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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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4/19 ☆ハス子の入院

 …ボグゥメキョォ!!!


「わああああ!!!」


 極狭(ごくせま)の調剤薬局駐車場を出ようとした私の耳に、恐ろしいまでの破壊音が聞こえた。


 出入り口に立っている、安全確認ポール?に、愛車ハス子のハス子のッ!!!


「ぶ、ぶつ、ぶつけちゃった、ああアアあ!!!!」


 愛車の右前方ドアが!めきょって!べこって!ミシミシって!


 慌てふためきハンドルを操作するたびに、せつない声をあげるハス子、そして情けないわめき声をもらす自分!



 ……ハス子は、半年前に私のもとへとやってきた。


 年老いた親が近所に引っ越してきたので、その足となるべくして我が家に迎え入れられたのである。


 何を隠そう、免許を取って以来一度も運転をしたことがないという、見てくれゴールド免許保持者である私。ペーパードライバー講習を六回も受けつつ、ようやく乗りこなせるようになったというのに!!!


 あああ、やっぱりやらかした絶対やると思った!めちゃめちゃ丁寧に運転してきたのに、ちょっと焦ったらこのザマだ……(。>д<)


 ……そもそも、極狭の駐車場がラスボス過ぎたんだよ!!!


 三回くらい切り返さないと入れられず、ようやく入れたと思ったら、早く出ろと同乗者が急かして、切り返したらそこじゃないとか言われたのがマズかった。運転免許もないのに今切れすぐ切れとハンドル操作にいちゃもんつけてさぁ、今もなんか後ろでぎゃあぎゃあ言ってるけど、アレはただの騒音、騒音……。


 苛立つ母親をマンションに送り届けて、その足でハス子生誕の地へ向かうことにした。



「は、ははは、ハス子がエライ事に!!!」

「わあ!どうしたんですか!!」


 やらかしたダメージでへろっへろになってハス子の生まれ故郷の受付に足を踏み入れると、懐かしき世話役さんがお出迎えしてくださった。ああ、半年前と同じ爽やかな笑顔で…うぅ、まともに、顔向け……できん!!!


「わ、私のミスでぇえええ!!!ハス子のパタパタドアっ!み、右腕部分が!!右腕っ!!!う、うわあああん!!」

「ま、まずは落ち着きましょうか!」



 診断の結果、ハス子は緊急入院することになった。…全治、二週間。う、うおおおお!!!


「……もう、どうやって生きていっていいか……わかりません……」

「大丈夫ですって!!ハス子さんは生きて戻ってきます!!!」


 世話役さんの声が……遠い。


 完全ペーパードライバーだった私は、手厚い保険に入っていた。そのおかげで、入院中はレンタカーがお手伝いに来てくれることとなったのだが。


 ハス子無しで、二週間を乗り切れ、だとぅ……?


「生きていける気がしません……、ハス子を今すぐ生き返らせてください……」

「大けがなので無理です」


 整備士さんの無情な申告が私に突き刺さる。

 ……私は、本当に、なんということをしでかしてしまったのか。



 かくして、入院したハス子の代わりに、ワゴンある子がやってきた。


「こちらレンタカーになります、使い方はハス子さんと一緒ですよ」

「ほ、ホントですかね、私ハス子しか乗れないんですけど!!!」


 恐る恐る乗り込み、エンジンかけて…うわあ!!!


「やだ!!この子全方向(神さま)モニターが付いてない!!!」

「バックモニターはついてますから!!!」


 ……ハス子は優秀だった。

 どこでどうハンドルを切れば、きっちり駐車スペースに入れることができるのか、きっちりお知らせしてくれる優等生だったのだ。


 それに比べて、ピンチヒッターの無力たるや……。全方向モニタも、運転サポートも、ドラレコも内装もかわいい外装もちょこんと乗せたキャリーベースもぬいぐるみも愉快なボカロサウンドも何も何も何も……ない!!ナイナイ尽くしのすっからかんカーに、ただただ落胆することしかできない。


 運転手の私が情けなさすぎるのを、フルパワーでサポートしていたハス子…!!う、うわああああん!!ハス子ぉおおおおお!!!


「……ハス子がいないと、私はもう生きていけないことがわかりました」

「無事生きてお迎えに来てくださいよ?!」


 整備士さんの励ましを受け、初乗車の恐怖心と緊張感で疲労困憊になりながらマンションに向かった私は……、ワゴンある子を駐車場に入れるのに、三回も入れ直しをする羽目になってしまった。


 ……そもそも、マンション下の駐車場が軽専用でさ!!めっちゃ狭いんだってば!!!端っこでさあ、左側のドアからしか降りられないし!


 もう呪われてるとしか思えない……。

 一生懸命がんばってるのに、この仕打ちよ……(。>д<)


 なるべくワゴンある子に乗車しないで済むよう願う私だったが、年老いた母親の追撃がそれを許さない。慣れないワゴンある子をぎこちなく操る私に、またしても罵詈雑言が降りかかる。……ああ、めんどくさ。



 なんやかんやあったものの、二週間後、ようやくハス子の退院の日がやってきた。


 ワゴンある子はがんばって私のへっぽこ運転に耐えてくれた。いやあ、傷物にしなくてホント良かった……。


 喜び勇んで……お迎えに行くと!!! 


 どこか誇らしげな真っ黒なボディが、私を……待ち構えている!


「う、うわああああん!!ハス子!!お帰りいいいいい!!!おおお、キレイになって、まあ!」


 思わず駆け寄り、ひさびさの再開を噛み締め!


「おまたせしました!」

「ありがとうございました!たいへんお世話になりましてえええ!」


 お世話になった皆さんに深く頭を下げ、大喜びでハス子とともに、親の住まうマンションへ向かったわけですよ!


 狭い駐車場も、ハス子だったらお手の物!!!

 きっちり駐車し、親の世話をサクッと済ませ、とっとと帰宅して、ひさびさに我が家の駐車場にインすると、ようやく一息つくことができた。


 ドアを閉め、帰ってきたばかりのハス子と改めて向き合わせていただくと……うう、なんか、感無量なんですけど。


 ……ああ、ようやく帰ってきてくれたよ!!!

 もう二度と……傷物になどしないと誓うからね!


「おかえり、ごめんね♡またよろしく♡」


 ハス子のボンネットをそっと撫でると。


「お母さん何話してんの…」


 ちょうど帰宅した娘の呆れた声が、聞こえてきたぞ……。


「ああもう!うるさい!うるさい!!なんでもないよ!」


 恥ずかしさを吹き飛ばすべく、少々乱暴にキーレスキーのボタンを押し、慌ただしく玄関に向かった私の目に飛び込んできたのは。


 いつも通りに2回点滅する、ハス子のまんまるなライトの、心地良い光だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大いに笑いつつも付喪神信者であるわたくす深く共感もいたしますた〜♪
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