4/25　☆メモ

「ああっ！！ない！！！」

　朝のウォーキングの途中、立ち止まってスマホを開いた私は、まわりに人がいるにもかかわらず…まあまあ大きな声を上げた。

　浮かんだアイデアは一文字だって逃したくない私。

「おっこれは！」と思いついたら、その場で立ち止まってメモを取るクセがある。

　いつもスマホのケースに忍ばせている、名刺サイズの紙。

　だいたいいつも、１０枚くらい、入れてあるんだけど。

「うわあ、何でない？…あ！！！朝方メモを厳選したときに全部パソコンの前に出したんだったー！！」

　私はあせると、思ったことが全部口から出るタイプだ。

　…ヤバイ、地味に変な人に思われてるかもしれないぞ。

　黙れ、黙るんだ、自分！！

　騒いだところで…メモできる紙は、ない！！！

「うぐぐ…この天下を取れるかもしれないアイデア、どうすんの…」

　まずい…言葉を発するたびに浮かんだアイデアが薄れていく！！！

　極上のアイデアとは、かくも儚いものなのですよ！！！

　ボールペンは、ある。

　よし…腕に書こう。

　・くつがおちてた

　・じつはおばけ

　・びっくり、わー

　とりあえず、見えにくいであろう手首付近に書く。

　…よし。

　記憶に残ってるうちに何とかメモった。

　キーポイントとなる部分を残しておけばあとで思い出せるのでね…短く的確に書いておけば何とかなるなる。

　ウォーキングを、再開する。

　今日はいい天気だな、昨日の雨がうそみたいに晴れ渡ってる。

　空、かあ…。

　………！！！

　立ち止まり、腕にメモを書く。

　・空に落書き

　・実は文字

　・かみさまかわゆす

　さっきのメモの下に、書いていく。

　よし、記憶に残ってるうちに何とかメモったぞ。

　ウォーキングを、再開する。

　あ、前から顔なじみのじいちゃんが来た。

「おはようございます！」

「おはよう！！」

　じいちゃんはいつも、この先の喫煙所でタバコふかすんだよね…。

　………！！！

　すたすた歩いていったじいちゃんを見送り…、立ち止まってボールペンを取り出す。

　・タバコ吸いすぎ

　・無自覚な嫌味

　・マナー訴えたい

　むむ…肘の近くまで書き込んじゃったぞ…。

　ちょっと見てくれが悪くなってきた。

　……ま、でもあと２５分で家に着くし。

　すれ違う人たちも、他人の腕なんか気にしないだろ。

　公園を出て、幹線道路横の歩道を歩く。

　朝早いから、車が多いなあ。

　………！！！

　信号待ちでちょうど止まったから、メモっておかねば！！！

　・車の色がパンツ

　・カレーでもいい

　・警察に捕まってラスト

　……ちょ！　

　腕の外側まで文字がきちゃったよ！！！

　は、早く帰ってメモに書き移さないと！！！

　私は、急いで走り出しましてですね。

「ひー、ひー、ひー！ずいぶん体力落ちたなあ…。」

　二年前まではジムでトレッドミル一時間やってたのにな…。

　………！！！

　今日は…なんなの？！　

　なんかめっちゃアイデアが、わいて出るんですけどおおおお？！

　……仕方がない、手の甲に書くか。

　・昔ジム行ってた

　・今はババア

　・おかあさんよび

　・おばあちゃんよび

　・幼児かわゆす

　あかん！

　これあかんやつ！！

　左手がヤバイことになってる！！

　一刻も早く、メモを書き写し手を洗わねば！

　家に…、着いた！

　よし、今すぐに自分の部屋に駆け上って秒でネタをメモに書き写し……！！！

　玄関を開けると、目の前に旦那が

「遅い！！！今日９時半からって言ってたじゃん！！」

「へ？なんかあったっけ？？」

「献血車来るから行くって言ってたでしょ！！もう九時過ぎてるんだけど！！もう行くよ！！早く車乗って！！」

　ぎょーえー！！！！

　紙を取りに行く隙を与えられず、私は車に乗せられ！！！

　まずい！！　

　非常に…まずい！！

　と、とりあえず、なんか紙！！

　車の中を見渡すとベコベコになったティッシュＢＯＸがあったので、そこにメモの内容を書き写す。

　……よし！　

　あとはこの腕のメモを消せば、ＯＫ！！　

　順番待ちしている間に旦那に並んどいてもらって、トイレで落としてこよう……。

「おはようございます！ありがとうございます～！！！」

　献血会場に行くと、なんと…私たちが一番乗り？！

　ちょ…みんな行動遅すぎじゃん、普通混みあう前に来るでしょ！！

「こちらへどうぞ～！」

　あかん…。

　もう、逃げられん…。

「じゃあ、血管見ますから、両腕出して下さいねー!」

　はっはっは…、もう、いいや……。

　とくと…見るがいい！！！

　文字だらけの左手と、まっさらな右手を出し。

「なんかすごいですね！！よし、右で採りましょう！！！」

　左手を引っ込める・・・。

「あ、献血は右で、検査採血は左です！ちょっと文字消えちゃうけど…、いい？」

「いいですよ！いいですとも！！」

　アルコール綿で消毒すると、文字が消えた。

　……もう、いっそのことこの腕全部消毒してくれよぅ！！！

「ゴメンネ、車の色がパンツ、消えちゃった。」

「覚えてるから大丈夫です。」

「おばあちゃんよび?」

「おばあちゃんって、呼ばれたんです。」

「かみさまかわゆす？」

「かわいい神様がいるんです。」

「じつはおばけ？」

「かもしれなくて。」

「マナー訴えたい?」

「マナーは必要なんです。」

　何だこれ。

　何の公開処刑ですか。

　マジ勘弁して下さい……。

　よし、検査採血終わった！

　すぐさまここをずらかろう…。

「もしかして、何か書いてるんですか？」

「ああ、お話をちょっとですね。えへ、エヘヘ…」

　ああ、人ってなんでこういう時、気持ちの悪いへらへら笑いをしてしまうのでしょうか……。

「ええ？！そうなんですか？！私、なろう好きで良く見てるんですよぉ！！！どんなの書いてるんですか？面白そう！！読んでみた～い！！あ、このことももしかして書いちゃう感じですか？！」

「ウフフ、書くかもですね、エヘヘ…」

　思わぬところで思わぬ出会いがですね？！

　盛り上がったところで検査ファイルを手渡され。

　お姉さんは検査採血専任なので…そのままお別れすることになり。

　……あのときのお姉さん！！

　見てますか？！

　私、全部、書きましたよーーー！！！