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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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12/29 ☆うまいのなんの

「こんにちはー!遅くなりましたー!」

「遅くなりました。」


土曜の昼、私と息子は揃ってとあるお宅に出向いた。

昔ながらの長屋風の土間のある玄関に入って、上がり框かまちから中をのぞくと……。


「間に合ったよ!まだ茹でてない!」

「今日は鴨があるよ!!」

「あら僕ちゃん、こんにちは!」

「この前はご主人にお世話になりまして!!」


見知った顔が、にこやかに声を飛ばしてくる。

知らない人もいるけど、多分向こうは私の事を知っているはずだ。

旦那の恩恵ってのがですね、素晴らしく凄まじくてですね。知らぬところで『あの人の奥さんなんだ!』という噂が飛び交っておりましてですね。


「はいはい、一人700円ね、はい二人分…。」

「よろしくお願いしまーす!」


「いただきます。」


私と息子は参加費を手渡し…にぎやかな場所へと吸い込まれて行く!!


本日は、加藤さん宅で蕎麦打ちの会が開かれているのだ!!!

加藤さんは町内会で大変お世話になっているおじさんで、蕎麦好きが高じて蕎麦打ちを始めたという本格派の人。月に二度ほど、手打ちの蕎麦を振舞う会を開催しているのである!


「おうい!お湯沸いたけど!」

「蕎麦茹でていくよー!」

「はーい!」


今回の蕎麦打ちの会参加者は十二人。


蕎麦を打つのは加藤さん。

蕎麦を茹でるのは、昔老舗の旅館で料理長を務めていた岩下さん。


この岩下さん、毎回蕎麦に合わせる美味いもんを山ほど作ってきてくれて、たらふく食べさせてくださる神様みたいな人でですね。


「あれ、今日は父ちゃんどうしたの。」

「旦那はね、今日PTA評議会の打ち合わせで来れないの。だから私と息子で来た!」

「僕が来た!」


毎回三人前はぺろりと平らげる旦那がいないので、参加者一同…なんかほっとしているように見えるのは気のせいか。


十畳ほどの和室に長机が二つ並べられて、いい感じに8人が並んで座っているので…、私と息子もまじって着席させていただく。

机の上には、鴨のローストにだし巻き卵、きゃらぶきっぽいものにタケノコの土佐和え、あとこれは何だ、からし菜か…?


「おいしそう。」


料理人を目指す息子は、岩下さんの事を師と仰いでおりましてですね。

今日も勉強させてもらう気満々で、メモ帳持参ですがな!!

なんだめっちゃ熱心だな…さすがです!!!


「ねえねえ、新しくさあ、蕎麦屋ができたの知ってる?」

「ああ、『蕎麦の打ち込み屋』でしょ、行った行った!!」

「私も昨日行ってきたばかりよ!!」

「俺まだ行ってねえなあ…。」


蕎麦好きの皆さんが集まるこの会は、市内にオープンした蕎麦屋のレビューがですね、毎回すごいのですよ。


「あれはダメだな、そば粉が輸入だわ。」

「十割がばらっばらでさあ…」

「つゆがまずいんだわ。」

「ネギの切り方が悪くてねえ。」

「蕎麦屋のくせにさあ、かき揚げが一番うまいってどういうこと!!」


もうね、そば通の皆さんの厳しいこと厳しいこと!!!


「ええー!この前うち食べに行ったけどおいしかったよ!!」

「おいしかった。」


うちも先週行ってきたんだけど、普通においしかったけどな。

蕎麦湯もおかわりもらったし…。


「まだまだそば通とは言えんなあ!!」

「そばの味が見分けられるまで、ここに通わないとね!!」


毎回貧乏舌をですね、堂々と披露する羽目になったりしていたりするわけなんですけれども。


「あんなまずいもん食べてうまいとか、ねえ?」

「気の毒に…。」

「おいしいもんいっぱい食べさせてあげるからね?」


私からしたら美味しいと思える食べ物が少ない皆さんのほうが気の毒に思えるわけですが…、まあ、余計な事は言うまいて。


「そばがき食べる?今日父ちゃんいないから作れるよ!」

「マジで!!!食べたい!!ありがとう!!ヒャッホウ!!やったー!」


私はそばがきが大好物だったりする。

あのモッタリぼそぼそねっちょりした塊を…出汁で食べてもおいしいけどね、私はもっぱらわさび醤油でねぎを乗っけてぱくりと行くのがたまらなくてですね!!

