表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/37

代償とフレード死す

俺は自分が強いと思っていた。

異世界に転生して、特別な魔導書という俺にしかない能力があり、レベルを上げて人類の限界をあっさり越えていたのだから。


この世界に様々な種族がいることは知っていた。

だけど、獣人とかエルフとか妖精とか竜だって、戦ったら勝てると最近は思っていた。


だけど、今は自分がどれだけ自惚れていたのかを痛感している。


「くそっ!なんで効かないんだよ!」


魔導書の魔法はほとんど試した。

水だったり火だったり、精神だったり呪いだったり、今までに見たことある魔法、自分で考え出したオリジナルの魔法。

どれもミスティ相手に効果がない。


傷は浸けられてもすぐに塞がってしまうし、そもそもミスティの動きが速すぎて攻撃が当たらない。


エント以外の精霊を召喚したりもしたけど精霊といえど、竜相手には一瞬で倒されてしまった。


今は攻撃を避けるので精一杯だ。


「今まで出会った人間、いや今までに戦った他種族の中ではお主はかなりの強者になるであろう。だが、竜を相手にしたのが間違っているのだ。」


この世界で竜というのは全ての種族の頂点に立っていると本で読んだことがある。

その圧倒的な力があるからこそ、好き勝手に行動する迷惑な存在だ。


「人間を舐めるな!お前の行動でどれだけの人が苦しむのか、その足りない脳みそを使って考えろ!」


ノーガードで、物凄いスピードで距離を詰めてくるミスティに対し、俺は必死になって動いた。


「魔法がダメなら!!」


魔法が効かないと踏んだ俺は、父さんから貰った剣を構えて、一か八かの近距離戦に持ち込んだ。


「妾にそんな剣で傷をつけようなどとは笑わせるな!」


ミスティの炎ブレスをギリギリでよけ、竜の首に剣を当てる。


「ガチンッ!」


魔法で身体強化を限界に行った俺の一振りも、その硬い鱗に呆気なく弾かれる。


反動でのけ反った俺は間近でミスティの炎ブレスを受ける。


「くっ!はぁはぁ!」


何とか防御魔法で防ぎきれたが、呆気なく溶かされる俺の障壁を見て、俺は恐怖を覚えた。


「…まじか。だが、次で決める!」


俺はそう言うと、居合いの構えをして集中した。

剣術の中で唯一見切られたことのない俺の居合い。

死角を付かれる前に一瞬で勝負を着けるために生み出した技。

魔法で強化した体から放たれるその剣を誰にも見切られるはずが無いと自負している俺の剣。

スピードと切断力なら俺の中で一番の技。


「これで終わりだ!」


一気に距離を詰め、抜刀する。

剣を抜いた瞬間、俺は一気に寒気が襲ってきた。

剣を抜いた瞬間、ミスティの、その竜の目が俺の目をじっと見ていたから。


「そなたが全力を出した分、妾も一瞬だけ全力を出してあげよう。」


目が会ったその瞬間から時間が止まったかのように全てがスローモーションに見えた。

そして、ミスティの声が頭に直接響いて来た。


「ばかな。嘘だろ…。これを避けるか…。」


ミスティは首を曲げ、俺の剣を眺めながら口角を緩めた。

居合いは意図も簡単に最小限の動きで避けられた。

そして、カウンターで、竜の姿のミスティは息を吸い込み、赤の強い虹色に光り輝くブレスを放って来た。

直感で分かる、避けきれないと。


回復魔法と防御魔法を同時に発動し、一瞬で全力の障壁を作り出す。


「耐えろ、耐えてくれ!!」


光線が障壁に当たった瞬間、そんな俺の祈りも届かず障壁はガラスのように呆気なく砕け散った。


「パリンッ!」


全ての障壁が砕け散るのを呆然と眺めながら俺は、光に包まれた。



「ふん、妾に逆らうから…。だが、久々にいい戦いが出来た。殺すのは少々惜しかったかもしれん。」


ミスティはそう言うと静かに飛び去った。



その頃

「えっ!?あ、あれ?ご主人様!?もしかしてご主人様に何かあったのかニャ!?ご主人様、どこニャ!」


クロにかけていた奴隷魔法が消えたことにより、クロはフレードに何かあったのでは無いかと思い、フレードを探すため街中を涙ながらに走り回っていた。






…ここはどこだ?

