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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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1/5 ★いいかげん

 年明けのドタバタがようやく落ち着いてきた本日、私は久しぶりに一人の時間を堪能していた。


 地味に個人行動が好きな私は、どうもこう…いつでもどこでも誰かがいる空間というのがね、ええと、家族と一緒にいる幸せは確かに感じてはいるんだけどね、うん、一人になりたくなる瞬間ってのがあるんだわ。


 ぼんやり一人で歩く時間ってのは、ずいぶん私には必要だったり、するのだな。

 誰とも会話をしない時間ってのは、ずいぶん私には必要だったり、するのだな。


 常に頭の中でいろんな世界がこんがらがっている私は、孤独な時間を利用して…おそらく整頓のようなことをしているのだ。

 その証拠に、ぼんやり歩いている時にいいアイデアが浮かんだり、良いフレーズがドカンと出現したり、思いがけない妙案がひらめいたり。


 マジぼっちタイムサイコー、人生のゴールデンタイムだな。

 …そんなことを考えながら、歩きなれた中規模市街地の舗装道路を歩いておりますと。


 向こう側から…、見慣れた黒い人がやってくるではありませんか。


 黒い帽子に黒いマスク、黒いコートに黒い手袋、黒いかばんに黒いボトムに黒い靴、靴下は見えないがおそらく黒を履いているはず。

 相変わらず怪しさ満点だ、しかし私はやつとは旧知の中、声をかけぬわけにもいくまい。


 私は、黒い人の進路方向に体を寄せ、少々離れた位置から大きな声で話しかけた。


「あれ、どうしたの、珍しい!あけましておめでとうって言っていいんだっけ、今年もよろしく、ねえ、そういえばさあ、みっちゃんってさあ…。」

「・・・。」


 いつもやけにフレンドリーなはずの黒い人が…黙り込んでいる。

 いつもどこ見てんだかわかんないけど顔はこっちに向けつつ、ペラペラと勢いよく話し始めるはずなのに!


 黒い人は、顔をこちらに向ける事すらせず、長いつばの帽子を目深にかぶって、ただ黙々と通り過ぎようとしている!!!


 え、何、どうした、もしかして何か問題でもあったのかな…。


 ひょっとして予期せぬ事態が何か起こってるとか?

 ひょっとして時間が動き始めたとか?

 ひょっとして道がいよいよつながったとか?


 私は思わず、黒い人の目の前に立ちふさがって、通行を止めた。


「え、何、何かあったの?開通のお知らせとか飛んできてないけど、進展あったとか?もしかしてじいちゃんの世代交代とか?」


「・・・。」


 ……事態は深刻なようだ。

 黒い人が黙り込むことなど、いまだかつて…あっただろうか、いや、ない!


 これはもはや一刻の猶予も、ない。

 私はスマホを取り出し、情報共有をするためにメールを…!!!


「・・・あの。人間違い、してますよ。」


「はへょ?!」


 よく見ると…この人、黒い帽子に黒いマスク、黒いコートに黒い手袋、黒いかばんに黒いボトムに黒い靴、靴下は見えないがおそらく黒を履いている怪しさ満点の…。


 げえ!!!

 タダの…普通の一般人だ!!!!


 よくよく見れば、長いつばの帽子の下に…髪の毛に埋もれたつぶらな瞳と肌色が少し見える!!!


「は、はわわ…す、すみません、とんだ人違いおおおおおお!!!!」


「・・・いえ。」


 とんだ被害を被った一般人様が、私にちょいと頭を下げて…歩いて行ってしまった。


 ……地味にヤバイな、私。


 ド近眼にもほどがある。

 うっかりにもほどがある。


 …ちょっと待て、私はおかしなことを口走ってはいなかったか。

 …まあ大丈夫か、おかしな婆さんが盛大にカン違いしていただけですむだろ、多分。


 私は細かいことは気にしないタイプなのだ。

 まあね、大きいことも気にしないけどね!

 というか、何があっても動じないけどね!!!


 私は自分のやらかしをポンと道端に放り投げ、散歩の続きを楽しんだ。




「そんなに似ていたんですか、そりゃあ見たかったな、何かの縁があったのかもしれないですね!」

「ないよ!!ただの一般人だってば!!!」


 私が焼き芋と肉まんとやきとりとドーナツとたこ焼きとタイ焼きを買って家に帰ると、本物の黒い人が我が家の玄関から顔を出していた。

 相変わらずの傍若無人ぶりは年が変わったところで微塵も変わる様子はない。


 やや腹立たしさはあるものの、せっかくなんでそのままお茶に誘ったのさ。狭間の様子も聞きたいし。

 てゆっか、…なんか事件が起きてたら怖いじゃん!知らないうちに変な所にメンバー入りしてたらいやじゃん!


