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代償と突然の別れ

エントとクロの、フレードがいない間の物語です。

エントに至っては、少し遡った話です。

数話続きます。


「なんじゃ、またあの人間どもは我を兵器として呼び出すのか!?」


エントは自分が魔法で召喚されることに気付き、少し前の戦争に参加した時の事を思い出す。

しかし、召喚されて出た先には、片腕と片目の無い一人の少年とドライアドがいた。

ドライアドを縛り動きを止め、少年を見つめる。


「お主か、我を呼んだのは。…ほぅ、お主はかなり強いな。良かろう、お主と契約してやろう。」


底知れぬ魔力と才能を直感的に感じた我は、少年と契約を交わした。


「お主がピンチになった時も出来るだけ助けることが出来るように善処しよう。」


契約を交わしてから、少年の片腕と過ごし、少しずつ心を通わせていった。

我は少年と一緒にいるにつれ、少年に特別な感情を抱くようになっていた。


長年、植物の精霊の頂点に君臨してきた我にとって、これは初めての感情だった。


「主の側にいるだけでこんなにも幸せ気持ちになるのじゃな。」


我は幸せだった。

主が寝た後に体を少し触ってドキドキしたり、寝顔を見つめていたらいつの間にかキスしようとしていまい、慌てて止めたりするくらい、主に夢中だった。


そんな時、少し嫉妬する出来事があった。


「即金で買います!」


一人の獣人の奴隷を見た瞬間、主はその娘の事を気に入った、いや一目惚れしているのが、我には分かった。

日が経過するにつれ、主のクロという少女に抱いていく感情が増加していくのが伝わり、我は怖くなった。


「我をもっと見て欲しい!我だけを愛してほしい!」


そんな事を言うわけにも、言えるわけもなかった。

そんなわがままな自分がいることに、我は情けないと自分を責めた。

主は毎日変わらず、我に愛情を注いでくれていたのに…。



それから楽しい毎日が続き、こんな日がずっと続いてほしいと思っていた矢先、厄災は突然訪れた。


「んな!?なんだ、この魔力は!?」


いきなり主はそう叫ぶと、我を抱きよせ魔法を展開した。

空が光り、激しい衝撃が伝わってきた。


「頼む、耐えてくれ!」


我はただ、呆然としていた。


「何が起きたんだ?」

「えっ!えっ!?」

「なんじゃ、何が起きたのじゃ主!?」


煙や塵で辺りが見えない中、我も元の姿に戻り警戒を始めた。

ドライアドの奴は、我以上に混乱しているのが分かった。


「分からない。でも攻撃されたのは確かだ。」


落ち着いた表情の主につかまり、空からの光景を見たとき、我らは唖然とした。


主の作った壁が故意的に消滅していた。

こんなことが出来る存在を、長年生きている我は予測出来た。

予測は絶対に当たってはいけなかったが、呆気なく当たってしまった。


「ほう、妾の攻撃に耐えるとは珍しい人間がいるものだ。」


一人の小さな女の子の声が聞こえた瞬間、我は恐怖に支配され動けなくなった。

その声の主を、長年生きている我は知っていた。

五大竜の一角、炎竜ミスティニアス。


「やってくれたな。妾に傷を着けるとは。人間ごときが、竜の力を思い知れ!」

「俺は間違ったことはしてない。お前の考えを改めさしてやる!かかってこい!」


我が恐怖と戦う中、主は我とドライアドを地面に置いた後、主はミスティニアス戦っていた。


(やめるのだ!主!戦ってはいけないのじゃ!!)


我は叫ぼうした。

竜相手に勝てる存在は、同じ竜しかいないと知っていたから。

主では勝てないと分かっていたから。


しかし、恐怖で声を出すことが出来なかった。

我は口を動かすことすら出来なかった。

…情けなかった。


「危ないっ!主、避けて!!」


言葉に出すことが出来ず、心で叫んでもそれは遅かった。


竜の姿のミスティは赤の強い虹色に光り輝くブレスをフレードに放った。

フレードの障壁がガラスの破片のように砕け散り、フレードがそのブレスに包まれるのが見えた。

最愛の人が消え行く姿を、最期の時を我はただ見ていることしか出来なかった。


「ふん、妾に逆らうから…。だが、久々にいい戦いが出来た。殺すのは少々惜しかったかもしれん。」


厄災が飛び去って行くのをただ、眺めていた。




ー 守れなかった ー


「エントさん!しっかりしてくださいエントさん!」


ー 失ってしまった ー


「エントさん、ごめんなさい!」


バチンッ!


