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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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5/5 ☆おばあちゃん

 家族で遊園地にやってきた。


 絶叫マシンよりもちびっ子向けの乗り物が多い…中規模遊園地。

 下の子が喜びそうな乗り物が多くあるので、お弁当をたんまり作って出かけてみた次第。


「わあ、ここ、かわってないなー!」


 ここは娘が小さいころに、何度も来たことがある遊園地だ。

 姉と弟は10歳年が離れているので、娘にとっては久しぶりの来園だったりする。

 最近はゴージャスな遊園地の方がいいって選り好むようになっちゃってねえ…。


「あれ、のる」


 三歳になった息子は、少々言葉が遅くて…まだ三語文が出てこない。

 非常に口数が少なく話しかけねば言葉が出ないタイプなので、意思表示をしてくれることがありがたい。伝えたい気持ちが言葉になって出るのは大変によろしいことだ。

 …来てよかったなあ、うん。


 息子が指差しているのは、水の上を移動するイルカの乗りもの。


 娘と一緒に来た時には、見かけたことがない。

 やけにピカピカしているし、おそらく最近導入されたものなのだろう。


 むむ…、四歳以下は同乗者が必要とな!

 何気に揺れるタイプの乗り物が苦手な私、誰か乗ってくれるとありがたい…。


「もう一人乗らないとダメだって!誰が一緒に乗る?」


「あたしのる!」


 娘が一緒に乗ってくれるらしい。

 頼もしい姉だ。


「じゃあ、ここから乗ってくださーい!」


 横並びで乗るのではなく、前と後ろに別れて乗るタイプらしい。娘がイルカの後ろ側に乗って、前に乗る息子を抱える形になるようだ。


「ヤバ…リュックが邪魔で入れない!」


「いいよ、じゃあ私が持ってるから…」


 娘からリュックを受け取り、乗り込み口を離れると。


「じゃあ、出発しマース!お母さんは、ボクのこと、しっかり押さえてあげてね!」


 ・・・ん?!


「ぎゃはははは!!!おかあさん、おかあさんだって!!」


 娘がめっちゃウケて、出発した。

 息子はワクワクした表情で、前方を見つめている。


「ちょっと!!私が…おばあちゃんってこと?!あたしゃ母親だよ!!どう見ても若すぎるじゃん!!あれは姉!!まだ中学生じゃん!!でかいけど!!」


「まあまあwww」


 旦那もめっちゃウケている!!


 イルカに揺られてニコニコしている息子、弟を抱えてゲラゲラ笑っている娘、へらへらしながら動画を撮っている旦那!!


 ありえん!!

 ありえんわっ!




「おかあさーん!!しっかり抱えて降りてあげてくださーい!」


 ぐるりと一週回って降り場に到着すると、スタッフが()()声をかけ!!


「はーい!」


「あんたは…姉ちゃんでしょっ?!」


 息子と手をつないで出口の階段を降りてくる娘に怒りに満ちた声をかけつつ、係員に向かって親は私なんですけど!という気持ちをぶつける。…くっそー、次の客の世話をしてて、こっちなんか見向きもしない!!


「イヤイヤ…、あの人完全間違えてるし、いまさら指摘しなくてもwww」

「まあまあ、おばあちゃんでいいじゃん!!」


「よくないわっ!!」



 息子だけが、機嫌よくニコニコ笑っていた、あの日。



 今でも思い出す、あの日の怒り心頭。



 そんな時代も……、ございましたねえ。




「おばあちゃーん」


 おやおや…、誰かが私を呼んでいるようだ。



「はーい、なーに?」


 今では、にっこにこで返事をしていたり。



 いやあ、人って、変わるもんだねえ…。


 ぷっくぷくの孫を抱えて、あの日の息子を、思い出す。



 ・・・。


 それにしてもやっぱり、あの乗り物係のスタッフは失礼だったとしか思えない。


 今なら分かるよ、どうみても白髪だしさ!

 でもあの時はまだ茶髪だったし、ジムも通ってたし!

 もっとこう…、活き活きした素敵な女性だったはずなんだってば!!


 なんとなくぷんぷんしている私を見て、息子がニコニコしながら声をかけてきた。


「また怒ってる。そんなにかっかしなさんな」

「おこってなんかないやい!!」

「も~、お母さんあんまり起こると血圧あがるよ!!」


 息子はずいぶん口達者になって、あのころの面影が微塵もない。

 ガブガブとコーラを飲んでガツガツとホットドッグを喰らっていた旦那も、今は大人しくお茶をちびちびと飲んでいる。


 人はずいぶん、変わるものなのだ……。


 ずいぶん、変わるはずなのに!


「何で、私は…十年前からおばあちゃんって呼ばれ続けてるんだ…!」


 娘はそれはもう、弟の世話を大喜びでしていた。

 どこへ行くにも、一緒に行って、サポートしてさあ。

 年の離れた弟だったから、かわいかったに違いない。


 おかげで大変に助かった!

 助かったけれども!!!


 毎回毎回、おばあちゃんと呼ばれる私がいたんですよ!!!

 お母さんサイズの若者ってのは、どれほど子供の顔をしていても…お母さんに見えてしまうという謎の減少がですね?!

 地味に、地味にダメージが、蓄積されててっ・・・!!!


「買ってきたよー!」


 デカいくせに童顔で、未だに学生と見間違われる娘が…買い物から帰ってきたぞ!!


「あ、これ、おかあさんに、わたしてきてね。」

「はーい」


 お菓子の袋を持った孫が、こちらにぽてぽてと歩いてくる。


「おかーさん、はい!」

「はいありがとねー!」


 さんざんおばあちゃん呼ばわりされた私は、孫からおかあさんと呼ばれていたり。


 娘がおかあさんって呼ぶからさあ…孫が覚えちゃったんだよね!!!

 なんとなくおかしな事になってはいるけれど、正直悪い気はしないというか。


 私と旦那と息子と娘と、娘の旦那と孫。

 今からそろって、あの因縁の遊園地に、十数年ぶりに向かうわけだけれども。


 あの係員がまだ勤めていたら…私の事、お母さんって呼ばせてやるんだからね!




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