ギリエニア共和国の崩壊まで十二
ナタリアは王城の中へ入ると、早足で父である国王がいる部屋に向かい始めた。
少し前の王城の中は多くの使用人と国王たちを守る守護兵たちが賑わっていたのだが、今はそのほとんどが王城から姿を消しており、廃墟のようにとても静かである。
これは隊長以外の親衛隊の兵士たちは黒と白の髪が混じる男性の手によって命を落としているためであり、国王の護衛として残されたごく僅かの兵士しか王城には残っていない。
静まり返った王城の中をナタリアが早足で移動していると、
「これはこれはナタリア王女殿下ではないですか。無事に帰って来られたようですね」
いかにも胡散臭い喋り方の男がナタリアに話しかけたのだった。
「貴方はカルエゴ卿ですか。他の方々の姿は見えないのですが、彼らはどこで何をしているのでしょうか?」
話しかけられたナタリアは胡散臭い男ことカルエゴに他の生き残った権力者たちはどこで何をしているのかと質問した。
このカルエゴという人物はギリエニア共和国の上院議員の一人であり、上院議員の中でも大きな権力を持っている。
そして、このカルエゴは国民からの人気も高いため、次期大統領の座につくのではないかと噂されていた人物だ。
まあ、ギリエニア共和国でそれだけの力を持っていようが、今はそのギリエニア共和国自体が滅亡寸前であるため、あまり意味はないのだが。
そんなカルエゴに話しかけられたナタリアは今は急いでいるのに本当にタイミングの悪い時に話しかけて来たなと思いながら他のメンバーはどこで何をしているのかといやみったりしく質問した。
ナタリアは相当怒っているようだ。
ナタリアが嫌味ったらしく質問してみると、
「いや〜私にも分からないですね。貴女が会合に向かった後、そそくさと王城から出ていってしまったので。まあ、ろくでもないことをしでかそうとしているのは大体予想できますけど」
カルエゴも他の権力者たちがどこへ行ったのかは知らないらしく、ナタリアが黒と白の髪が混じる男との会合に向かった後に王城から出て行ってしまったようだ。
そんな王城から出て行ってしまった他のメンバーたちにカルエゴはろくでもないことをしでかそうとしていることは大体予想できると彼らのことを少し馬鹿にした。
カルエゴから何かよからぬことをしている可能性が高いと伝えられたナタリアは彼らは本当にろくなことをしないと心の底から呆れると同時に怒りの感情が湧いてきた。
だが、ナタリアは彼らを咎められるだけの力もなければ、時間の猶予もないので、彼らについて考えるのは後に回さざるおえなかった。
そうして、カルエゴに話しかけられたナタリアは、
「そちらの事情は分かりました。私は父と会わなければならないので、この辺りで失礼させていただきます。それでは」
自分は父である国王に会わなければならないので、自分は先に行かせてもらうといい、カルエゴの元から去ろうとした。
そんな時、
「それじゃあ、最後に一つだけ忠告しておくよ。もっと周りを警戒した方がいいよ。いつどこで自分のことを監視されるのか分からないからね。君は賢いのだからこれの意味が分かるだろう?」
カルエゴは自分の元から去ろうとしているナタリアに最後の忠告をしたのだった。
忠告の内容としては周りをもっと警戒しろというものであったのだが、最後に含みのあることを付け加えていた。
カルエゴから忠告を受けたナタリアは、すぐに最後の含みのある言葉の真意に気づき、自然と周りへ視線を向けていた。
その姿を見たカルエゴは不敵な笑みを浮かべた後、ナタリアの元から去ったのだった。
ちなみに、カルエゴからの忠告の真意はナタリアのことを何者かが尾行しているというものであり、何者かがナタリアのことを狙っているようだ。
何者かが尾行していると言っても誰が糸を引いているのかは大体予想できるのだが。
カルエゴから忠告を受け、自分が何者かに追われていることが分かったナタリアは周りに気づかれないよう自然な様子で周りへ視線を向けて警戒しながら父が待つ部屋へ向かった。
ナタリアが父が待つ部屋へ向かっていると、とある違和感に気付いた。
それは会合に向かう前はこの辺りには王である父を守るための兵士がいたのに、今では彼らの姿が見えなくなっているからだ。
そのことを不審に思いながらもナタリアは歩き続けると、父が待っている部屋へ辿り着いた。
彼女の父親である国王は現在、病気が悪化しているため、基本的に王城にある病室にいる。
そして、この病室の前には現在、王都にいる兵士たちの中でも精鋭部隊のエースが配属されている。
これは王都以外の全ての街が滅んだ後も続いており、現在も今残っているうちの中で最も優秀な兵士に守られている。
だが、ナタリアが父である国王が待つ病室にたどり着いたのだが、この部屋の前には誰も立っていなかった。
このことに怪訝な表情を浮かべたナタリアは一体、王城の中で何が起こっているのかと訝しんだ。
だが、王城を取り巻く状況よりも今は黒と白の毛が混じる男性への対処のほうが優先であるため、深く考えずに病室の中へ入った。
その先が罠だと知らずに。