「旦那さんね、またすごいの乗っけてましたよ、さすがです、いやまあぺろりと頂きましたがね!これまた濃厚な恨みと妬みがうまいのなんの。」

「ああ…年末年始色々まわってたからねえ。あの人はいろいろと拾いがちというかなんというか。新年早々ありがとね、これ好きなだけ食べていいよ!あ、もってく?」


 黒い人は私を訪ねてきたものの不在で、出直そうかなと考えていたところにちょうど正月休み最終日の旦那と子供たちが車に乗り込むのが見えたので…入れ替わりで留守番をしてくれていたらしい。


 多少おせっかいの嫌いがあるけどさ、ありがたいことだよ、ホント。

 泥棒とか来たら完全撃退間違いなしだもん。むしろ泥棒の命が危うい。


「私はおなかいっぱいなんで、お土産に頂いていきます。あちらで配ってきますよ、ええ。」

「頼むね!まあ、また私も行くけどさ、いつになるかわかんないし、皆さんによろしく。」


 そうだなあ、狭間にも新年のお土産持って行きたいな、いつ行こうかな。

 もうそろそろ顔を出してもいいころだ、何を作って持って行こうかな~♪


 私の作ったものをおいしいおいしいと言って喜んで食べてくれる人たちってのはさ、本当にありがたいんだよね。狭間の人たちはみんなすごく喜んでくれるから大好きなのさ。


 …こっちの人たちの中には、ずいぶんこう、うるさい人もいるからさ。


 やれこの粉はどこ産だ、やれこのバターはまさかおかしなブランドの使ってないだろうな、やれ食べれないことはないな、やれまずいけどもらっといてやるわ、やれ私の作る方がおいしいわね、やれ今は何にでもマヨネーズかける時代だよ→にゅるにゅる、やれ今の流行り知ってる?生ニンニクなんだよ→にゅるにゅる、やれシチューにはしょうゆを入れるとおいしいんだよ→ドバドバ・・・。


 あああ!!!

 なんかおなかいっぱいになってきたぞ!!!



 ブーン、ブルブル、ががっ!!

 ど、ドガかっ!!


 …ずべきょっ!!


「あれ、ご家族がお帰りのようですよ。…なんかぶつけた音しませんでした?」

「したよ!!!くっそー、相変わらずの乱暴な運転、・・・許さん!!!」


 私は怒り心頭で立ち上がり!!!



「じゃあ私はそろそろお暇しますね、ではごきげんよう。」


「はいよ!!!」


 ふわりと消えた黒い人の姿の向こう側にあるドアを開け!!!



「ちょっと!!今の音何!!どこぶつけたんだ!!!!」


 仁王立ちで家族を出迎える、私!!!


「大丈夫大丈夫!ちょっとプランター踏んだだけ!!!」

「全然大丈夫じゃない。」


 助手席から顔を出す、やけに朗らかな娘の声!!!

 やや几帳面な息子は、車から降りて被害状況を確認している!!!

 私も一緒になって状況確認を…。


 うぐぐ、踏みつぶされたプランターぇ…!!

 まあ土しか入ってないプランターだから良いと言えばいいけどさあ…。


「ごめん!ふんじゃった!!ねえねえ、それよりもさあ!!見て!!お土産買ってきたー!!!」


 やけにつやつやした顔色の旦那が…朗らかに車から降りてきたぞ!!!

 その手には…大きなレジ袋が三つ!!!


「超でっかい肉まん売ってたんだって!!!めっちゃ買ってきた!!!」

「叉焼買った。」


 車から降りた娘が差し出した、紙袋をのぞき込むと…!

 ふわりと美味そうなにおいが私の鼻を直撃し!!!


 …これは相当…美味そうだ!!!


 いっぱいだったはずの私のおなかが、ぐうと鳴る。


「うわ!うまそう、これはウマい!!食おう食おう~♪」


「「食べよう食べよう!」」

「たべる。」


 まあ、いっか、怒りはとりあえず置いといてやるわ!

 腹が立っていては、美味しくものは食べられないってね!


 私はまだまだほかほかの、肉まんに…手を伸ばしたのだった。


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