一話
目を覚ます。起き上がり、自分の体がちゃんと動くことを確認した。
前回は訓練に参加させられて、疲れた体で魔女に会いにいって、ルイに遭遇して、城から落ちながらフレイアに殺された。いや、殺してもらったが正解か。
最近は特にフレイアに殺してもらうことが多くなった気がする。それもこれも状況があまりよくない場面が多かったからだ。
それと同時に、フレイアには知られたくないことがあったからだ。
すぐに着替えて部屋を飛び出した。すると双葉とフレイアも俺の部屋の前にいた。
「クラウダに会いに行く」
「だろうなと思って待ってた」
「悪いな、さあ行こう」
二人を連れて階段を駆け上がった。
ドアの前にいた侍女はなにも言わずに俺たちを通してくれた。
「来たか」
クラウダはイスに座ってお茶を飲んでいた。
「今からここは戦場になる。もうすでにデミウルゴスが近くまで来てるんだ」
「未来視のスキル、か」
「とにかく兵士全員に戦闘態勢を取らせてくれ。早くしないと間に合わなくなる」
「わかった手配しよう」
クラウダは迷うことなく、近くの侍女たちに伝令を頼んでいた。侍女たちは一斉にクラウダの部屋から出ていく。城の中が騒がしくなり始め、たくさんの足音が城内外から聞こえてきた。
しかし、俺はその場から離れる気などなかった。
「どうした? お前もここで暮らすのであれば、他の兵士たちと同じく前線に向かうべきではないか?」
「いいや、俺はここに残らせてもらう」
「いくらなんでも特別扱いはできない」
「わかってるはずだ。俺がここに残る理由も、アンタに向けている感情の意味も、どうして俺がここにいるのか、その意味も」
クラウダはお茶を一口飲み、対面のイスを俺にすすめてきた。
ツバを飲み込んでからクラウダの向かい側に座った。お茶を飲むためだけにあるのか、テーブルは小さく俺とクラウダとの距離も非常に近い。
こうして近くでじっくり見ると、クラウダとはどこかで会ったような気がしてくる。最近のことではない。もっと前に、どこかで会ったような気がするのだ。
「それで、私になんの話がある?」
「言ったはずだ。わかってるんだろう。俺の能力についてだ」
「未来視、だろう」
「俺はAスキルともPスキルとも言ってない。でもアンタは未来視だと言った。俺が質問したい物がPスキルだってわかってるからそう言った。違うか?」
クラウダは指を組んだまま背もたれに体重をかけた。
「知ってるんだろ、俺のPスキルが本当はどんなものか」
俺も、彼女も、相手から視線を外さなかった。ここで顔を背けた方が負けだ。
しばらくの間、外から聞こえる足音だけを聞いていた。
そして、クラウダがため息をついた。
「ああ、知っていた。ハローワールド、心でもなお同じ時間をループする能力」
やはり知っていたのだ。同時に、クラウダが死んでいないことからもこの能力の説明文が誰かによって書き換えられていたこともわかった。
きっとそういう能力もあるのだろう。今までいくつかのスキルを見てきたから、ライセンスの説明文を書き換える能力くらいはあっておかしくない。
つまり、この能力は誰かに知られたところで生死に影響することはないのだ。
ライセンスを取り出してハローワールドの説明文を見た。やはり、説明文に「誰かに知られた場合、知った人間が死ぬ」というような記述はなかった。
「俺のライセンスを書き換えたんだな」
「そうだ」
「なんで今は書き換わってないんだ?」
「書き換えていた人間が天寿を全うしたからだ。もう年だったからな」
「それだけじゃないだろ。俺がこの能力を持ってたって最初から知ってなきゃいけない。それにその内容を守らせるためのストッパーが必要だ。俺が感情にまかせて誰かに言う可能性も低くない」
「そうだな。そこまでわかっていて私になにを言わせるつもりだ?」
「なんで俺の能力を知っていたのか。そしてなぜ俺をここまで連れて来たのか」
「お前がここに来たのは自分で望んだからだろ?」
「いいや、そう仕向けたんだ。納得がいく説明をして欲しい。でなければ俺はここから出ていく。アンタに協力することはない」
クラウダは目を閉じ、右手の指を眉間に当てた。
数秒間なにかを考え、そして目を開ける。
「最初から、知っていた」
「なにを最初から知ってたんだ?」
「お前の能力だ」
「どうやって知った?」
「特殊な能力者が私の近くにいたからだ。誰がどんな能力を持って生まれるのかを知る能力者だ」
「それで俺の能力を知った、か」
だがそれだけでは説明がつかない。だって、俺はこの世界の住人ではないのだから。
「それで俺の能力を知ってここに連れて来たわけだ。それでなにをさせたいんだ? 世界を支配したい? 魔女としてあがめられたい? それとももっと別の思惑があるのか?」
「そんな私欲に駆られたものではない」
「じゃあ説明してみろよ。さっきも言ったぞ。そうじゃなきゃ、俺はアンタに協力しない」
「ふう」と更にため息を吐くクラウダ。言うか言うまいか迷っている感じではあるが、俺が協力しないということに関しては、おそらく、理解しているんだろう。でなければ悩むこともないはずだ。




