8/1 ☆蝉
毎日、早朝のウォーキングに出かける私。
今日も、新鮮な空気が…実に気持ちいい。
緑の木々を眺めつつ、歩きなれた道を行く。
ふと、足元の、でこぼこした木の表面が動いたような気がした。
近づいて、目を、凝らすと……。
のそのそと、幹を登る、セミになる前の、幼虫。
幼虫?違うな、なんていうんだろう、さなぎ、うーん、羽化前の、かっこいいやつだ!
そうだ…、これ、息子が喜ぶかもしれない。
持って帰ってやるかな。
幹を登る虫を捕らえ、家に帰った。
持ち帰った虫は息子の好奇心をくすぐったものの…、意外といかつい見てくれに戸惑っているようだ。
「ちょっと、こわい。」
子供のころ虫が大好きだった私は、息子の感想がちょっとだけ、残念ではある。
動いてるセミの抜け殻(言い得て妙)なんてまず出会えなかったし、レア度がハンパないというかさあ。
……ま、無理やり押し付けるのもよろしくないか。
そう思って、まだ羽化しない虫をカーテンにつけたまま、仕事に向かった。
三時、息子を保育園に迎えに行き、家に帰ると、虫はセミになっていた。
しまった、羽化の瞬間見せたかったのに!!
「せみになってる」
おとなしくカーテンの上の方にとまっているセミは、なんだかとってもかっこいい。
「このまま飼っちゃおうか!お父さん帰ったら自慢しよう!!」
「うん」
私と息子はセミを部屋に残したまま、夕食の買い物に出かけた。
買い物から帰ると、娘が帰宅していた。
「ちょっと!部屋の中に蝉いるんだけど?!」
「ああ、かっこいいでしょ!今朝捕ったやつ、羽化したの!!」
「あれ、かうの。」
「はあ?!」
何やら娘はお怒りのご様子。
「いいじゃん、あれメスみたいだし、おとなしいからさ。しばらく同居、よろしくね。」
「…いいけどさあ…。」
娘は自分の部屋に行ってしまった。
私と息子は、リビングの電気を消して、台所へ。
今日は一緒にカレーを作って、ナンを焼くのですよ!!
「ただいま~!!」
夕食の準備をしていると、旦那が帰ってきた。
カレーのにおいと、香ばしく焼けるナンの香りにつられて、キッチンへと顔を出す。
「いいねえ!カレー?!うわー、めっちゃ腹減ってきた!!!」
「もうじきできるよ。リビングで待ってなよ。」
「うつわもっていく」
旦那は冷蔵庫からコーラを取り出して、リビングへと消えた。
息子はカレー皿をかかえて、そのあとを追う。
カレーの煮込みが終わり、最後のナンを焼いていると、突如リビングが騒がしくなった。
何事かと思い、カレーなべを抱えて向かうと……。
じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ!!!
蝉!!
蝉が……すんごい、鳴いてる!!
なぜ!!
今の今まで、さっきのさっきまでミンとも鳴かなかったのに!!!
じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ!!!
地味に…いや、派手に!!!
ものすごい騒音なんですけど?!
リビングでは、娘と旦那が蝉と格闘していた。
「ちょ!!ナニこいつ!!めっちゃうるさいじゃん!!」
「とってとって!!手が、届かない!!!」
「うるさい・・・。」
事の次第を見守る息子までげっそりしてる。
通常、外で聞く蝉の音はうるさいとは思うけど、我慢できないことはない。
……だというのに!!
家の中で鳴く蝉が…これほどうるさいとは!!!
蝉の七年間の怨念を真正面からぶつけられたような感じだ。
ホントすみませんでした、もう捕獲したりしません…だから家から出てってください!!!
散々騒いで、ようやく蝉を外界へと解き放った私の鼻に、がつんと不穏なにおいが……。
「!!!!ナンが!!!」
フライパンのナンは、真っ黒こげになっていた。
フライパンも、酷い有様に…!!!
「まさに蝉の、呪いだ…。蝉、セミが来るよー!!狭い部屋に閉じ込められた蝉の怨念が!!!」
「「お母さんがうっかりしてただけじゃん!」」
蝉のせいにして自分のミスをうやむやにしようとしたけど、ダメだった。
フライパンを磨きつつ、焦げたナンをゴミ箱に入れ……、私は、散々うちの中を引っ掻き回した蝉の前途を案じた。
勝手に持ち込んどいてナンだけど…達者で暮らせよ、的な……。




