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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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2/15 ☆フラワーアレンジメント

 あらあら、ごきげんよう、おげんきでした?ええ、みなさんも、うふふ・・・


 お上品な会話と、のどかな微笑みがあふれる、とある町の公共施設の水道付きのやや使用料の高そうな会議室。平日の昼下がり、ここでフラワーアレンジメントの講習会が開かれる運びになったのだけれども、参加者が少ないというので……急遽参加することになってしまった。


 セレブ感漂う、優雅な奥様の中に、明らかに挙動不審な落ち着きのない人が、一人。……私だよ!!!


 注意力散漫の飽きっぽい頭で一生懸命説明を聞いても、何が何だかさっぱりだ。


 マスフラワーフォームフラワーフィラーフラワーラインフラワー…なんの呪文だい。

 シンプルラウンドオールラウンドフレンチスタイルトライアンギュラーパラレルホガースオーバルクレッセントラジエーション…私日本人なんでねあはは。

 スチールグラスベアグラスアレカヤシモンステラ…よくわからんけど葉っぱ、葉っぱ!!!


「んふ、そぉれぇでぇはぁ~、お花をぉ~組み立ててぇ~いきましょぉ~!」


 色気のハンパない先生の号令で奥様方が!!奥様方がー!!!一斉に花を取りに行ってーなんか作ってる!!


 なんかよくわからんが、緑色のスポンジ?に花を挿していけばいいらしい。器に緑色のスポンジをのせ、そこに花を挿して…。…刺さらんやんけ!!ねえ、ちょっと、これどうするの、花が倒れてくるんですけど!!


「あぁらぁ~、ずいぶん、豪快なお花選びぃ~?器よりもブーケの方がよろしいかしらぁ~?」


 急遽、自分だけ花束を作ることになってしまった。明らかに、教室内で浮いている。


「うふふ、ブーケもとっても素敵に出来上がりますよ!」


 隣の席の奥様が声をかけてくださった。


「はあ、そうですかね、へ、へへへ…。」


 笑い声がもう完全にアウトだ。


 そもそもからして、皆さん清楚なワンピースをお召しなのに私ってばキャラクターTシャツにデニムパンツとか…!!!私の場違い感が凄まじすぎる!!服装のことなんて誰も教えてくれなかったじゃん!!


 地獄のような市民講座教室……、まだあと一時間以上もあるんですけど……。


 花を選ぶふりをしながら、ほかの奥様方の作品をチラ見してみると、なんかすごく、こう、高そうな生け花がー!!


 見よう見まねで、同じような花をもらって、自分の席に戻ってブーケにしてみるも……、恐ろしいほど、センスがない。


 なんだ、この、ものすごいやっつけ感。

 なんなんだ、この、とりあえず花をまとめてみた感。


 私はただいま絶賛呆然中なり……。


 こういうのってさ、普通先生がお手本と見せてくれてさ、お手本通りに組み上げるもんなんじゃないの…?

 この教室の意図は何なんだ。センスのない人間を血祭りにあげることなんですか…?


 もうどうにも……ならん!


 私は自分のブーケをほっぽり出して、室内の麗しい作品を見てまわることにした。


 花を生けるという事は、こんなにも優雅で、華やかで、素敵だというのに。自分の席に無造作に置かれている花たちの気の毒さと言ったらもう。

 割とマジで本気で花たちに申し訳ない…。


 なんだかとっても居た堪れなくなって、ブーケ用の紙をもらって、包んで、リボンで根元を縛って、そっと持ち帰ろうかなとですね。

 ああ……でも紙でまとめたら、結構きれいな花束に見えるような?


「アラー!何を伝えようとしてるかわからないけどスゴイブーケね!初めて見た!」


 アレンジメントを作り終わった奥様方が室内を巡り始め、私のブーケに注目を…!!!ちょっと待って、私のは見てまわらなくていいんですけど?!奥様方が私の目の前で止まるー!!


「豪快さの要となってるのはフィラーフラワーの存在がないところなのね!アレカヤシの中にひっそり埋まっているガーベラもいいわー!白いカーネーションがやさしさを出してる、初めて作ったの?」

「は、はい…。」


 作り笑いは最高潮に引きつっている。あかん。これ以上の無理は、表情筋の命が危ない。


 時計をちらりと見ると、教室終了の時間!……よし、とっとと帰ろう!!


「あの、今日はありがとうございました、とっても楽しい経験させていただきました…。」


 色気フルマックスの先生にご挨拶をさせていただく。


「あらぁん、もうお帰り?またぁ、ぜひぃ、いらしてねぇ?」


 さらばエロスの化身。もう二度とお会いすることはございませんのことよ。私には……無理だ!!!


「また機会がありましたら。失礼します。」


 私はようやく、地獄空間から抜け出しましてですね!




「ちょっともう!!ひどい目に合ったよ!!」

「ああ、お花教室どうだったー?助かったー、山辺さんいけなくなっちゃってね!!」


 花束を抱えて家に帰ると旦那がちょうど車から降りてきて……玄関ではちあわせたぞ!

 旦那の頼みで今日私は…出撃する羽目になったんだよ!!!


「ちょっと!うち花びんないからさあ、コレ山辺さんに持ってってよ!!」

「いいの?せっかく作ったのに!」


 作ったけどさ!置いとく場所すらないんだから邪魔なんだってば…。

 私は旦那にブーケを渡して、夕食の準備をするため、キッチンへと向かったのだが。




 わんさか唐揚を揚げていると、旦那がドスドスと帰ってきましてですね。


「ただいまー!いいものもらったー!!」


 さてはまた食い物をもらってきたな!!


 どうも旦那は、近所の人から食べ物をもらう癖がある。

 私は聞こえないふりをして唐揚を揚げ・・・。


 げえ!!


「ちょっと!!何その花!!」

「なんか山辺さんがさっきのブーケ作り直してくれたー、器もくれるんだって!!」


 私のどうしようもないブーケが!!めっちゃ立派な生け花作品になっとるがな!!!


 なんていうか、すごいんだけど、何だろう、ちょっとうう、なんでもって帰ってくる?!いらないから持たせたのに!


「あのね!!その花置く場所ないよ?!もーそこのテーブル置いとくしかないじゃん、ご飯置く場所なくなる!!」

「じゃあご飯はあっちの部屋で食べればいいじゃん。あっち持って来てー。」


 かくして、忌々しいが美しい花は、一週間に渡り我が家の食卓に鎮座することとなりましてですね!!



 ようやく花が散り、あいた器を山辺さんに返しに行ってもらったところ。


「ただいまー!いいものもらったー!」


 またしてもお花をいただいて帰ってくる旦那がおりましてですね?!しかも……でかくなっとるがな!!


「ちょ!なんでまたもらってくる?!」

「えー!だってくれるっていったからさあ!あ、でも器はまた今度でいいから返してねだってー!」


 ……こんなん、延々と続くやつじゃん!!勘弁してー!!


 なお、この、お花騒動はですね。


 夏のクソ暑い日に、旦那が飛び出た腹肉で器を弾き飛ばすまで続いたという、恐ろしいお話です……。


今月から毎週水曜日19:00に改稿版を公開していきます(*´−`)


新作は水曜日以外の20:00に投稿します(*´−`)

たまにチェックしてください♡

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