我は強制的に意識を取り戻した。

ドライアドが思いっきり我をビンタしたのだとわかった。


「貴方がしっかりしなくてどうするんですか!?何か出来ることがあるはずです!前を向いてください!」


ポロポロ


涙が落ちていくのが分かる。

最愛の人を失った悲しみと力になれなかった不甲斐なさ。

今になってそれらが一気に押し寄せてくる。


「ううっ。我は…我は…。」

「信じて待ちましょ、きっと帰ってきます。あの、フレードさんですよ!そう簡単に死ぬわけないじゃないですか!」


「…そんなこと…ある…わけ…。」

「貴方が可能性を信じなきゃ、誰が信じるんですか!貴方が愛してる大切な人でしょう!…待ちましょ、何年でも何十年でも。」


ドライアドの言葉に、強く胸を打たれ、ハッとした。

そして、我に一筋の光が見えた。


「エント、ただいま!」


そう言って帰ってくる、主の姿が目に浮かぶ。

主は、元々この世界の人間ではない。

もしかしたら…。

そうだ!我は主を信じて待たなければならない!


主の治療院も、この街も、そしてクロ殿や主の家族も、愛する主が大好きな全てを守りたい。

帰ってきた時に、主が喜んでくれるように。


「すまなかった、ドライアド。お主のおかげで助かった。この借りは必ず返す!」

「エントさん、元にもどって良かったです!ずっと呼んでたんですからね。さ、獣人がもうフロネ街に侵入しはじめています。急ぎましょ!」


ドライアドのおかげで正気を取り戻したエントは、フレードの大切なものを守るために動き出す。


「…主。」


フレードの存在の大きさを再確認しながら、街へ急ぐ。


「この地と主の大切な人は我が守るのじゃ。だから、早く帰ってきて欲しいのじゃ。」


嫌に晴れ渡る空を見ながら、エントは呟いた。





ー 私にとって、それは突然の出来事だった。 ー


記憶を取り戻した私は、ご主人様と魔法の練習をした。

楽しくて幸せな時間だった。


ご主人様と別れた後、治療院の二階で簡単な魔法を復習していた。

そんな時、いきなり首輪が光り、私にかかっていたご主人様との奴隷契約の魔法が消失したのが感じられた。


「え!?あ、あれ!?何でニャ!?」


奴隷魔法は奴隷解放を行うか、契約主が死ぬと解除される仕組みになっている。

解放の魔法を受けてないので、考えられるのは…いや、クロはそこまでしか考えなかった。


「嘘…。もしかしてご主人様に何か会ったかニャ?まさか…。」


すごく嫌な予感のしたクロは治療院の窓から飛び降り、フレードを探した。


「何で、何で見つからないニャ!?ご主人様、どこニャ!?」


魔法で何処にいるか、気配でも何処にいるか分かるクロにとって、存在しているかさえ分からないという感覚は初めてで、とてつもなく不気味だった。


不安に押し潰されそうになりながら、ひたすら街を駆け巡りフレードを探した。


ソフィやヘルクレード、冒険者の皆に事情を伝えると、フロネ街総出でフレード捜索に乗り出すことになった。

しかし、フレードはいつになっても見つからず、帰って来なかった。


ー カンカンカン! ー


「敵襲だー!!獣人達が襲ってきたぞ!!」

「死ね!人間共、皆殺しだ!!」


そして、早くも獣人達が動き出し、戦争のはじまりを迎えた。


エントとクロは、心も体も戦闘も強いです。

フロネ街が侵略されると、クロム王国はかなり痛手になるので、強い冒険者がたくさん住んでいます。

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