新世界の歌 11話 分霊
目を開けなさい
私のいとしい子
白き花咲く野辺であなたは見るの
うつくしいものが飛ぶのを
風はおどり
大地はふるえ
水はさざめき
そして炎は野辺を焼くでしょう
でもあなたは輝き
燃えずに輝き
うつくしいものは囁くでしょう
わが主
そしてうつくしいものは飛ぶのです
あなたを背にのせて飛ぶのです
あの、うつくしい竜は
『うっふ。アイダさん、僕まだ眠くないですよ。アイダさんの手作りコーヒーチョコいっぱい食べたから、目がぎんぎん。おいしかったぁ♪』
『いいからお眠りなさい』
わ。アイダさんの指ってほんと白くて長いなぁ。
もふもふのウサギな俺をだっこして、ふかふかの寝台にねそべるアイダさん。ほんと、綺麗な人だ。
『その歌好きですね。毎晩歌ってくれますけど、何の歌ですか?』
『メニスに伝わる子守唄です。幼い頃よく母様に歌ってもらいました』
俺のぷっくりお腹を優しく叩きながら、また歌いだす。まるで赤ん坊をあやして寝つかせるようなそぶりで。その声に魔力は全くないけれど、透き通った声音はとても綺麗で天使か伝説の歌姫のごとし。すごく安心しちゃって眠気に誘われる。
で、でもさ、アイダさん。俺はあんたの子供じゃないんだけど……。毎晩俺をウサギにして抱っこしながら眠るのって、俺を子供代わりにしてるのかなぁ。時々そう思うよ。
『竜を目覚めさせる歌ですよ』
『はい?』
『この子守唄は、竜を操るための歌なのです。太古の昔、メニスは竜使いでした。この星の恐竜たちを改良して使役したのです。すなわち、メニスが発明した韻律波動によって意のままに操ったわけです。この歌はその最たるものにして、一番古い韻律なのです』
ふええ。アイダさんくすぐったいよ。耳の裏かかないで。
『韻律は、音波振動によりさまざまな効果を具現させることができます。魔法の気配と呼ばれる特殊な場が、振動を伝達する際に劇的な反応を起こすのです」
うん。よく知ってるよ。岩窟の寺院で学んだもん。
『灰色の技には限界があります。ですが魔力を源とする韻律に不可能はありません』
そうかなぁ。トテカンやる灰色の技の方がなんでも造れそうな気がするよ? ほら、時の泉とかすごいじゃん。
『でも時間流は灰色の技自体が生み出すものではありません。泉はただ時間を「せき止める」だけです。それに、すでに在るものを変容させるのは至難です。専用の変換装置をいちいち造らないといけませんでしょう?』
ひゃ。アイダさん、耳に息かかったよ! ぞくぞくしたよもう。
『しかし韻律には、そんな手間は要りません。魔力を降ろした場に伝導する音波振動は、原子融合・剥離を促します。そこに材料となる原子がそろっていれば、なんでも生み出せます』
うん。原子融合と剥離。韻律とは……ざっくばらんにいえば、音波振動で原子を切ったり繋げたりすることだ。たとえば水をアルコールに変えるには、水素原子がふたつと酸素原子がひとつの構造体に、さらに水素原子を四個、炭素原子を二個繋げる。正しい音程から発せられる特殊な周波が、水と空気にある原子を切り離し、新しい物質に編み上げる。
でもさ。正しい周波数じゃないと狙った結果がでなくて、変な原子結合を起こしたりするしさ。だれもができることじゃないよ。魔力が必要不可欠だ。三次元の物質世界に干渉を及ぼす魔法の気配、すなわち「別次元の場」をまず顕現させないといけない。
「別次元の場」とは、死した魂が存在するあの世界のこと。三次元のこの世界とは表裏一体にして、普段は目に見えない世界だ。
魔法の気配が降りる、ということは裏の世界が視覚化されることだ。つまり二つの世界の境界が非常に薄くなる。魔力が強ければ強いほど、その境界は無に近くなる。
その状態で裏次元の世界が音波で振動すれば、表次元の原子も連動して動く。これが、韻律発動のごくごく基本的な仕組みだ。
『韻律は世界を創造する御技です』
たしかにそうで、すごいものだけど。灰色の技は、だれもが使えるんだよ。そっちの方がすごくない? ねえ、そんな寂しそうな顔しないでよアイダさん。なんでも造ろうよ。アイダさんと俺で、なんでもさ。
『だれもかれもが使えるから、アイテリオンは灰色の技に危険を感じたのですよ。魔力がない者でも空を飛べ、魔物を倒せる……神のごときあの人が創った世界が、自身では何の力もない者に壊される。これほどの屈辱があるでしょうか』
ひゃぁ。アイダさん、きついよ。そんなにぎゅうって抱きしめないでー。
『そうですね……造りましょう。私を棄てたことを、あの人に後悔させたいですから。でも……』
あ。アイダさん……。
『でも今度生まれてくる時は……私はすごい魔力をもってる子として生まれてきたいです』
アイダさん……。
『そしてあの人を鼻で笑ってやるんです。なんだ、こんなちんけな魔力しか持ってないのか、って』
な……泣かないで。ほ、ほら、涙吸ってあげるから……。
『……ありがとうピピちゃん』
――「ペピ」
あ。呼ばれた……。
「ペピ。私のペピ」
アイダさん……? じゃ……ない……
ああ、そうか。取引が終わったんだな?
