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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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1/6 ☆フェルト一式、発見される

「わあ、なにこれ!!」

「なにこれ。」


 二階の仕事部屋で呆然としていたら、娘と息子がやってきて、おかしな声をあげた。


「フェルトだよ。なんかめっぽうたくさん出てきてしまった…。」


 かれこれ15年ほど前にですね、フェルト工作にドはまりしていた時代がありましてですね。その時の遺産とでも言いましょうか、うん、安いフェルトを買い込んだはいいけど、結局使いきれずにね、押し入れの奥底に押し込んでた奴がね。衣装ケースにみっちり入ってる奴がですね、発掘されてしまったわけなんですよ、ええ。


「あ!!これ知ってる!!ゆいにあげたやつでしょ?!」

「すごい。」


 娘が手にしたのは、かわいいお弁当箱。お弁当箱の中には、おにぎりと目玉焼きとハンバーグとポテトフライ、ウサギ耳リンゴにブロッコリー、たこさんウインナー…全部フェルトで作ってある。


 娘が保育園だった頃、まだ仕事の依頼も少なくて……微妙にあいた時間があったため、内職的にマスコットを製作し、フリマやネットオークション、バザーなどなどで販売していたのだなあ。一応展示見本用のやつが…ちょこっとだけ、残っていたのか。


 元々子供のころから手芸全般が好きだった私はですね、フェルト工作にはちょっと自信があったのですよ。


 当時食べ物のフェルト細工がやけに人気だったため、昔取った杵柄とかいう奴で作りに作ってノリに乗って月産50セットを超えたこともあったのだ。几帳面なタイプではないので精巧なマスコットは作れなかったものの、大胆なカッティングと作業スピードの賜物でそこそこの収入源となっていたのである。


 娘が小学校に入ったあたりから別の仕事を始めたため、急激な方向転換をすることになり、フェルト工作をする暇がなくなり、処分する時間も無くなったので押し入れの中に押し込んで…今の今まで忘れていた次第。

 いやね、手前にさあ、カラーボックス入れちゃったもんだから、見えない位置にあるとね、忘れちゃうじゃん、仕方ないじゃん。カラーボックス壊れなかったら、永久に忘れてたやつじゃん。


「作りたい。」


 手芸に興味のある息子はフェルト工作に好奇心が抑えられないらしい。先日家庭科の授業でエプロンを縫い上げた彼は、ただいま絶賛手芸期真っただ中なのである!こういうのはね、やりたいと思ってる時にどんどんやるべきなのですよ、躊躇してる間にヤル気が揮発するとかさあ、もったいないっていうか。


「ああ…型紙もあるし、この山は君に進呈しよう!!はい、すぐやれ今やれ、とっとと持ってけ、どうぞ、どうぞどうぞ。」


 数々の型紙の入ったファイル、フェルトロールが20枚くらいに、刺しゅう糸がたくさん、リボンにレースに鈴…あと中綿に空のお弁当箱が8個くらいに、パフェカップが一つ、あとなんだこれは…鉄板、そうだ、ハンバーグとかステーキ用のやつか。バランやフォークなんかもあるな、ピックもあるし…ここらへんのは、普通に家用で使ってもいいか、・・・いやいや15年も前のピックを使ってピンチョスとかやばそうだ、普通に息子に使ってもらお。


 みっちり詰まった衣装ケースを息子に差し出すと…めっちゃ真剣に型紙選んでいる、さすがだ。


「ありがとう!」

「ねーねー、ケーキ作ってよ、昔誕生日ケーキ作ったじゃん、誕生日会に来てくれたお友達6人で分けたじゃん!」


 じつにヤル気に満ちた息子と、それに便乗する娘の怠惰が光る。


「あたしゃ作るヒマなんかないよ!!!あんた自分で作ろうとは思わんのかね!!!」

「あたしの腕知ってるじゃん!!!エプロン端の始末無しで仕上げた黒歴史知ってるくせに!!!全部ボンドでくっつけて提出してめっちゃ怒られたの知ってるくせに!!!」


 そう、娘はという人物は…壊したミシンは二台に及び、命を奪った裁ちばさみは三本を越え、チャコは一瞬で粉になり果て、指ぬきはぺちゃんこにつぶれ、縫い終わりをセロハンテープで止めて提出して伝説を残した、そんじょそこらの不器用な一般市民様顔負けのトンデモ破壊神だったりするのである。