くう、酒があれば言うことなしなんだけどな…。


「……お母ちゃん!!今日ね、いい大吟醸あんの!!父ちゃんいないからさあ…内緒で飲ませてあげる!!!」

「マジで!!!!!!!!!」


こんな神展開、なかなかないぞ!!

さっきめっちゃディスられてちょっと凹んだけど、どっか吹っ飛んでったわ!!


旨い美味い蕎麦をいただき、うまい美味すぎるそばがきを食べ、また蕎麦湯がとろんとろんでうまいのなんのって!!


昼間っからうますぎる酒を飲めるとかさあ、いやあ正に天国ってね!!!!

まあ飲み足りないけど、夜に飲み足せばいいや!


よーし、今日は昼にうますぎる酒を飲んだから、夜はやっすい酒でべろんべろんになるまで…ウヒヒ!!!


息子はと言いますと、私がたしなんでいる間、しっかりメモを取っていろいろ勉強させていただきましてね!!ホントありがたいことですとも!!!


で、さあ帰るぞというときに、息子が何やら持っているのに気が付いたー!


「え、何持ってんの!」

「ああ、シュン君に余ったつゆ持たせたんだよ、家で使ってね!」

「よかったねえ!このつゆ絶品だもんねえ!!」

「作り方聞いてたもんね!自分で作ってみて比べてみるといいよ!」

「こんな美味いつゆにはなかなか出会えないからね、良かったね!!」


かくして、極上の雫を持ち帰ったわけですけれども!


「ねえねえ、蕎麦どうだった~?おつまみ何だった?!」


夕方、旦那が腹をぐうぐう鳴らしながら帰ってきて、靴も脱がずにこの一言だよ!!!


「鴨肉にきゃらぶきにからし菜に卵にタケノコ、あとね、そばがき食べた!!うまい酒もいただいた!!ちょっとだけど!!」

「ずるい!!俺も食いたい!!!」


せっかくうまいつゆももらったことだ、そばを食べようという話になりましてですね。


「僕が作る。」


息子が早速今日取ったメモを生かして、美味しいものを作ってくれるらしいので、私は安心して138円の缶を並べてですね!開ける時をですね、待ち構えたわけですよ!


「あれ、なんかこのつゆ…、めっちゃうまくない?!」

「岩下さんご自慢のつゆだもん!うまいの当たり前じゃん!」


ゆでたての蕎麦をずそーずそーと吸い込む旦那が、つゆを絶賛しているぞ。…なんだ珍しいな。

意外にも何でもかんでもザブザブ食べる旦那は、ずいぶんめんつゆにうるさくて、ちょっと安すぎるの使うとうまいけど深みがないだの鰹がきついだのめんどくさい事…うるさいのなんのって!


「…食べてみて。」


昼間食べたばかりだけど、私もそばに手を伸ばす。

手打ちじゃない乾麺の蕎麦だけど、あたしゃ貧乏舌だし、どんな蕎麦でもおいしいと思えるので問題ないのさ!!息子はそばを茹でるのも実に上手で……。


ずず、ずるー、ずる、ずる・・・?????


あれ???


なんか…めっちゃ、めっちゃうまいぞ?!


「ちょ!!何これ、めっちゃうまい!!すげえ美味い!!」

「だからうまいって言ったじゃん!!」


私の絶賛に、旦那が反論しているが。


「違うんだって!昼間食べたのと違って…、いや、一緒だけど、なんだこれ、めっちゃうまいぞ?!え、つゆって熟成とかすんの…?」


そばを食べる手が止まらん!!

酒を飲むヒマがない!!

それぐらい…美味い!!!!!!!!


このままでは酒を飲む前に腹がいっぱいになってしまう!

こんな美味いもん、つまみにせずにおられよか!!!


という事でですね、さっそく一本、開けたわけですよ!!!

…ぐびー!!

うっひょ―!!

めっちゃ酒がうめー!!!


「ちょっと、足した!」


何やら息子が…得意げな顔をしているぞ!!!


「お母さんは甘いのが好きだから、もっとおいしくしてみた。」


なんと、息子は絶品つゆに私の好みの味を追加し、進化させてしまったらしい!!


