代償と作戦
「この国から出ることができるルート、そして獣人国へバレずに入ることができるルートも知っているわ。だから私が案内する。」
そう言ったのはヘルンであった。
元傭兵であるため国境の森に詳しく、この国の抜け道を知っていた。
更に獣人国の傭兵の動きも偵察したことがあり、確実に侵入できるルートを作り出していた。
「ヘルンの実力は知っている。だが、それはあまりにも危険だ。リスクがでかすぎる。それにエルの為に力を尽くしたいのは山々だが、それでもし、三人とも死んだら俺はこれから先、死んでも死にきれん。もし、行くとしたら俺も着いていく。」
「それはダメだぜ、ヘル。お前とソフィは連れていけん。お前らの幸せを俺らは絶対に壊したくない。ソフィは隠密行動が得意ではないから連れていけん。ソフィを連れていけんとなるとヘルも連れて行くわけには行かない。」
「私のことは大丈夫だわ。ヘルクレードさん、私のことは気にせず、どうかエルさんの為に!」
ヘルクレードとサイラムは意見がぶつかっていた。
時間をかけて話合い、ヘルンを頼りに、エルを贈り届けるということにはなった。
だが、ヘルンとエル以外で誰が行くかを決めるのにさらに時間を費やした。
そして、最終的にヘルクレードとサイラムの殴り合いで決定した。
「諦めてくれ、ヘル。お前はソフィと一緒にいなきゃいけないんだ。それがお前にとって一番幸せだ。」
床に倒れ、気絶しているヘルクレードに向かい、サイラムはいった。
一瞬の隙も見逃さないサイラムは強かった。
「エル、お前は必ず俺が守る。これから先、何があっても必ずだ。」
サイラムはエルのことが好きだった。
エルのためになら平気で命をかけることができる男であり、親友ヘルクレードの幸せを誰よりも願う男だった。
「皆、ごめんね。私のために。」
エルは泣いていた。
パーティーメンバーが私のことを大切に思ってくれていること、そして自分のせいで大切な仲間を危険にさらしてしまうことに。
「俺に任せろ。命に変えてもエルを守るから。」
「サイラム…。」
結果、エル、ヘルン、サイラム、エイティの四人で行くことになった。
エイティが参加した理由は彼女の隠密能力が非常に高いため、万が一の時に逃げて、ヘルクレードに情報を伝えられるとエイティ自信が言ってきたからだ。
念入りに話合い、三日後作戦決行することになった。
「事が順調に全て終わればいいが…。」
「任せろ、きちんと皆を守りきってみせるから。」
「サイラム…。頼んだぞ!」
あっという間に三日が過ぎて、真夜中、エル達四人は動きだした。
「行ってくるよ、ヘル。俺、戦争が終わったらエルと結婚するんだ。だから、そんなに心配せずに待っててな。」
「いってくるわ。責任重大だから少し緊張してるけど、このメンバーなら大丈夫だわ。」
「私は気配を消すのが得意だから任せてちょうだい。三年前の借りをしっかりかえてしくるわ。」
サイラム、ヘルン、エイティの頼もしい言葉に、ヘルクレードは胸を熱くした。
「皆、本当にありがとう。ヘルクレード、ソフィ、必ず帰ってくるから!」
そして、四人は作戦に移った。
静かに見送った、ヘルクレードとソフィはきっと無事に帰ってくると信じて、待ち続けることにした。
十日後、ヘルクレードは朝から嫌な予感がしていた。
それは残念ながら的中してしまった。
「怪我人が運ばれてきた、誰か治療出来る奴はいるか!?」
「私は治癒魔法を使えます!」
「そうか、まだ息はある、早く来てくれ!」
一人の傭兵が叫び走り回っていたところに、ヘルクレードとソフィは出会い、もしやと思い、着いていくことにした。
国境付近を警備中の傭兵が、昔一緒に働いていた奴が森で血だらけで倒れているのに気付き、医療所まで運んできたそうだ。
だが、怪我が酷すぎるため、手に終えないらしい。
傭兵の話から推測するに、エイティでは無いようだ。
「もしかしたら、ヘルンか!?頼む、別の人であってくれ!」
そんなヘルクレードの願いは届かず、医療所に着いたときに手当てを受けていたのは間違いなくヘルンだった。
「ソフィ!」
「わかったわ!全てを癒せ、フルケアー!」
ソフィが全力で治癒魔法をかける。
深い傷が多く、かなりの血を流したことがわかったために、血液を作りやすくして、傷をふさぐ。
二十分が過ぎ、ソフィは魔力を使いきり、倒れた。
幸い、ヘルンは容態が安定し、回復の兆しが見えた。
「一体なにがあったんだ!?」
ヘルクレードは不安に押し潰されそうだった。
それから三日が過ぎ、ヘルンは目を覚ました。
「ヘルン、目を覚ましたか!?怪我はどうだ?他のみんなは?何があった?」
「リーダー、ごめんなさい。皆を守ることが出来なかった。」
ヘルンは状況を思い出したのか、泣きながら謝ってきた。
「何があったか、詳しく説明してくれ。」
「はい、実は…」
遡ること、十日前。
四人は無事にエルの故郷の街の森に着くことが出来ていた。
「それじゃあ、また会おう、エル。戦争が終わったら必ず会いにいくから!」
「ありがとうサイラム。ありがとう皆。必ずまた、会おうね。」
お互いに涙しながら別れた。
サイラムたちは直ぐに街から離れ、元の道を戻った。
帰り休憩や野宿をして順調に戻り、あと1日あれば無事にヘルクレードのところに到着出来る距離まできていた。
「後少しだ、皆頑張ろう。最後まで気は抜くなよ。」
サイラムの声にヘルンとエイティはあらためて気を引き締めた。
ちょうどその時だった。
「大変、サイラム。誰かいる。」
「なに!?」
森の中でエイティが見つけたのは、百メートル程離れた、これから向かうルート上に立っている人影だった。
「迂回して行こう、バレないように慎重に。」
遠回りにはなるが、見つからないようにするために気配を消して動いていた。
「サイラム、大変!、囲まれてる!」
「なんだと!?」
一つの人影に注意して動いていたら、いつの間にか、黒いローブを被った集団に囲まれていた。
完全に気配に気付くことが出来なかった。
「くそ!誰だ!要件をいえ!」
完全に囲まれたサイラムは、一人だけ顔を見せている、犬の耳の生えた男に話しかけた。
「こんにちは、人間のみなさん。私の名前はルアリー・ザラカス。単刀直入に言いましょう。クロム王国への侵入ルートを教えなさい。」
「知らない、俺達は狩りに出ていて取り残されていただけだ。」
ザラカスの要求をサイラムは飲むわけには行かなかった。
情報はばらした瞬間殺されるし、間違ったルートを教えたら拷問を受ける可能性が高い。
クロム王国の為にも、知らないを突き通すしかないと考えた。
「下手な嘘をつくな。そこの赤髪の男、確か名はヘルンと言ったか。そいつに聞けば直ぐにわかるはずだ。」
「な!?」
サイラムを含め、三人とも驚いていた。
パーティーメンバーしか知らない情報を、ザラカスが知っていたからだ。
「おや?その顔はなんでそんなことまで知っているかという顔ですね。冥土の土産にでも教えてあげますよ。こっちに来なさい、エル。」
ザラカスがそういうと、ローブを被った獣人の一人が近付いてきた。
そして、ローブを取った。
「な、なぜ、君がここに…。」
そこには先日街に送り届けたはずのエルが、不適な笑みを浮かべて立っていた。




