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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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8/1 ☆蝉

 毎日、早朝のウォーキングに出かける私。


 今日も、新鮮な空気が…実に気持ちいい。

 緑の木々を眺めつつ、歩きなれた道を行く。


 ふと、足元の、でこぼこした木の表面が動いたような気がした。

 近づいて、目を、凝らすと……。


 のそのそと、幹を登る、セミになる前の、幼虫。

 幼虫?違うな、なんていうんだろう、さなぎ、うーん、羽化前の、かっこいいやつだ!


 そうだ…、これ、息子が喜ぶかもしれない。


 持って帰ってやるかな。

 幹を登る虫を捕らえ、家に帰った。


 持ち帰った虫は息子の好奇心をくすぐったものの…、意外といかつい見てくれに戸惑っているようだ。


「ちょっと、こわい。」


 子供のころ虫が大好きだった私は、息子の感想がちょっとだけ、残念ではある。

 動いてるセミの抜け殻(言い得て妙)なんてまず出会えなかったし、レア度がハンパないというかさあ。


 ……ま、無理やり押し付けるのもよろしくないか。


 そう思って、まだ羽化しない虫をカーテンにつけたまま、仕事に向かった。




 三時、息子を保育園に迎えに行き、家に帰ると、虫はセミになっていた。

 しまった、羽化の瞬間見せたかったのに!!


「せみになってる」


 おとなしくカーテンの上の方にとまっているセミは、なんだかとってもかっこいい。


「このまま飼っちゃおうか!お父さん帰ったら自慢しよう!!」

「うん」


 私と息子はセミを部屋に残したまま、夕食の買い物に出かけた。




 買い物から帰ると、娘が帰宅していた。


「ちょっと!部屋の中に蝉いるんだけど?!」

「ああ、かっこいいでしょ!今朝捕ったやつ、羽化したの!!」


「あれ、かうの。」

「はあ?!」


 何やら娘はお怒りのご様子。


「いいじゃん、あれメスみたいだし、おとなしいからさ。しばらく同居、よろしくね。」

「…いいけどさあ…。」


 娘は自分の部屋に行ってしまった。


 私と息子は、リビングの電気を消して、台所へ。

 今日は一緒にカレーを作って、ナンを焼くのですよ!!


「ただいま~!!」


 夕食の準備をしていると、旦那が帰ってきた。

 カレーのにおいと、香ばしく焼けるナンの香りにつられて、キッチンへと顔を出す。


「いいねえ!カレー?!うわー、めっちゃ腹減ってきた!!!」

「もうじきできるよ。リビングで待ってなよ。」

「うつわもっていく」


 旦那は冷蔵庫からコーラを取り出して、リビングへと消えた。

 息子はカレー皿をかかえて、そのあとを追う。


 カレーの煮込みが終わり、最後のナンを焼いていると、突如リビングが騒がしくなった。


 何事かと思い、カレーなべを抱えて向かうと……。



 じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ!!!



 蝉!!

 蝉が……すんごい、鳴いてる!!


 なぜ!!

 今の今まで、さっきのさっきまでミンとも鳴かなかったのに!!!



 じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ!!!



 地味に…いや、派手に!!!

 ものすごい騒音なんですけど?!


 リビングでは、娘と旦那が蝉と格闘していた。


「ちょ!!ナニこいつ!!めっちゃうるさいじゃん!!」

「とってとって!!手が、届かない!!!」

「うるさい・・・。」


 事の次第を見守る息子までげっそりしてる。


 通常、外で聞く蝉の音はうるさいとは思うけど、我慢できないことはない。

 ……だというのに!!


 家の中で鳴く蝉が…これほどうるさいとは!!!


 蝉の七年間の怨念を真正面からぶつけられたような感じだ。


 ホントすみませんでした、もう捕獲したりしません…だから家から出てってください!!!


 散々騒いで、ようやく蝉を外界へと解き放った私の鼻に、がつんと不穏なにおいが……。


「!!!!ナンが!!!」


 フライパンのナンは、真っ黒こげになっていた。

 フライパンも、酷い有様に…!!!


「まさに蝉の、呪いだ…。蝉、セミが来るよー!!狭い部屋に閉じ込められた蝉の怨念が!!!」


「「お母さんがうっかりしてただけじゃん!」」


 蝉のせいにして自分のミスをうやむやにしようとしたけど、ダメだった。


 フライパンを磨きつつ、焦げたナンをゴミ箱に入れ……、私は、散々うちの中を引っ掻き回した蝉の前途を案じた。


 勝手に持ち込んどいてナンだけど…達者で暮らせよ、的な……。

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