起きます。今起きます、アイテリオン様。
俺はあなたの善き魔人です。
目を開ければ紫の双眸。銀の髪の美しい人が微笑を浮かべてのぞきこんでいる。むっくり上半身を起こして周囲を確認。だだ広い、何もない石の床の広間。ずらりと並ぶ円柱から、黄昏の陽光がさしこんでいる。
「ペピちゃん!」
おぶ。となりの棺からカルエリカさんが文字通り飛び出してきて、俺に抱きついてきた。
「ペピちゃん、無事だったのね。よかった!」
ああ、なんてやわらかい弾力。女性であることを意識しているエリカさんの肢体はほとんど女性化している。胸はすてきにぼんっと……はうう。鼻血出そう。
もうひとりの魔人、マルメドカくんも寝ぼけまなこをこすっている。
交渉場所の湖には、小島がひとつ在る。そこは大昔から「だれのものでもない場所」とされている。永世中立国のファイカ同様、大陸諸国の交渉や条約締結の場としてたびたび使われてきた所だ。
島には神殿のごとき合掌造りの屋根の白亜の建物がひとつ。列柱が並ぶ方形の建物には、大広間しかない。各国の使節はその周りに天幕を張って滞在するのだが、兄弟子様たちもきっとそうしていることだろう。俺がここにこうしている、ということは、ウサギたちを乗せたポチは島へと渡る水上橋を渡って、無事に島に上陸しているはずだ。
はるか高みにある天井の梁から、ぴいぴいと鳴き声がする。うわ。鳥の巣があるぞ。なんだか裏寂れていて、のどかだなぁ。
「アリスルーセルを先方に引き渡しました。あの子をわが魔人とすることができぬのはとても残念ですが、あなたがたを取り戻せましたから、よしといたしましょう」
アイテリオンはにっこり上機嫌だ。アミーケを魔人にする……やはりそんなことを企んでいたのか。たしかに一番ひどい制裁ではある。
しかし魔人を三人取り戻した上に、ヴィオがウサギ軍団を連れて加勢しにきたと思い込んでいるようで、あまり残念がってはいないようだ。
「ですが……」
ん? アイテリオンが困ったようなため息をついた? も、もしかして俺の心臓がオリハルコン製だってもうばれたとか?
「ひとり、困ったものがついてきてしまいました」
――「そんなこと仰いましても。僕は魔人ですので」
!!!!?????!!!!!????
「いいえ、違うでしょう?」
ちょ……
「いいえ、僕は魔人です。魔人は、メニスの王に統制されねばならぬとききました。ですので僕はあなたのおそばにつきます、アイテリオン様」
ちょっと待てええええええ!!!!!!
あんぐり口を開ける俺の視界を、あざやかなピンク色の物体が占める。
超迷惑そうなアイテリオンの白い衣の袖をぎっちり握ってるのは……
ウサギ頭の変態オヤジ。
そいつは、抑揚のないとても冷たい声を発した。
「この魔人ペペ。誠心誠意、あなたさまにお仕えいたします。わが君」
「あなたは魔人ではないと思いますが? それにぺぺさんと名乗りましたがそうではありませんね? アスパシオンのペペは時の泉に封印されていますから、あなたは全くの別人でしょう?」
アイテリオンがピンクのウサギ頭の変態を前にして、すん……ごく嫌そうな顔で眉をひそめる。
「どなたかは存じませんが、勝手に私についてきてはいけません。メキドの摂政のもとにお帰りなさい」
「いやです。どうか僕を統制してください。僕は魔人のぺぺです」
お……落ち着け俺。
深呼吸だ。
今目の前にいるピンクのウサギ頭のこいつは、我が師ではない。
我が師の理想とする、我が師を深く深く愛する超きもいぺぺ、である。すなわち我が師が都合よく思い描く、我が師の望み通りに動く超気持ち悪い物体だ。
こいつが何を企んでいるのかは、一目瞭然。
愛する我が師の仇打ち。
そ、それしかない、よな?
