされないのだから、随分と軽んじられたものである。

 去り際、瑠璃が呼び止めたのも聞かずに、逃げるように城を後にしてきた。

 苛立つと同時に、胸の深いところがずきずきと疼くようで、居た堪れなかったのだ。

「そうそう。姫さま、本当に降嫁なさるらしいじゃない。それも勝抜き試合で御相手を決めるなんて、お城も面白いことをするものね」

 直人を相手に散々話したのだろうに、まだ話し足りないらしい。

 まさに今し方、当の瑠璃と話をしてきた銃太郎にとって、これほど聞くに堪えない話題はなかった。

 だが、渋面で帰宅した銃太郎が、更に顔を曇らせたところで、たにが口を噤むことはない。

「どなたが勝ち抜くのかしら。姫さまの御歳に似合う方と言えば、やっぱり助之丞さんかしらね? それとも、御家柄で言えば御大身の内蔵助さまも十八というから、良い組み合わせかも?」

「ははァ、丹羽内蔵助殿か」

「そうそう。お若いけど、何しろ三千石のご当主ですもの。誰もが納得するんじゃないかしら」

「まあ、家格はなァ。しかし、内蔵助殿はどちらかというと学者肌ではないか? それに、あれほどの大身では、既に許婚がいてもおかしくない」

「あぁー……」

 それもそうか。と、たには露骨に落胆の声を漏らす。

 直人もたにを相手にすると口数が増えるようで、止め処もない噂話に逐一反応を見せた。

 銃太郎が傍で耳を傾けていることなど、まるでお構いなしである。

「兄さんも、鳴海さまの心証がもうちょっと良かったら御声が掛かったかもしれないのに……」

「たに。その話はもういい」

「どうして? 兄さんだって本当は試合に出たいでしょ?」

「うちには関係のないことだ」

 白湯をぐっと呷り、空の湯呑みを置く。

 波立ったままの心持ちのせいか、些か乱暴な手付きになった。

 湯呑みの高台こうだいが囲炉裏の炉枠を強かに打った音で、二人も漸く銃太郎の気配が並々ならず険しいことに気付いたふうだった。



【第二十一章へ続く】

 

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