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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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1/21 ☆記憶の海に沈む

 週末、私と息子はにぎわう量販店に出向いて…今人気のアイテムを購入するべく店内を練り歩いていた。


 普段あまり行かない店舗という事もあり、目当てのものがなかなか見当たらない。

 おそらくおもちゃ売り場にあると思うのだけど…全体的にごちゃごちゃした品の並べ方がしてあるので、どうにも…迷ってしまうというか。

 しまったなあ、こんな事なら実物を確認しようとせずに、AMEZONで注文しとけばよかった…。


「あった!」

「おお、君良く見つけたな…どれどれ、一個980円?!意外と高いぞ、ふうむ…。」


 エンドレスにプッシュできるプチプチみたいなやつなんだけど…むむ、指先で押す感触がわりとかなり気持ちいいじゃん!!

 最近大人気だというのもわかる、…小さいのは200円か、でもなあ、せっかくならこの大きい奴の方が……。


 ずらりと並んでいるカラフルなプッシュポップの1つを手にした時、ふわりと…懐かしい、匂いがした。


 思わず商品を持ったまま、辺りを…見まわす。


 はしゃぐカップルに、小さなお子さん連れのお父さん…、中学生三人組。

 …誰がこの香りの持ち主か、わからないな。


 この香りは、私がコンビニで働いていた時に、ほぼほぼ毎日遭遇していた、匂いだ。


 なんの香りとはっきり断言する事はできないが、とても…いいにおい。

 柑橘系ではない、特徴的な…フルーツ系かフラワー系か、イマイチはっきりしない香り。

 おそらく男性用フレグランスだとは思うのだが、正体がわからない、個性的な薫香。


 週五日、夕方からコンビニで働いていた時…19:00前後にいつも現れた、おじさんの匂いだ。


 来店すると入り口からレジ前をまっすぐ通って…お弁当の方に向かったんだよね、その時いつもふわりと匂ったんだ。


 飲み物と小さめのお弁当、それと週に一回くらいのペースでタバコのエコーを買っていた。

 口ひげを蓄えた、白髪交じりのおじさんだけど…なんとなく童顔でイマイチ年齢層が読めない人だった。

 ほとんど会話らしい会話はしたことがないのに印象深いのは…おそらく嗅覚と視覚がダブルで作用しているためだろう。


 五年以上前の、当時の記憶が…一瞬で頭の中に、広がった。


 においというものは…記憶をグイっと、引き出すんだよね。

 引きずり出された記憶には、コンビニに関する他のイメージもこびり付いてくるというか。


 普段奥底にしまい込まれてる記憶が、頭の中にいっぱい、ポンポンと、溢れてくる……


 …あの頃は自転車で30分かけてコンビニまで行ってたんだよね。

 雨の日には合羽を着て働きに行ったっけなあ、よく頑張ってたなあ。

 ポリッシャーかけるのが好きだったな、外掃除に行くと、お隣のおばあちゃんからおやつもらったっけ。

 店長のいらっしゃいませの声がかわいくて好きだったな、普段は訛声なのに、いつもものすごい裏声出してたんだよ。

 オーナーがオタクでさ、いつも一番くじを退勤後に三枚づつ買って…A賞ゲットして大喜びしてたっけな。

 あのコンビニはいいお店だったな、近所の人たちとも仲良かったし、変な客もそんなにいなかったし。

 まあ、たばこの年齢確認ボタン押してって頼んでぶち殺すぞって言われたのが一番の修羅場だったかな?