き、気持ちは……わかる。わかりたくないけどわかる。いやでも俺は、ウサギ軍団を抱えてるヴィオを見張ってろと、ウサギのピピの姿でこの人に言ったんだけど……。
我が師の遺言パワーで念を押したはずなのに、きもペペの我が師への想いはそれにも勝るって……ちくしょうクソオヤジ! どこまであいつの理想の弟子を演じるつもりなんだよ!
ああああ、背中がぞくぞくする。肌が粟立つ。これから死闘をくりひろげようというのに、完全に足手まといだ。ど、どうしよう。
と、とりあえずきもぺぺをアイテリオンから離さないと。でないと俺の義眼のとばっちりくらっちまう。これ限界値ないから効果範囲広いんだよ。一緒に我が師の魂を吸い込んじゃったら目も当てられない。
「おい。魔人じゃないだろおまえ。嘘ついてアイテリオン様にひっつくな」
我が師の肩をつかんで、ぐいと押しやる俺。ここは心を鬼にして、力ずくでも引き離――
「おだまりなさい」
え?
『雷放て煌めきの精霊!』
!?!?
ばりばり? なに……? 今の炸裂音。
え……?!
俺、雷電散らしながら吹き飛んで……る? ちょ……ちょっと! ちょっと待……!!
「ほう? 少しは魔力があるようですね」
「少しでは、ありません」
ひっ! ピンクのウサギ頭がこっちに右手突き出してる。
「ごらんください。絶対お役に立てますよ」
ていうか。俺、円柱に激突してびしゃっとか音たてたよ。ち、血が出ちゃったよ。銀色の血。やばいよ。オリハルコン入りってばれちゃうよ。おい! ちょっと! やめろピンクウサ――
『炎放て怒りの精霊!』
……。
……。
……。
……ぶほっ。あの……俺、魔人じゃなかったら瞬時に消し炭なんですけど……。
「ペピちゃん!」
ああああ、カルエリカさんが心配してこっちに駆けつけてきちゃった。もうひとりの魔人マルメドカくんも走ってきて、俺を助け起こしてくれちゃってる。ひいい、炎で血が焼けて蒸発してよかった。なんとか正体ばれずにセーフ。
だけど……
『氷放て嘆きの精霊!』
「ちょおおおお!」
「きゃあ!」
「うわあ!」
ふっ……ふざけるなぁあああ! ピンクウサギ!
俺たち三人の魔人、瞬時に凍結?!
ちくしょう! なんて魔力だよ。あいつ本気だしてるだろ!
『岩で貫け憤怒の精霊!』
うがぁあああっ! 床から岩が突き出してきたぁああ! 刺さる! 刺さる!
……。
……。
……。
……げふっ!
な、なんとか義眼は死守したけど……冗談きつすぎるぞ、ピンクウサギ!!
「四大精霊をいとも簡単に繰り出すとは。精霊とたくさん契約しているのですね」
あ……魔力至上のアイテリオンの貌がころりと変わった。い、一目置いたってこと?
「どうか僕を雇ってください」
「でもあなたはごく普通の人間でしょう? 私が統制できるのは魔人だけです」
「え? それはおかしいです。僕は魔人のはずです」
いやそこで、うーんとウサギの顎に手を当てなくていいから。
マジメに考え込まなくても、魔人じゃないから。
百パーセントちがうから。可能性ゼロだから。あんたは普通の人間だから!
「何か、勘違いをなさっているのでは?」
「いえ、僕はたしかに……まさか何かの拍子で人間に戻ったんでしょうか」
戻らないから!! 拍子レベルどころか、そんな奇跡なんて絶対ありえない。
あんたはもともと魔人になってないんだ、お師匠様。だからいい加減気づいてもとに戻ってよ……。
「うーん……わかりました。では僕を、もう一度魔人にしてください。今すぐここで変若玉を出して、僕にください」
え。
ち、ちょっと待て。なんでそうなる。そ れ は や め ろ。
輪廻できなくなるんだぞ。永遠に、未来永劫そのむさいおじさんのままになっちゃうんだぞ。それにアイテリオンのいいなりになってしまうじゃないか。
それは、絶 対 や め ろ。
いや、やめてください。お願いします。ど、どうかそれだけは……
「なるほど。そうまでしてこの私に仕えたいのですか」
「だ……だめですアイテリオン様!」
「ペピ?」
それだけは、絶対……
「こんなえたいのしれない者を魔人にするなんて、いけませんっ!」
命がけで阻止しないと!