いや、来たことがある、輪廻転生の部屋だ。


「俺は死んだのか…。呆気ないな。クロ、エント、皆ごめんな。」


真っ白な空間の中で俺は呟いた。

クロとエントを幸せにしてあげることが出来なかった。

それが、何よりも悔しかった。

悲しかった。

情けなかった。


「思っていたよりもずっと早くここに来てしまいましたね。松本修史さん。いいえ、ターリア・フレードさん。」


聞いたことのある美しい声が響いて来た。


「女神様、申し訳ありませんでした。自分が世界最強だと、特典貰って転生したのだから俺は強いと思ってしまい、あんな化け物に勝負を挑んでしまって。…それで死ぬなんて、なんて情けない。なんて、クロやエント、両親達に申し訳ないか。」


後悔の念が膨らんできた。

ミスティをあのままにしたら、戦争が起きてしまい多くの人が苦しむのは目に見えていた。


けれど、俺は今死んでいい人間では無かったのに…。

俺は色々な考えが混ざり合い、混乱していた。


「戦争を止めるために貴方が動いたことは素晴らしいことだったと思います。ただ、貴方は転生してから平穏に暮らし過ぎていました。私が貴方を転生させた時に見えた未来では、貴方は竜をも倒せる力をその年で持っているはずでした。」


女神様の言葉を聞いて俺はハッとした。

俺は確かに甘かった。


慣れていないから、まだ怖いからなどと、モンスターとの戦闘などあまりせず、安全な回復魔法のみを繰り返して都合良く強くなろうとしていた。


回復魔法は極まったとしても、せっかく代償として貰った魔導書のスキルはどうだ?

まだまだ、知らない魔法ばかりでどの属性の魔法も、完璧とは言いがたい。


「俺、なにやってたんだろ…。」


他にも貧しい子どもたちを救ってやるとか意気込んでいたのに、俺は生まれてから今まで、自分の街以外をほとんど見ていない。

もう、俺が転生してから何人もの子どもたちが死んでしまっているだろう。


「…怖かったんだ、正直。」


色々考えて分かった、俺は井の中の蛙だってことに。

自分の街以外、怖くていけず、モンスターだって弱いのしか相手に出来ない臆病者だってことに。

甘い汁を啜るだけの人間だったことに。

だから、女神様の期待に答えられず、強くなれなかったことに。


「…女神様、俺はこのまま消えてしまうのか?」


三度目の人生が終わったということは、もう残りの人生は残っていない。


それなら俺は消えてしまうのか、それとも天国的なところにいくのか。


「いいえ、消えませんよ。安心してください。もう一度だけ人生をやり直させて差し上げます。」


俺は驚いた。

次はないと思っていたから。


「また、あの世界に行かせて貰えるんですか?」


早くエントとクロに会いたい、家族に会いたい。

その気持ちで胸が一杯になった。


「はい。本来ならここであなたの全ての人生は終わりのはずです。でも、あなたはこの世界を変えることの出来る潜在能力を持っています。なので特例で貴方を生き返らせて差し上げます。ただし、条件があります。」


女神様に言われて俺はホッとした。

そして、次こそは竜すらも圧倒出来る強さを得ようと決意した。


「ありがとうございます。条件とはいったい何ですか?」


生き返る変わりに女神様が条件を出した。

それは俺にとって残酷なことだった。


「貴方をこの世界の死地へと送ります。そして、三年間貴方はそこから外には出ることは出来ません。生き返るにあたっての私からの試練になります。そこで貴方がもし死んだ場合、次こそは貴方の人生は終わりとなります。そこまでの人間って事で私は貴方を見捨てます。…私の期待に答えてくださいね。」


三年間、俺は女神様に送られたところで過ごさないといけないのか。


エントとクロにすぐに会いたかったのだが、今まで楽に過ごしていた分、俺は厳しく過ごさないといけない。

そうしないと、あの竜に勝つことは無理だろう。


「…分かりました。女神様の期待に答えられるよう、努力して強くなります。それではよろしくお願いします。」


「分かりました。転移させます。次こそは、あなたが世界を変えてくれることを祈って。」


女神様がそう言うと、真っ白な空間から自分が離れていくのが分かった。


「…みんな心配してるかな。戦争、起きてしまうのかな。頼む、三年間耐えてくれ!」


俺は祈りながら、女神様に送られ、地上に降り立った。

そして決意する。

世界を平和にするための、圧倒的な強さを手に入れてやると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