「はあ?!マジで!!君スゴイな、さすがすぎる!!!」

「煮切ったみりん入れた。」


息子のセンスが光るつゆはですね、それはそれはもううまくてうまくて!!!

私好みの味、なるほど、確かに甘味の足されたそばつゆは最高だ!!!


ズルズル、ぐびー!


あれだな、そば通じゃないけどさあ、うまいって思えるのって幸せだなぁ…。

うまいもんがいっぱいあってよかったなあ!!

息子がすごくて、良かった~!


絶品つゆに息子のセンスが割り込んだ、このつゆ…。

そば通の皆さんは何と評するかな…?

ダメ出しすんのかな、こんなにもうまいのに!

もったいないな、…いやいやいやいや食わせて批判などさせてなるものか!

…通の皆さんの評価など、必要、ない!!!!!


うまいもんはウマいと思う人が大喜びで食べたらいい!!


ああ、旨い美味い!!

酒が進むこと進むこと!!

ああ、息子の成長に、カンパーイ!!!


うーん、ぐびぐび、ずるずる・・・!!!


私は旦那に負けじと、そばをずるずる、酒をぐびぐび…!!!

息子の作っただし巻き卵も、モグモグモグモグ…!


「うう、君いい料理人になるね!!マジいいよ!!この調子!!人の好みに合わせるその気遣い、細やかさ!!さらには丁寧な仕事ぶりにこのそば湯に小口ねぎを散らす洒落た意気込み!!素晴らしい!素晴らしすぎるぅううううううう!!!!」


「ちょっとお母さんひどいことになってるよ!!!もう飲んじゃダメ!!!」

「ひどいことになっている。」


ひどい?!

ヒドイのはどっちだ!!!!!!!

人の安酒をなぜ隠す!!!!!!!

ヒドイことをしてはならん!!!!


人と言うのは常に支え合い、認め合い、時に手を差し伸べて、そうそう望むものを手渡して、幸せは~こんなところにあふれ~♪


「ただいまー!うわ、お母さんがひどいことに!!!」


年末の人手不足で、急遽借り出された娘が帰ってきたぞ!!

なんか持ってるな、なんだあれ。

なんでもいいや、そばうめぇ!

うーんズルズル、ぐびー!

たまごうまうま!


「ひどいよ!!!ご飯食べる?そばしかないけど!!!」

「ひどすぎる。」


バイトから帰ってきた娘はね、そばが嫌いなんだよね!!

こんなに美味いもん食えねーの、気の毒気の毒―!

まずいだのうまいだの言う前に嫌いなんだもん、いやぁ残念、残念!

あたしゃそばうめぇ!

うーんズルズル、ぐびー!

あれ、たまごもうないよ、誰だ全部食ったやつ!


「なんかチキンいっぱい余ってたから買ってきた!!食べよう!!パスタ作ってよ~!おなかすいた!」

「食べる食べる!!カルボナーラいいね、食べたい!」

「わかった。」


相変わらず料理がお得意ですね!

さすがです!

うちのキッチンはね、私と息子のためにあーるー♪


あー、なんかおなかいっぱい、幸せいっぱい!うふんうふんのうひひ…。

あー、お風呂入って寝よ~ヘ(≧▽≦ヘ)♪



……。



・・・。



あたま、いてぇ・・・。



くそぅ、安酒め…。

なんちゅう悪酔いだ、もう飲まん…。


「…おはよう…。」


私が、痛む頭を抱えて、キッチンに、むかうと。


「あ!やっと起きてきた!遅いよもう!うどんないよ!つゆめっちゃうまいの、すごいうまかった!」

「ズルズル、うまうま!昨日のつゆさあ、うどんにしたらねめちゃくちゃうまいの、きつねがうまいのなんの!」

「つゆなら残ってる!!!」


「もうちょっと…小さい、声で…。」


二日酔いの朝は、とてもなにかを食べる気力がですね、なくてですね…。


「茶碗蒸しにする。」


息子の作った茶碗蒸しは、めちゃくちゃ美味しくてですね。


二日酔いでもうまいとか、すごいなと…。

二日酔いじゃなかったら、ものすごいうまさなんじゃないのかと…。


来年こそは、禁酒をしようと、ですね。


思ったって、お話、です…。

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