お師匠様が変若玉もらって不死身になったら、俺、永遠に逃げられないじゃん!! 我が師とラブラブ・禁断のびーえる生活なんて、冗談じゃないっ!!
たしかに少々魔力があるぐらいではね、とアイテリオンが苦笑している。
だ、だよね? 我が師はかなり魔力があるけど、こ、このぐらいのはメニスじゃざらにいるよね? わざわざスカウトなんてしないよね?
ホッとしかけた俺の耳に、ばりばり、と凄まじい音が割り込んできた。
「少々の魔力、ではありません」
ピンクウサギの右手が発光し、あたりに一段とおそろしい魔法の気配が降りてくる。ウサギ頭の我が師は、こともなげにさらっと言ってのけた。
「大陸一の、魔力です」
一本完全に崩れた円柱のそばで伸びる三人の魔人。その中のひとりである俺は、呆然とメニスの王に対峙するウサギ頭の我が師を見つめた。その右手はいまや光を収束させてまばゆく輝いている。
こおっ、こおっとなんとも不可思議な響きがそこから聞こえる。精霊の息吹だ。アイテリオンがほう、と声をあげている。
「これは、光の精霊ですか?」
「はい。あの世の次元から召還し、すでにわが眷属に加えております」
「すばらしいですね」
「闇の精霊も使えますよ。全精霊を制覇しております」
「それは大したものです」
精霊とは神級の御霊のことで、あちらの次元で常に燃えていたり光っていたりする。火山や気流、河川といったものの精神体だ。精霊召還術はその御霊の「ほんの指先」を三次元の物質世界に具現化する。
一度契約してしまえば短い数行の短詩でいともかんたんに呼び出せるけど、全属性と契約してるやつなんてそうそういない。せいぜい一種か二種といったところだろう。
しかしアイテリオンは驚かなかった。奴も数種以上の精霊と契約しているにちがいなく、まだまだそんなものは驚嘆するに値せず、と感じているようだ。
たしかに……たしかに、いま我が師が放ってきた精霊は、どちらかといえば格がそんなに高くない。みんな中級ぐらいだ。ひとつの山とか、一本の川とか。そんなものの精神体だろう。太陽や月といった星一個分の威力と存在をもつ超級の大精霊ではない。大精霊の全属性制覇だったら、さすがのアイテリオンも目玉を丸くするかもしれないが……。
「もし魔人にしていただけるのなら。僕の力はみな、あなたのものです」
「そんなに決心が固いのなら、魔人にしてやってもよろしいですが。しかしそうなると、あなたはこの先永遠に死ねなくなります。輪廻にのることはかなわず、その姿でとこしえにメニスのために仕えることになるのですよ。それでもよろしいのですか?」
懇切丁寧に事前説明を垂れるアイテリオン。しかしピンクウサギの決意は変わらないようだ。
「僕はこの今生で輪廻できなくなりたいのです。なぜなら僕は、カラウカス様より魔力をいただいているからです」
え……?
「ですが転生してしまうと、この魔力は離れていってしまいます」
「おや? とういうことは、あなたは……」
アイテリオンは眉をひそめ。そして小首を傾げた。
「黒き衣のカラウカスのお弟子さん、ですか?」
「いいえ。アスパシオンのぺぺです」
我が師の答えにメニスの王はくすくすと苦笑した。
「岩窟の寺院のカラウカスは、かつて私と契約いたしました。私があの方に魂分離の秘法を教える代わりに、私はあの方から大精霊を一体、譲り受けたのです。あれはとてもよい取引でした。カラウカスは魔力がかんばしくない弟子に、おのが魂を植え付けて魔力を移植すると申しておりましたよ。そして私は……これを得たのです」
アイテリオンがブツブツと短詩を唱える。すると――
とたんに白い衣の導師の背後に、燦然と輝くまばゆいものが現れた。
その瞬間、俺たちは目がくらみ、息ができなくなり……恐ろしい熱を放つ光に包まれた。
『日輪のイスタール。すなわち、この星を照らす太陽の精神体ですね』
アイテリオンが誇らしげにのたまう声がびんびん響いてくる。
カラウカス様が、なんだって? 何を取引したって?