 おでんの味噌をつけ忘れてお客さんの家まで届ける羽目になったのもわりと大変だったかも。

 タバコを買いに行かせるヤンキーと買いに行かされる中学生ってのが結構いてさ、何度か警察呼んだりしたんだよね。


 うーん、思い出してみればわりと問題の多いお店だったのかもしれないな。


 ・・・初めて働いたコンビニは、良いコンビニだったなあ。


 今にして思えば、あそこは私が接客業好きになった原点のお店だった。

 いろんなお客さんがいたっけなあ、いい人がほとんどだったけど、ヤバイ人もちらほらいてさあ……。


 近くのラーメン屋の奥さんは、毎日赤ちゃんをおんぶしながら買い物に来てたんだよね。

 ラーメン屋の嫁なのにラーメンが嫌いでさ、新作のお弁当が出ると喜んで買ってったっけなあ……。


 日曜朝8:00、いつも仲良くコーラとブラックコーヒーを買っていったお兄さん二人組がいたんだよね。

 今でもお会計待ちの時に、人前で幸せそうに頭ちゅーをしているのだろうか……。


 めちゃめちゃ派手な模様の腕をしたおじさんは、いつも一言もしゃべらずに新作スイーツを買ってったんだよね。

 店の中でヤンキーが騒いで困ってた時に怒鳴ってくれてさ、意外と声が高い事に驚いたんだった。


 台風で漏電しちゃって、停電した時は大変だったな。

 JANコードを書いて一つ一つ手打ちして販売してさあ、お客さんも待たされてるのに怒りもしないで…我慢強いなあって感心したんだよ。


 そのわりにはたばこを買う時にもたもたすると怒ることがあってさ、銘柄覚えるまでは大変だったんだよね。

 ライトだのウルトラライトだのメンソールだの二個で一個だの、たばこの知識がなくて笑われたりツッコまれたり。

 わりとたばこを買う人ってイメージに残ってるんだよね、不思議なもんだなあ、なんでだろ。

 マイセンのおじさん、ピースのお兄さん、セブンのお姉さんにわかばのおじいちゃん、ホープのおじさんにキャビンの姉ちゃん、ハイライトメンソールのおっさんにアメスピのヤンキー、マルボロライトのおじさま…。



「これにする。」


「ひぇあ?は、はい、これね!じゃあ、買って帰りましょう、ハイ!」



 しまった、どうも私はこう、記憶の海にトリップする癖がある。


 朗らかな息子の声を聞いて、ただいま絶賛買い物に来ていたことを思い出し、あわててへっぽこな返事をしましてですね。


 お買い上げした、只今若者たちの間で大ブームになっているシリコン製のおもちゃを自宅に持ち帰り、息子と二人で、ポコポコとした丸い部分を、プッシュ、プッシュ……。


 ぽこ、ぽこ、ぽこ、ぽこ・・・・・・。

 ぽこ、ぽこ、ぽこ、ぽこ・・・・・・。


 …あれだ、息子も大概無口だから、沈黙状態のまま…ついつい、夢中になってしまってですね。

 なんていうか、無心になれるというか…これは病みつきになるぞ…。


 ぽこ、ぽこ、ぽこ、ぽこ・・・・・・。

 ぽこ、ぽこ、ぽこ、ぽこ・・・・・・。


 なんかこういうの、昔もあったな……。


 そうだ、無限にプチプチできるのとか、無限にペリペリできるのとか、無限に枝豆が出てくるのとかあって…。


 あの頃はたしか量販店で働いてて、そこでこのシリーズが売れてたんだよ、品切れる事も多くて…わりとかなり嫌な感じの客ばかりでうんざりとして…。

 客もあれだけど、店も結構腹立たしかったんだ、やけにアイデアばかり出させられたわりに全然見返りがなくてさ、しかもイベントのために身を削ったのに文句しか言われなくて、さらにめんどくさいコーナー頑張って作って成功させたのにいきなり店長判断で撤去されるしさ、従業員同士も仲いいふりして裏ではかなり……。



「ただいまー!!!うわ、何やってんの?!あたしもやる!!!」



 記憶の海にどっぷり沈み込む前に騒がしい娘が帰ってきてくれたおかげで、私ははっと我に返って晩御飯を作ることができたという、お話ですよ……。

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