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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 6〉 Feelings falling
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十一話

 朝食を食べ終えた俺は、これから蒼天の暁として、魔女派の人間としての訓練を一通り受けることになった。


 百メートル走を十本、十キロのランニング、反復横跳び三十秒、懸垂、柔軟など学校の体育でやるような体力テストを受け、それから模擬戦を行った。


 模擬戦の相手は魔女派の教官らしき人物であり、口の周りにヒゲを生え散らかした大柄の男だった。


 これらのすべてを魔法なしで行ったので、まだ昼前だというのに俺の身体は休息と睡眠を欲しがっていた。


「はい、水持ってきたよ」


 寝転んでいる俺に水の瓶を渡してくれたのは双葉だった。


「ああ、ありがとう」


 起き上がって瓶を受け取るが、腕が重くて瓶を傾けるだけでも震えてしまう。


「大変だったみたいだね」

「ここまでキツイとは思わなかった。ランニング十キロとか毎日やるらしいしな、面倒なこと極まりない」

「模擬戦もボコボコだったしね」

「あんなムキムキの大男と戦わせる方が問題だろ。今までは魔法を使った戦闘しかしてこなかったんだから」

「で、結果は?」

「平均よりちょっと下」

「運動らしい運動しないから……」

「これからは日常的に運動させられるから問題ないだろ」


 慣れるまでは地獄だろうが。


「お前の方はどうなんだ? なんか言われたか?」

「私はほら、戦闘とかそういうのは苦手だから。お城のメイドとして雇ってもらえることになったよ」

「そうかそうか。じゃあこれから毎日お前のメイド姿が見られるってことだな」

「やめてよそういうの、恥ずかしいじゃん」


 なんていいながらも特に嫌そうというわけではなかった。


 これからこの世界での本当の生活が始まろうとしていた。俺は戦士、兵士として身体を鍛える。双葉はメイドとしてクラウダに仕える。生活基盤ができあがれば給料も発生する。この世界でもちゃんと暮らしていけるということになる。


「この世界で暮らす、か」

「まだ迷ってるの?」

「そりゃ、まあな。お前はどうなんだ? この世界で生きてくことに疑問はないのか?」

「あるよ、当たり前だけど。でも、お兄ちゃんと一緒ならなんとかなるかなって」

「おいおい、お前の意見はどうなんだよ」

「それが私の意見だよ。お兄ちゃんならなんとかしてくれるって信じてる。私、一生ついていくって決めてるから」

「嬉しいには嬉しいんだがプレッシャーがすごいな……」

「いいだよ、やりたいようにやれば。戻りたくなったら戻ればいいし、ここにいたければここにいればいい。だからさ、気楽にいこうよ」


 双葉はニコリと、心底嬉しそうに笑っていた。


「気楽に、ね」


 俺も双葉に向けて笑いかけた。そうしなきゃいけないような気がしたからだ。


 この状況で気楽に物事を考えられるほど俺は図太くない。現実世界のこともそう、異世界のこともそう、メリルのこともそうだ。


 何事もないように振る舞われるのか。いや、振る舞うしかないのだ。順応し、溶け込むしかないのだ。


 そうやって考えている間にも優帆の顔がちらついてしまう。あんな最期を見せられて思い出さない方がおかしいのだ。このまま俺がこの世界に残るということは、俺が最後に現実世界で見た思い出が優帆の死ということになってしまう。


「じゃあ私戻るね。頑張って」


 肩を叩かれてハッとした。気がつけば、双葉は訓練所の出口へと駆けていくところだった。


 あの背中すらも、俺は失う日が来るのだろうか。


 そんなことを考えて、やめた。考えるだけ無駄なのだ。人は必ず死ぬのだ。事故であれ事件であれ、病気であれ寿命であれ、人は必ず、死ぬ。早いか遅いかの違いしかないのだ。


 自分で自分を納得させられる言葉を探していた。たぶん、この世界に来てからずっとだ。何度も死んで、やり直して、それで今まで自分を鼓舞し続けられた。


 それが今はできなくなった。


 生きる活力を見いだせるとしたら、メリルをあんなふうにしたデミウルゴスを駆逐すること。レッドハウスとやらを叩き潰すことくらいか。


 しかしレッドハウスは見つけられないとクラウダは言った。難しくしている人物がいると。


『魔法やスキルという特殊能力がある以上、それを困難にしている人物がいるんだよ。難儀な世界だ』


 それがクラウダの言葉だった。


 俺はクラウダのその言葉がどうしても腑に落ちなかった。


 どうして?


 なにを疑問に思うことがあるんだ?


『魔法やスキルという特殊能力がある』


 俺は勢いよく立ち上がった。ようやく理解できたんだ。俺がクラウダに対してなにを疑っていたのか。メリルのことだけじゃないんだ。きっと、彼女の存在そのものを疑っていたんだ。


 立ち上がって駆け出した。アイツに訊かなきゃいけない。これだけはハッキリさせておかなきゃいけないんだ。


「おいイツキ! どこに行くんだ!」


 教官に呼ばれたが振り返らなかった。

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