ウサギのぺぺはあの方の魂から造られたってのは聞いたけど。分けられた魂はひとつじゃなかったってこと? 分けられた魂のひとつは俺になり。そしてもうひとつは――
我が師に植え付けられた?!
魔力が芳しくない。
ウサギが大好き。
え……? なにこの符号。
一瞬、背筋にぞわっと、予感めいたものが走ったぞ……。
いや。いやまさか。たしかにわが師の魂は虹色で、俺の大事な人たちと色が似てるなぁって、思ったことは……ある。
でもアイダさんもレティシアも魔力はほとんどなかった。魔力値は魂の質によって決定されるものだから、生まれ変わってもそうそう変わるもんじゃない。俺が会った十歳の時のハヤトは、目が当てられないほど魔力無しではないと思ったし、まさか魔力すさまじい我が師が俺の奥さんの生まれ変わりとか、そんなはずないって確信してたけど……けど……。
かつてわが師が魔力を付与されたっていうことは……。
「すごいです! ああやはりあなたこそ、僕の主人にふさわしいです。どうかぜひ、変若玉を僕にください」
「ほう、すばらしい。日輪のイスタールをすぐ目の前にして、言葉を発することができるとは」
「これぐらい、わけもないことです」
「カラウカスの魔力はすばらしいですね。あなたは、カラウカスのハヤトでしょう? すなわち、導師アスパシオン……」
アイテリオンが目を細める。どうやら、我が師が兄弟子様を裏切って味方につこうとしている、と解釈したらしい
「わかりました。それほどの覚悟がおありなら。メニスの里に行く前に、あなたを私の魔人にしてさしあげましょう」
ひっ!
や……やめろ! やめてくれアイテリオン!
我が師が披露した精霊のレベルをかんがみて、もし反抗されても楽に御せる、と感じたのか? 自称「大陸一の魔力」とは、こんなものかと。
たしかにこの輝く大精霊とさっき我が師が放った精霊とでは、月とすっぽんだけど……けど……!
おいピンクウサギ! おまえも思いとどまってくれ!
魔人になって勝算があるっていうのか? もしそうだとしても、我が師が一生このままとか冗談じゃない。
も、も、もし万が一、わが師がちらっと懸念したとおり、レティシアの生まれ変わりでビンゴだったら……!
いっ……嫌だぁあああああっ!!!!
禁断のラブラブ・びーえる生活は絶対嫌だっ!!
あのきれいなアイダさんが……
俺のかわいい奥さんが……
こんなきもいウサギ頭の……ウサギ頭のおっさんで永遠に固定される?!
う……うあああああああああああああっ!!
それだけはまじで勘弁してくれええええっ!
「我が陣営についてくださるとは、とても嬉しいですよ。アスパシオン」
「アスパシオン? いいえ、それは師の名前です。僕はアスパシオンのぺぺです」
「どちらでもよろしいです。以前がどうであったにせよ、あなたは『私のもの』になるのですから」
「今すぐここでおねがいします。早くあなたのものになりたいです」
なっ?!
あ、あなたのものになりたい?! ふっ……ふざけるな。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!!
アイダさんは。俺の奥さんは。その魂は。み、みみみみみ未来永劫っ……
お、お、お、お……
「では……ここで変若玉を出してあげましょう。すぐに呑み込むのですよ」
「はい」
お……
――「俺のものだああああああああっ!!」
次の瞬間、俺は……
叫んでいた。
まばゆい光の中でお腹を抱えるアイテリオンに向かって。ピンクのウサギ頭の我が師に向かって。
いまだ顕現し続けている大精霊の日輪の光が、肌を焼く。召還された大精霊の力によって、手足がぶすぶす焦げていく。けれども俺はひるまず、二人の間に割って入った。
「俺のものにっ!! 手をだすなぁああああああっ!!!」
気づけば。
俺はウサギ頭の我が師を後ろに突き飛ばし、変若玉を出そうとうずくまるアイテリオンに両手を突き出していた。
左右の手にひとつずつ、渾身の想いで作り出したあの義眼を持って。
「消えろおおおおっ!!! アイテリオン!!!!」
※バレンタインデースペシャル? で ぺぺさんはアイダさんからチョコをもらったようです。もちろん義理チョコではありません。
アイダさん:「ピピちゃんたらホワイトデーにちゃんとお返しくれるのに、
なんで私たちって、キスすらクリアできないのかしら(悩)」×500回=7104年の惨事。
※アイダさんが歌っていたのは……
「白の癒やし手」で主人公レクルーが、
ヴィオやスメルニアの皇帝に歌ってあげた歌の歌詞つきのものです。