「君は努力を知るべきです、願うのであれば自ら学びなさい、よろしいか。」

「やだからやめるわ!」

「がんばってみる!」


 ・・・そんなやり取りがあったのが、年末だったわけですけれども。


 おにぎり作りから始めた息子は、只今ケーキのクリームに少々苦戦しているらしい。イチゴは上手に作れるようになったんだけど、まだ土台のケーキ部分を作るところまで行っていない。


「間に合わない…。」


 何やら仲の良いお友達の誕生日プレゼントにケーキをこしらえて渡そうとしている模様。しかしどう見ても明日の誕生日プレゼントには間に合いそうにないぞ…。


「助けて…。」

「よしまかせろ!!」


 普段なかなか人に頼みごとをしない息子のヘルプに、親としましてはね、全力で協力をしたいと思いましてね。


 白いフェルトと、白いリボン、白い刺しゅう糸に赤いレースを取り出し、型紙通りにカットしてと。ふんふん、意外と手順覚えてるもんだな、この調子ならサクッと仕上げてかわいくラッピング…。


「っ!!!は、針の穴が…!!見えん!!」


 刺しゅう糸を貼りに通そうとした時、己の加齢に気が付いた。最近ボタン付けることもなかったから全然気が付かなかった…ちょ、何これ、マジですか、うそーん…。


「通す。」


 針を通してもらって、いざ縫おうとしたら、白いフェルトに白い糸、ひイイイイ!!全然見えん!!!ヤバイ、コンタクトだと全然縫えないな、かといって眼鏡にするとピントが合わない、裸眼だと布と針が近すぎて危なくてならん!!!仕方がないので、針目をきっちり見ないで適当に縫っていく…。まあ、多少がたついてても、息子が縫ったものと思えば多分大丈夫だろ…。


 しょぼつく目を擦りながら円形のケーキを縫い終わると、息子のクリームパーツもちょうど12個揃った。完成済みのイチゴをのせて、美味しそうなケーキが完成だ。


「できた!」


 大喜びでできたてのケーキをラッピングする息子の姿。…まあ、子供が作ったレベルとしてなら、かなりの上出来だね。遠目で見る分には、ずいぶん立派に見えるから大成功だ!


 珍しくはしゃいだ様子で完成作品を眺める息子とは打って変わって、私のテンションはずいぶん、低い。…正直言って、自分の劣化っぷりに非常にね、落ち込んでたりする。


 視界のよろしくない状態で大急ぎで作ったとはいえ、ずいぶんずさんな縫い目に微妙な歪み、握りしめたからか毛羽立つ表面…。あんなにたくさん作っていた日々が嘘のように、恐ろしくできの悪いフェルト工作。


 …この出来では、販売することなど到底出来まい。


 ああ、私の特技は過去の栄光になってしまったのだ。もう15年前のクォリティを再現できる気がしない。


 というか。


 もう、二度と、縫物が…したく、ない…。


 目が、目が、目が―――――――――!!!!


「次はステーキ作る。」


 ラッピングを終え、意気揚々とフェルトをカットし始めた息子。きっと君のやる気とがんばりはいずれ身になるはずだ、頑張りたまえ。


 私は疲れ果てた目に目薬を落とし、ソファに凭れて瞼を閉じた。


 …そのまま寝てしまって、晩御飯がデリバリーピザになったけど。たまにはこういう日があってもいいよねえ。ピザ代、およそフェルトセット七個分なり。もう作れないことを考えると、ずいぶん散財してしまった…。


 イヤイヤ、メガネを新しくすればまた昔のような仕上がりができるようになるはず、うん、おそらくきっと大丈夫。


 私は明日、縫い物用のメガネを作りに行くことを決めたのであった。

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