五話
「クラウダ様!」
と、侍女の一人が部屋に飛び込んできた。
「デミウルゴスに四方を囲まれています! すぐにご指示を!」
クラウダはため息を吐き、そのあとで他の侍女やフレイヤに指示を飛ばした。当然、俺にもその指示は飛んできた。
俺とフレイアは指示通りに部屋を飛び出して階下へ向かった。
「ねえイツキ」
階段を下っている最中、フレイアがおずおずと声をかけてきた。
「今はいい」
俺はそう言うしかなかった。
話したいことは山程ある。言いたいこと、訊きたいこと、フレイアの本心、今までの真実。それでも、今だけはデミウルゴスに対処することだけ考える必要があった。
「今はって……」
「お前ら魔女派はデミウルゴスを退けたいんだろ? だったら今はそのことだけ考える方がいいんじゃないか?」
「そう、だね」
クラウダの話の後から、フレイアの元気がないような気がする。俺に対する罪悪感は間違いなくあるんだろうが、どうもそれだけじゃないような気もするのだ。直接訊くのもためらわれるし、そもそも俺とフレイアの間には間違いなく溝ができた。
一階では兵士がせわしなく走り回っていた。鎧を着込む者だけではない。衛生兵やメイドの姿も多く見られた。
「こっち」
フレイアに案内されるまま、人が少ない方へと駆けていく。
そうして外に出た。
遠くからの砲撃、ドラゴンやキメラに乗ったヤツもいた。モンスターがダンジョンの外に出てきている。クラウダの話が現実味を帯びている気がした。
「やあやあ、こんなところで奇遇だね」
聞き覚えがある声が聞こえてきた。少し高めで、よく通る声だった。
声がする方に顔を向けると、いけ好かない軽薄な笑顔のアイツが立っていた。
フレイアが動く気配がしたので左手でそれを制した。
「ルイ……!」
「悪いけど今日は逃さないよ。キミが【破滅の子】である確証がとれた。だからこそ、ボクはキミを逃がすわけにはいかないんだ」
「なんだよ【破滅の子】って……」
「この世界を死においやる人間のことだよ。この世界の住人であれば知ってる伝説、おとぎ話に出てくるんだ」
「悪いが俺はそのおとぎ話を知らないんだ。教えてくれないか?」
「そうやって時間稼ぎするつもりでしょ? そういうわけにはいかないよ。ボクはキミを生きたまま連れて帰るんだから」
ルイが腕を上げた。瞬く間に放たれた光線。俺とフレイアの間を抜けて城に直撃した。
「この前のルイとは違うみたい」
「わかってるよ。いったいどうなってんだ……!」
コロシアムで戦った時のルイとはまったく違う。レベルはそこまで変わっていないとは思うが、自力がずっと高いように感じるのだ。
「フレイア! 左だ!」
「わかった!」
俺が直進、フレイアを左にやった。本当であれば右側から双葉に攻めてもらいたかったが階段を下りている間にはぐれたらしい。心配ではあるがこんな状況だ、デミウルゴスに捕まっていないことを祈るしかない。
ルイは間違いなく強くなった。しかし、俺だって成長してるんだ。
進行速度を一気に上げて接近。下から抉るようにショートアッパーをかました。
「単調」
体を捻ることで避けられた。
「黙れ」
遠心力を利用し、避けた勢いでミドルキックが飛んできた。
それをバックステップで避けるが、気がついたときには俺の腹にルイの拳がめり込んでいた。
奥歯を噛んで痛みを殺す。最初からミドルキックは囮だった。蹴りの範囲を狭くして、そのまま踏み切るために使ったのだ。
「だからどうしたよ」
防御することだってできた。それをしなかったのは、俺には仲間がいるからだ。
ルイの腕を両手で掴む。刹那、左側から電撃を纏った強烈な蹴りがルイをふっ飛ばした。瞬く間にルイの姿が目の前から消え、右の方、遠くの建物にぶつかった。目測、およそ三十メートル程度。土煙が高く上がって、相当な衝撃であったことはここからでも十分わかる。
「さすがだな」
「全然ダメ。当たった瞬間に勢いを殺された。手応えが柔らかすぎる」
「後ろに攻撃とは逆方向に飛んだか」
「たぶん、ね」
土煙が風に攫われた。そして、ルイが立っていた。
遠くの方でルイが頭を掻いていた。
嫌な予感がした。
ルイが高く手を上げ、微笑んだ。
次の瞬間、俺の背中に衝撃が走った。脳みそが揺さぶられ、意識が飛んだ。
気がついたときにはうつ伏せに寝ていて、首を捻って森の方を見ていた。体中は痛かったが、それでも命に別状はなさそうだった。




